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重機“遠隔操作”で新たな人材“掘り起こし”

  • 2022年11月09日

「重機の遠隔操作」と聞いて、どんな光景を思い浮かべますか。多くの方は「災害現場での活躍」を連想したのではないでしょうか。実は私もそうでした。ところがいま、「遠隔操作」を使って、これまで建設業界と関わりがなかった若者らを働き手として呼び込もうという新たな動きが始まっているんです。キーワードは「誰でも」、「どこからでも」。さらに「月面基地」というワクワクする言葉まで。初めて国内で開かれた、重機を遠隔操作する技術を競う大会を取材してみました。

(千葉放送局記者 大岡靖幸)

さながら「eスポーツ」!?

先月、東京・六本木の高層ビル内の特設会場で開催された「e建機チャレンジ大会」。

「いいコーナリング!」

会場には軽快な音楽が流れ、「MC」=進行役が映像を実況。さながら「eスポーツ」の大会のようですが、動かしているのはショベルカーなど本物の重機です。六本木から直線距離で60キロほど離れた、千葉県大多喜町の山あいにある訓練施設の重機を遠隔操作しているのです。

ショベルカー
キャリアダンプ

操作するのはショベルカーと、「キャリアダンプ」と呼ばれる運搬車の2台。どちらも人が乗るタイプの一般的な重機ですが、操作レバーやペダルに遠隔操縦のための装置が後付けされていて、コントローラーと連動して動かせるようになっています。

写真提供 運輸デジタルビジネス協議会

重機には複数のカメラも取り付けられ、操縦席から見た「前方」や「後方」の映像、さらには「真上」視点の映像などをモニターで見ることが出来ます。これによって重機から遠く離れていても、周囲の安全を確認しながら操縦できるのです。

「遠隔操作」注目のワケは

重機の遠隔操作は、災害が多い日本で発展してきました。長崎県・雲仙普賢岳の火砕流後の復旧や砂防工事がその代表例です。現在まで「危険な災害現場」での活用が中心となってきましたが、いま、新たな利点が注目されています。

きっかけは深刻な人手不足です。3年後には建設業界全体で最大でおよそ90万人が不足するという試算もあり、「2025年問題」と呼ばれて危機感が高まっているのです。

どうすれば担い手を増やせるのか。着目されたのが「遠隔操作」でした。遠隔操作は、実際に重機に乗って操縦するより簡単に、「誰でも」「どこからでも」操縦できるといいます。「自宅やオフィスから」「安全に」作業できるなら、これまで建設業に関わってこなかった若者や女性らにもアピールできるのではという発想です。

さらに、スケールの大きな話も。アメリカを中心に日本やヨーロッパなども参加し、人類を再び月に送ろうという「アルテミス計画」。月面着陸だけでなく、月面上に拠点を造る計画で、日本も協力することになっています。これを受けて、2030年代には月面にある重機を遠隔操作して月面基地の建設を行うことなどを目指す研究が、産官学の協力ですでに日本でも始まっているのです。

「素人」が重機を動かす

今回の大会は、こうした遠隔操作の特徴を実際に試してみようと開かれました。参加した計5チームのうち、重機操縦の経験者は1チームだけで、あとの4組はeスポーツのプロ選手や大学生、消防のレスキュー隊員など、いずれも未経験者です。こうした「素人」が参加することで、重機の操縦経験がなくても簡単に遠隔操作できることを示そうというのです。

写真提供 運輸デジタルビジネス協議会

大会では、選手2人が重機2台をそれぞれ遠隔操作します。ショベルカーで土をすくって運搬車に積み込み、コースに沿って決められた場所まで移動したあと、土を降ろすという一連の作業を行い、終了までのタイムと正確さを競います。
参加者たちはみな巧みにコントローラーを使い、好タイムを出していきました。
モニターとコントローラーの組み合わせが、ゲームに似ているため、ゲーム好きな人にはより親しみやすいのだといいます。

若者の挑戦

今回の取材で、大会に参加した1人の若者と出会いました。千葉県に住む25歳の玉手嵩史さん。去年春、就職先が決まらないまま大学を卒業し、その後も就職活動を続けましたが、思うようにいきませんでした。現在は、千葉市にある就労支援を行う施設「ちば地域若者サポートステーション」で、コミュニケーションの訓練や面接指導などを受けながら、就職に向けて努力を続けています。

玉手嵩史さん

大学卒業後、就職活動を頑張ろうとは思っていたんですけど、結局何も活動できず、どんどんネガティブになって。最後の方は自分なんかが働くことはできないんじゃないかという気持ちになっていました。

「ちば地域若者サポートステーション」での面談

サポートステーションに通うなかで今回の大会を知り、将来につながるのではという期待感から参加を決めました。

大会当日、玉手さんは運搬車の操作を担当。モニターに映し出された映像を見ながら、コントローラーのスティックを動かします。本番までに2回練習しただけでしたが、すぐにコツをつかみ、曲がり角もスムーズにクリアしました。途中、運搬車の不具合というアクシデントもありましたが、チームで乗り越え、「敢闘賞」を受賞しました。

玉手嵩史さん

本当にいい経験になりました。最終的な目標として、月での建設作業を遠隔で行うという話も出ていましたが、未来の図鑑とかで見ていたものが本当にすぐ目の前に来てるんだなと。今回の体験を踏まえて、自分でもやってみたいという気持ち、出来るんじゃないかっていう気持ちも持てましたし、建設業界への就職も今後ぜひ考えていきたい。

大会の主催者側も、建設業界の新たな担い手の確保に向けて手応えを感じています。

「運輸デジタルビジネス協議会」小島薫 代表

建設業界に関わってこなかった方々に挑戦してもらいましたが、想定以上の素晴らしいタイムで、可能性を感じました。今後は在宅で勤務できる可能性もあるので、介護とか育児中のように時間が限られている人にとっても、働く可能性は広がったのかな、広げられるのかなと思っています。

取材後記

取材した玉手さんとの雑談で印象に残った言葉がありました。「重機の遠隔操作って、このまま進化するとロボットの操縦も出来そうですよね」。私もそう思いました。某ロボットアニメに出てくる無限軌道付きのロボットなんて、重機の延長に見えます。そんな夢さえ語りたくなる重機の遠隔操作ですが、今後、一般社会で広がるための課題として、安全性の確保や操作する人の資格など統一的なルール作りが必要になるとのことです。今後、国土交通省などを中心に検討が進む見通しです。

  • 大岡靖幸

    千葉放送局 記者

    大岡靖幸

    千葉市政や遊軍を担当。リハーサル時に遠隔操作を体験しました。タイミングなどを教えてもらいながらでしたが、本当に簡単に動かせて、これが社会に普及したらすごいと実感しました。

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