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“身近な水辺”で何が 中1男子が溺れ死亡 千葉・生実川

  • 2022年09月16日

ことし9月、千葉市を流れる小さな川で中学生が溺れて亡くなりました。
夏になるとザリガニ釣りの子どもたちがよく訪れるという“身近な水辺”。
何が起きたのか、現場を取材しました。

(千葉放送局記者 荻原芽生)

事故は“身近な水辺で”起きた

事故は9月2日午後2時50分頃、千葉市中央区を流れる生実川(おゆみがわ)で起きました。
市内に住む中学1年生の男子生徒が同級生2人と川で遊んでいたところ、取水用のパイプに片足を吸い込まれて、抜け出せなったのです。
通りかかった近くの住民が異変に気づき、119番通報。
3分後には消防が駆けつけ、救助を始めましたが、当時の水深は75センチほど。生徒は足の付け根まで吸い込まれ、顔が水につかった状態だったといいます。
およそ30分後に助け出されましたが、まもなく亡くなりました。

事故があった生実川 当日撮影

私が現場に着いた午後6時ころ、川は前日からの雨で増水していました。
川底近くにあるという直径30センチの取水用のパイプを探しましたが、見当たりません。
時折、小さな渦が発生し、ゴーーーっという音とともに水が吸い込まれていくのが見えただけでした。
しかし、なぜ、こんなところに取水口があるのだろうかーーー。

時折、渦が発生していた

なぜ、こんなところに

インターネットで検索すると、現場付近の画像を見つけることができました。水位が低く、草が刈り取られた時期に撮影されたとみられ、水路のような川筋に取水口とみられる突起物があることが確認できました。

赤丸で囲った部分に突起物 GoogleEarthより

3日後の9月5日、再び現場を訪れました。
晴れが続いたこともあり、水位は幾分下がり、川の様子は見えやすくなっていましたが、ネットの画像にあった突起物をはっきりと確認することができません。

後日、水位が下がるのを待って訪れると、確認することができました。
取水口は小さな土手を下り、生い茂る草を10メートルほど分け入った先にありました。
水が流れている水路はコンクリート製で高さは40センチ。その壁の一部を取り除き、突き出るように設置されていました。
はっきりと見えなかったのは、パイプの先端が壊れていたためでした。その後、消防隊員が救出の際、ハンマーで打ち壊していたこともわかりました。

取水パイプ 9月14日撮影

子どもの“遊び場”だった

地域の人に話を聞くと、ふだんの水の深さは20センチから30センチほど、水路の中をゆっくりと流れていたといいます。夏になると水路の周囲に草が生い茂りますが、ザリガニや魚を捕まえようと網を手にした子どもたちがよく訪れていたといいます。
事故当日は前日からの雨で増水していたものの、水の深さは75センチほど。
“身近な水辺”で子どもが亡くなる水難事故に驚きの声が聞かれました。

【近くに住む40代の女性】
夏休みになると網を持って水遊びをする子どもを見かけます。でも、取水口があるなんで知りませんでした。子どもだったら入りたくなってしまう場所ですよね・・・。

【近くに住む58歳の男性】
ここに40年も住んでいますが、取水口はまったく知りませんでした。危険を知らせる看板もないし、立ち入り禁止にもなっていません。ここで、子どもが亡くなってしまうとは、ショックです。

取水口はなぜ、設置されたのか

川を管理する千葉市は生実川固有の理由があったといいます。
今の生実川は現場近くにある農業用貯水池の「生実池」に流れ込み、その後は、池の反対側から東京湾に向けて再び流れています。

GoogleEarthより

海へ向かう下流部は、大雨などで池があふれるのを防ぐため、人工的に造成された川でした。
ただ、池から放流されるのは、水位が一定レベルを超えた時に限られるため、下流部は通常、水が少なく、流れがよどむことが多かったことから、大量の藻が発生するなど環境面で課題が指摘されていました。
さらに、その後、上流部で宅地開発が進み、池に生活排水が流れ込むようになり、水質が悪化。池の水は農業用水に使われることから対策が必要になったということです。
こうした課題を解決するため、市は上流部と下流部を排水管でつなぐことを決め、1996年に取水口が取り付けられたということでした。

GoogleEarthより

事故のリスク 千葉市の認識は

現場には取水口の存在を知らせる看板や立ち入りを制限する柵などはありませんでした。
千葉市は増水時に人が立ち入ることは想定していなかったとしています。

【千葉市の担当者】
現場では6月と10月の年2回、草刈りを行うなど管理していました。
ただ、ふだんが川の水位が20センチ程度と低く、取水口付近の水圧(吸い込む力)もほとんどかかっていない状態です。
今回のように増水すれば、水圧が高まり、事故の危険性が出てくるわけですが、増水時に人が立ち入るということは想定していませんでした。
このため、立ち入り禁止にしたり、柵を設けるなどの対策はおこなっていませんでした。

千葉市は事故を受けて、立ち入りを禁じる看板を設置し、ロープを張るなど応急的な対策を講じました。今後、具体的な対策を検討したいとしています。

千葉市が設置した看板

具体的な対策はこれからだということでしたが、私は、取水口に金網などで覆う対策はできないのか、尋ねました。

【千葉市の担当者】
金網などのカバーをかけなければいけないという義務はありません。
カバーをかけると草や木などで目詰まりして、本来の水を流すという目的が阻害されるおそれがあるため、今回の検討では対象外になります。

事故を防ぐためには

河川の水難事故に詳しい、河川財団の菅原一成主任研究員は、増水時は川に入ってはいけないとした上で、自治体に対し、危険性を具体的に説明し、注意を喚起する必要があると指摘しています。

菅原一成主任研究員

【菅原さん】
「立ち入り禁止」と書かれた看板はよくあるのですが、これでは不十分です
例えば「ここには取水口があり、吸い込まれる危険があります」といったように、危険がどこに、なぜあるのか、はっきりと明示する必要があります。
河川を管理する自治体には子ども目線の対策が求められている。

菅原さんによると、2003年から2021年にかけて、全国で発生した水難事故は3311件。このうち、取水口の事故は5件。取水口は通常、人が簡単に近寄ることができない場所に設置するため、事故は起こりにくいといいます。千葉市によると、取水口があるのは事故現場の1か所だけだということです。菅原さんは、だからといって、注意喚起を怠っていいということではなく、事故が起きる前に対策に乗り出ることが必要だと指摘しています。

【菅原さん】
取水口付近は、水位が高くなると、水を引き込む力が強くなり、事故の危険性が急激に高まります。
過去を見ると、事故が起きてから対策に乗り出すケースが多く、自治体には「ふだんは水位が低いから安全だ」あるいは「増水した人は川に入らない」といった先入観を捨て、対策に乗り出して欲しい。
また、子どもや大人には、川遊びをするときは取水口に絶対に近寄らないこと、川が増水している時は絶対に入らないことを守って欲しい。

取材後記

 現場は子どもたちがよく水遊びをしていた場所でした。それにも関わらず、「想定していなかった」という千葉市の姿勢は首をかしげざるを得ません。子どもがみずから危険かどうか判断するのには限界があります。河川を管理する自治体は、改めて「想定外」がないよう事前の対策を徹底してほしいと強く思いました。
一方、こうした事故が起きると、周辺一帯を一律に立ち入り禁止にするケースもみられます。私が子どもの頃に遊んでいた場所も、いまでは閉鎖されたり、遊具が撤去されてしまったりしたところもあります。安全は優先されなくてはいけませんが、子どもたちの遊び場が安易に失われることは避けなければなりません。子どもたちが安心して遊べるにはどうしたらいいのか、千葉市の今後の対応に注目したいと思います。

  • 荻原芽生

    千葉放送局

    荻原芽生

    2019年入局。警察取材などを担当。山や川などの自然が好きです。

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