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台風15号から3年 人口減少進む被災地をみつめて 千葉 鋸南町

  • 2022年09月09日

千葉県を襲った令和元年の台風15号で、地区の7割以上の家が被災するなど、特に大きな被害を受けた鋸南町の岩井袋地区。屋根をブルーシートに覆われた住宅が建ち並ぶ景色が印象に残っている人も多いのではないでしょうか。あれから3年、被災した町はどうなったのか。記者が足を運びました。

(千葉放送局記者 坂本譲)

大きな被害を受けた地区は今

令和元年の9月に千葉県を襲った台風15号。記録的な暴風などで、県内の8万2000棟を超える住宅に被害が出ました。
特に千葉県南部の影響は大きく、このうち鋸南町では町の7割弱にあたる、2146世帯が屋根を飛ばされたりするなどの被害を受け、台風直後はブルーシートに屋根を覆われた家があちこちに見られました。

岩井袋地区

その台風から3年。被害を受けた現地はどうなっているのか。特に被害が大きかったと言われる、鋸南町の岩井袋地区を訪ねました。
トンネルをくぐり、坂を下ると眼前に広がる海。高台から眺めてみると、ブルーシートに覆われた住宅はほとんどなくなっていて、海風を感じられる町には、穏やかな空気が流れていました。
復旧作業はほぼ終わっていましたが、地区を歩いてみると、目に入ってきたのが飛び飛びで現れるたくさんの「空き地」です。住宅地に歯が抜けたようにポツポツと存在していて、なかには、5軒分の敷地が連続して空き地になっているところもありました。

空き地、その理由は

なぜこんなにもたくさんの空き地があるのか。地区の区長を訪ねることにしました。
久保田純史郎さん(70)は、台風で自身も被災するなかで、地区の復旧に携わってきました。

坂本記者と久保田区長
坂本記者

空き地の多さに少し驚いています。なんでこんなに多いんですか?

久保田区長

台風で被災した住民たちが、被害を受けて家を解体して、他の地区に出て行ってしまいました。自宅の目の前には台風以前は家が並んでいたのですが、全部空き地になってしまいましたね。

坂本記者

なぜみなさん地域を出て行ってしまったんでしょうか?家を建て直して住み続ける選択肢もあるのではと思いますが。

久保田区長

ここは高齢化が進み、独居の高齢者なども多い地域です。被災した家を公費で解体するのはいいのですが、改めて家を建て直すにもお金がかかるし、余生も残り少ない。それなら福祉施設に入る、他の地域に住む親族のところに移るといった決断をして、地域を離れていく同年代も多いんです。
若い家族も何世帯かいましたが、やはり建て直しの際の予算の関係と、仕事の通勤などに便利な地域に移りたいと都市部の賃貸などに引っ越して、ここを離れていきました。

町によりますと、台風以前の8月には岩井袋地区に120世帯220人が住んでいたといいます。しかし、3年経った現在、地区の人口は91世帯150人にまで減少しました。若い世代も離れたことで、地区の65歳以上の割合は、台風翌年に50%を超え、現在は55%だそうです。台風が、地区の人口減少と高齢化を加速させた形です。

代々続く祭がピンチに

かつては漁業や採石の町として栄えていた岩井袋地区。道ばたで遊ぶ子どもの姿も多く見られたといいます。しかし今、道を歩く人影はほとんど見られません。

急速な人口減少は地区の暮らしに影響を与え始めています。
岩井袋地区では地域にまつられている海の神に感謝を伝えるために、毎年7月に祭を開いてきました。若い衆がおみこしを担いで地区を練り歩き、たくさんの料理が振る舞われ、親族みんなが集まって楽しむ、地域の一大イベントだったそうです。

しかし、
▼台風の被害もあって地域の住民が減り、みこしを担いだり祭の準備を行う人員が十分に確保できない
▼祭の経費は住民から集める区費などでまかなっていたが、住民が減ったことで費用が集まらない
▼祭の中心的な役割を担っていた人物が地区を去ってしまった
このようなことが原因で、あの台風以降、祭の中止を余儀なくされているといいます。

加えて被害をうけたのが、祭にかかせないおみこしです。保管していた倉庫の屋根が台風によって飛ばされて中のおみこしがダメージを受け、装飾などが壊れてボロボロになってしまいました。

久保田区長

みこしが汚いまま祭を開くことはできないでしょう。磨いたり、部品の交換などを考えると、数百万円はかかります。区の財政から捻出しようにも、これまでもトントンだったのに人が減り、収入も減ってるので難しいです。地域の縁を繋いできた大切な伝統ですし、開催できないのは辛いですが、今後も開催は厳しいです。

地域の住民からも残念がる声が聞かれました。

地区の女性

祭がなくなって若い人の声が聞こえないのは悲しいですよね。遠方にいる親族もみこしを担ぎにきていたので、なくなったのはさみしく残念に思います。

人が減る不安 地区の未来は

人が減っているのであれば、逆に人を呼び込むことはできないのか。目の前に広がるオーシャンビュー、アクアラインを使えば東京へのアクセスも悪くない。魅力たっぷりの場所だと思います。

坂本記者

郊外での暮らしに憧れる人にとっては絶好のロケーションじゃないでしょうか?空き地に新しい人が住むことも見込めるのでは?

久保田区長

ここは、空き地の多くが崖に近いことなどから「土砂災害警戒区域」に指定されています。このため、崖からの距離や、住宅の耐久性など、もし家を建てるにしても多くの課題があって、なかなか新しい人を呼び込むのも難しいんです。もともとあった家をリフォームするのはいいのですが、新しく家を建てるとなるとハードルが高いという背景があるんです。

区長は、地区の未来についてこう話しました。

久保田区長

台風以後は見ての通り空き地ばかりになったので、人がいない、歩いてる人がいない、それが一番さみしいですね。どこの地区も一緒だと思うんですが、少子高齢化、これが一番問題ですよね。人がいないのですから、立て直すにも良い方法が見つからないです。
正直、区長としては、観光施設を作ってそこだけが盛り上がり、住んでいる人たちにしわ寄せがいくということは望んでいないのです。ここは見たとおり、波が立っても中は静かな、良い湾なんです。この環境を変えたくないんです。
でも、そろそろ不安です。私としてはこのままなるべく、減少する速度を抑えてこの地区の生活を維持していく、それしかないです。

取材後記

台風15号から3年。被害を受けた地域のありのままの「今」を知りたいと、実際に足を運び、取材を進めました。台風によって急に姿を変えてしまった地域で、そこに住む人たちは様々な思いを抱えながら、生活を続けています。これからも千葉県を襲った大災害から4年、5年、さらに10年と、時が進んでいくと思いますが、現場に足を運び続け、変化に目を向け、その声を伝え続けていきたいと思います。

  • 坂本譲

    千葉放送局記者

    坂本譲

    2020年入局。これまで台風15号ゴルフ場鉄柱倒壊問題、放置空き家問題などを取材。物事の本質は現場にあると考えています。

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