ページの本文へ

  1. 首都圏ナビ
  2. ちばWEB特集
  3. 「100回以上搬送先を探した」…第7波、救急現場の悲鳴

「100回以上搬送先を探した」…第7波、救急現場の悲鳴

  • 2022年08月26日

救急搬送の出動件数が「過去最多」、搬送困難事例の件数が「過去最多」に。新型コロナの第7波で、いま全国の消防で救急搬送のひっ迫が起きています。医療機関の病床が埋まり、猛暑による熱中症などで出動は増加。救急隊に密着取材して見えたのは、想像以上に深刻な現実でした。

(千葉放送局東葛支局記者 間瀬有麻奈)

出動件数“過去最多”現場のリアル

市川市消防局

50万近い人が暮らす、千葉県市川市。新型コロナ第7波まっただ中の8月中旬、救急搬送の現場で、密着取材を行いました。

この日も救急搬送の通報が次々に入ります。

「90代男性、血中の酸素の値が低下」。
「40代男性、体に麻痺、ろれつが回らず」。
「80代男性、38度5分の発熱、濃厚接触者ではない」ー。

こうした救急出動は第7波に入った7月以降、急増。1日あたりの救急搬送の平均出動件数は、92件(7月1日~8月17日)。去年の同じ時期より18件、率にして24%も増えています。8月3日には1日の出動件数が129件と、過去最多となりました。

【市川市消防局救急課 林智貴 主幹】
「高齢者の急病による救急搬送の出動に加えて、新型コロナの第7波で陽性患者や発熱などの感染疑いの人たちの搬送も増え、さらに暑い日が続き熱中症疑いの患者も加わり、全体の出動件数が急増しています」

予備車も消防車も、事務職員も駆り出して

消防局ではこうしたなか、迅速に救急搬送を行うために、あの手この手を尽くしてい ます。通常使用する救急車13台に加え、車検などの際に使用する予備車両の2台も追加し、計15台で対応。

その予備車両には、普段は「事務仕事」を担当する職員が乗車しています。救急の資格がある職員が、この事態に対応するために、現場に出ているのです。

さらに「消防車」も救急搬送の現場に駆けつけています。救急車がすべて出払ってしまった場合に、搬送先が見つかるまでの一時的な待避場所として現場で使用するのです。容体の聞き取りや、場合によっては酸素投与、AED などの処置が可能となっています。

消防車が救急現場に出動するのは、これまでは多くても年間数件程度でしたが、この第7波ですでに200件近くにも及んでいるということです。

新型コロナ感染者用に「入院待機ステーション」

そしてもうひとつ、取り組んでいる対策が「入院待機ステーション」。新型コロナの感染者の搬送先がなかなか見つからない場合、ここにいったん収容します。

ステーションがあるのは、市内の「少年自然の家」。ふだんは、子どもたちの学習施設として使われている場所ですが、新型コロナ感染拡大に伴って臨時休館し、この場所を活用しています。 

そこに、災害時に避難所で使用するテントを設置し、医療用のベッドや、心電図や血液中の酸素の値を測る機器を置いています。このステーションで、患者に酸素投与などの応急的な対応をしながら、一時的に待機してもらい、受け入れ先の医療機関が見つかれば救急車で搬送します。

ステーションには救急車の酸素量を温存する目的もあるといいます。救急車に積んでいる酸素ボンベは2台で、使用できるのは最大で3時間40分あまり。消防署では酸素の補給はできず、出動が頻繁に続くなか、緊急事態時に救急車が「酸素切れ」となってしまうのを避けるため、ステーションの活用を進めているということです。

ステーションを使い始めたのは去年の9月からですが、第7波では利用が急増し、8月17日までの1か月半ほどの間で、すでに16回。感染の第6波のときにはおよそ3か月で12回だったのに比べ、倍以上のペースです。

搬送先を探して“100回以上電話”

救急車の増車、消防車の出動、入院待機ステーション…。必死の対応を続ける消防局ですが、それでも、出動件数の急増と医療機関の病床ひっ迫で、患者の受け入れ先がすぐに決まらない「搬送が困難な事例」が大幅に増えています。

電話で搬送先を探す救急隊員

取材をした日も、40代の男性の受け入れ先を探すのに苦労し、9回目の電話でようやく決まりました。

去年は1年間で1000件あまりだった「搬送困難事例」。ことしはにすでに1500件を超えていて、このうち第7波に入ってからが420件を占めています(7月1日~8月17日)。発熱など新型コロナに似た症状や、入院が必要な急病での救急搬送で、受け入れ先を探すのに時間がかかるケースが目立っているといいます。

市川市消防局の救急課で主幹を務める林智貴さん。今は隊員たちを教育する立場の事務方ですが、第7波では予備車両に乗り、再び現場に出動しています。救急現場歴が28年にもなるベテランの林さんでさえ、今の救急搬送の現場は、これまで経験したことのない状況だといいます。

【市川市消防局救急課 林智貴 主幹】
「7月末には、PCR検査で陰性だったものの発熱がある男性の搬送先を探して、電話で100回以上も病院に問い合わせたケースがありました。また8月初めにも、急病で動けなくなった男性の搬送先を見つけるために100回以上問い合わせ、11時間近く待機を強いられたケースもありました」
「搬送先を探している間に容体が急変することもあって、8月は心肺停止に陥ったケースもありました」

8月のある1日の隊員たちの出動記録です。救急搬送の現場から、また次への現場へ、出動が続いているのがわかります。一度出動に出ると休む時間がないことも、増えているといいます。

【市川市消防局救急課 林智貴 主幹】
「非常に厳しい状況が続いていますが、現場の隊員たちはひとりでも多くの命を助けたい という思いでやっています」

私たちにできることは

この状況を受けて、市川市消防局では、ひとりひとりができることを心がけてほしいと呼びかけています。

「改めて感染対策や熱中症対策を心がけ、体調管理に気をつけていただきたい」
「救急車を呼ぶか迷う場合には『#7119』や、千葉県なら『#7009』など電話相談ができるサービスの利用を」
「ただし、体調が悪くなったり、明らかに様子がおかしい場合などには、迷わず119通報をしてください」

【市川市消防局救急課 林智貴 主幹】
「100件以上も医療機関に問い合わせるというのは、私も衝撃的でした。私たちは出動がつらいのではなく、助けられる命が救えないことがつらいんです」

取材後記

「いまの本当に深刻な状況を、多くの人に伝えて理解をしてもらい、なんとか改善する糸口を探したかった」。今回、市川市消防局が密着取材を受けた理由について、林さんはこう説明してくれました。実際に現場で取材をしてみると、すぐに処置が必要な一般の救急患者の命が危険にさられかねないという、想像以上に深刻な現状がありました。

コロナ禍3年目、どうしても“慣れ”が出てきて、意識が薄れてしまっている自分を反省するとともに、救急搬送の現場のひっ迫を少しでも解消できるように、感染対策や体調管理などの個人でもできることを改めて心がけたいと思いました。

  • 間瀬有麻奈

    千葉放送局東葛支局 記者

    間瀬有麻奈

     平成28年入局。8月から東葛地域を担当。 
    日々状況が変わりゆくコロナ禍で、これからも現場の声を伝えていきたいと思います。

ページトップに戻る