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揚げ油争奪戦!「航空の脱炭素」SAFで気候変動対策 千葉・成田

ラッカ星人が探る!気候変動のいま③
  • 2022年11月16日

みなさんは、ご飯屋さんに行くと必ず頼んでしまうもの、あるラッカ?
ラッカ星人は、揚げ物、特に唐揚げが大好物なんだナ。きょう一緒に考えたいのは、その唐揚げを揚げた後の油(=廃食油)について。
実はこの廃食油がいま、航空業界の「脱炭素」の切り札として世界中で注目が集まっているらしいんだ。どうしてなんだろう?日本の空の玄関口「成田空港」を担当する成田支局の佐々木記者に聞いてみたんだナ!

廃食油がジェット燃料に!?

ラッカ星人

揚げたてのから揚げ、おいしそうなんだナ。で、揚げるのに使ったあとの油が廃食油ってことだよね。佐々木記者、なんで廃食油が、航空業界の脱炭素に関係あるラッカ?

佐々木記者

いま、この廃食油から、新しい航空機の燃料がつくられているからなんだ。“Sustainable Aviation Fuel(=持続可能な航空燃料)”の頭文字を取って「SAF」と呼ばれるジェット燃料で、従来の化石由来の燃料と置き換えると、温室効果ガスを約8割も削減できるとされているんだよ。

揚げ物などで使ったあとの廃食油(左)と、SAF(右)
ラッカ星人

ええ、唐揚げの油が、空飛ぶジェット燃料に!?それは驚きなんだナ!

佐々木記者

日本では、年間約40万トンの廃食油が回収されるんだけど、かつてはこのほとんどが家畜のえさインクなどの原料に再利用されていたんだ。でもいまは、3分の1が燃料として海外に輸出されていて、その結果、去年から急速に高値で取引されるようになり、価格はこの1年で約3倍になっているんだよ。

 

ラッカ星人

1年で3倍!?すごい値上がりラッカ!使ってる人は大変なんじゃないかナ?

佐々木記者

そうなんだよ。廃食油を回収している会社などでつくる業界団体の人も、心配していたね。

全国油脂事業協同組合連合会 塩見正人 事務局長
「廃食油の奪い合いというか、取り合いというか。国内の必要とされる方々に廃食油が十分出回っていない、というのは現象として出てきています」

急げ!航空業界

ラッカ星人

でも佐々木記者、そもそも航空業界の脱炭素って、なんで必要なのかナ?

佐々木記者

航空機は鉄道などよりも多くの温室効果ガスを排出しているとされているんだ。環境保護団体などの間では、「航空機を利用するのは恥だ」という意味の「Flight Shame(飛び恥)」という言葉まで生まれているんだよ。社会全体で脱炭素への動きが高まる中、航空業界は対応を迫られているんだ。

ラッカ星人

「航空機の利用が恥」とは…。

佐々木記者

ラッカ星人も知ってるよね、スウェーデンの環境活動家のグレタ・トゥーンベリさん。彼女は、アメリカ大陸で国際会議に参加するため、ヨットで大西洋を渡ったりしたんだよ。

ラッカ星人

航空業界は何とかしないといけないナ。具体的には、どうやって脱炭素を進めようとしているラッカ?

佐々木記者

民間航空機の運航ルールを定めるICAO=国際民間航空機関がことし10月に開いた総会で動きがあったよ。
✅国際線の航空機が排出する二酸化炭素を2024年以降に15%削減(2019年比)することや、
2050年に排出量を実質ゼロにするという目標を採択したんだ。
この目標を達成するため、各航空会社は、
✅燃費効率の良い機体を導入したり、
✅燃費を意識した飛行計画を組んだりしていて、
✅運航の仕方も空気抵抗を抑えるように努力しているんだ。
でも、これだけでは目標に届かないんだ。水素や電気で動く新技術の航空機の開発も進んでるんだけど、実用化にはもう少し時間がかかりそうなんだよ。

救世主は"SAF"

ラッカ星人

そこで、SAFに注目が集まっているんだナ!

佐々木記者

そう。いま、航空業界が脱炭素の切り札として注目されているのが、廃食油などからつくられるSAFなんだ。
排出量実質ゼロを実現する上で、新技術の導入や運航方式の改善では2~3割程度しか削減できないから、SAFの導入によって残りの多くの部分を達成することが期待されているんだよ。

ラッカ星人

脱炭素を進めようとする航空業界にとって、まさに切り札なんだナ!全ての航空機がこのSAFを使えば、空の脱炭素も解決するんじゃないラッカ!?

佐々木記者

そう思うよね。でもそんなに簡単にはいかないんだ。このSAF、商用に生産できているのは海外の数社だけで、まだまだ生産量が少ないんだ。いまは世界の航空業界で1年間に消費する燃料の0.03%しか導入されていないんだよ。

SAFをめぐる動き 国内では?

ラッカ星人

なかなか簡単ではないんだナ。佐々木記者は成田空港の担当なんだよね。日本国内では、いまどうなっているラッカ?

佐々木記者

日本は、「国内の航空会社の使用する航空燃料の10%を、2030年までにSAFに置き換える」と目標に掲げているんだけど、2020年から定期便でSAFを導入し始めた全日空が置き換えた割合は、現在のところ「0.1%未満」。まだまだ少量なんだ。日本航空でも、2024年から定期便でのSAFの使用を始めることにしているよ。

SAFをタンクに直接入れる設備(成田空港)
佐々木記者

ちなみに成田空港のジェット燃料は、タンカーがつく千葉港から、パイプラインで空港まで届けられているのだけど、SAFはまだ少量でしか確保できないから、タンカーで運ぶことがコスト面で難しいんだ。
だから、SAFをタンクローリーで滑走路沿いまで運んで、燃料貯蔵タンクに直接入れられるよう、空港会社はことし9月、タンクにつながるホースを新しく整備したんだよ。
空港側も、航空会社がSAFを入れられるように、SAF供給体制を急いで進めているんだね。

ラッカ星人

なるほど、少しずつは進んでるけど、なかなか一気にはいかないんだナ。

佐々木記者

さっきも説明したように、現在SAFを商用に生産できているのは、海外の数社だけ。日本は海外から燃料を買っているのが現状なんだ。SAFが国内で安定的に供給されないと、海外の航空会社を含め、国際線の日本への就航が停滞するリスクがあるんだ。
だけど、原料と技術さえあればSAFは国内でも生産することもできるんだよ。国内で作ることができれば、ジェット燃料を海外に依存せずに自給できるチャンスでもあるんだ。
そこで、日本の大手航空会社やエネルギー関連企業などは、ことし3月に「ACT FOR SKY」というチームを作って、国内でのSAF生産などに連携して取り組むことになったんだ。
国内での生産や、原料調達などに向けて動き始めていて、3年後に3万トンの国産SAFの製造が目標だよ。

「ACT FOR SKY」立ち上げの記者会見(ことし3月)
ラッカ星人

いろんな人たちが、「空の脱炭素」のために動き始めているんだナ。その中で、めぐりめぐって廃食油が足りなくなっているというワケなんだね。
あしたは、視線を海外に向けた「海外編」!シンガポールに出張してきた佐々木記者に聞くラッカ!

  • 佐々木風人

    千葉放送局成田支局 記者

    佐々木風人

    新聞社を経て、2018年入局。水際対策が緩和されて、いま航空機が戻りつつある成田空港。航空関係者がそろえて口にする次の課題は「SAFの導入」です。 

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