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動き出した国策 洋上風力で海はどうなる? 千葉・銚子

  • 2022年08月22日

数年後、銚子市の沖合に建設される30基以上の風力発電。脱炭素社会に向けて、国が再生可能エネルギー導入の「切り札」として強力に推し進めている計画です。水揚げ日本一の漁港の「海」は今後どうなるのか?エネルギーが地域の発展につながるのか?現在地と今後の課題を取材しました。

(千葉放送局 岡本基良 岡根正貢)

都内に集まったのは・・・

千葉県銚子市、旭市、秋田県能代市、男鹿市、三種町、長崎県五島市・・・。
7月下旬、東京都内のホテルに集まったのは、一見何の関係もなさそうな全国8つの自治体のトップたち。これらは「国策」で洋上風力発電の建設が進められている自治体です。

洋上風力事業に参加する全国8自治体のトップ

8つの市町で、洋上風力に関する新たな協議会を設立することに合意。
千葉県から出席した2人の市長が口をそろえたのは「地域への貢献」です。

銚子市の越川市長

漁業との共生が絶対条件。事業者が支出する基金を漁業振興にあてていくことが第一の地域貢献で、観光振興や地域振興についても事業者に積極的に絡んでもらいたい。

旭市の米本市長

地元の産業振興や漁業の発展を考えてくれる事業者と協力し、漁協の皆さんと共通認識を持ちながら進めていきたい。

銚子の海で何が起きる?

日本一の水揚げ量を誇る、銚子漁港。
「イワシ」「サバ」「マグロ」・・・さまざまな「海の幸」が地域を支えてきました。

水揚げ量日本一の銚子漁港

その「豊かな海」である銚子市と旭市の沖合で行われる洋上風力発電。
4000haの遠浅の海に、三菱商事などで作る企業の連合体が31基の風車を建設し、2028年から少なくとも20年間にわたって発電を行う計画になっています。
発電量は、一般家庭約28万世帯の消費量にのぼります。

洋上風力が建設される海域

この事業、最初から最後まで国が主導する、いわゆる「国策事業」です。
国があらかじめ海域を指定して発電事業者を公募。
「安定性」「継続性」「コスト」などの観点で国が審査し、事業者を選定します。
選ばれた事業者は、海域での発電事業を独占することができ、電力は国の法律に基づいて大手電力会社に全て買い取ってもらいます。

展望台から望む建設予定の海

銚子の遠浅の海は、海底に据え付ける風車の建設に向いています。
さらに、1年を通して風況もよく、洋上風力発電の「国策事業」第1弾に選ばれました。 

なぜ「国策」なのか

国はなぜ、洋上風力に力を入れるのでしょうか。
極端な高温や豪雨が相次ぎ、世界的に気候変動対策が求められる中、再生可能エネルギー(再エネ)の導入は、喫緊の課題です。導入が進まなければ、海外からの投資の呼び込みや国産の商品の付加価値に影響があるとされます。
日本は、2020年度に電力供給の約20%だった再エネを、2030年度に36~38%まで増やし、さらに「脱炭素社会」に向けて増やしていく計画です。

 

現在と将来の電源構成

再エネといえば、太陽光発電をイメージする人も多いと思います。
2020年度時点では、再エネの4割を占めていて、今後さらに増加する見込みです。
一方、太陽光ばかりが増加したことで、昼間に電力が余ったり、日が落ちる時間帯に電力が足りなくなったりする事態も起きました。
天候に左右されない地熱発電も期待されていますが、大がかりな開発が必要で時間がかかることがネックになっています。
このため、風任せとはいえ、昼夜問わず発電できる風力が注目されているんです。
風力発電は、遮るものがないところで効率的に発電できますが、陸上では山の上が多くなり建設にコストや手間がかかります。
そこで、海に囲まれた国土の特性を生かした洋上風力発電が、「再生可能エネルギー大量導入の切り札」「国策事業」となったのです。

洋上風力発電が電源構成全体に占める割合は現在、0.01%未満ですが、2030年度には2%近くまで導入が増える見込みです。さらに、2040年には、その8倍近くの水準まで事業計画を立ち上げる目標が掲げられています。

県内への経済効果は?

国が強力に推進する洋上風力発電。
今後の焦点は「地域の発展に貢献するのか」です。

洋上風力の発電事業は千葉県の海で行われますが、国が選定した発電事業者は大手商社と大手電力会社が組んだ連合体で、県内企業は加わっていません。

建設工事や部品製造、メンテナンスといった事業に県内企業が参入していかなければ、地域の産業振興や雇用拡大にはつながりません。

今年5月には、地元企業の参入を促すためのオンライン説明会を千葉県が企画し、175もの県内企業や団体が出席しました。 

千葉県が開いたオンライン説明会

風力発電の事業概要について説明され、今後は建設工事や部品製造、メンテナンスなどより細かい分野ごとの商談会も開催される予定です。

千葉県商工労働部
野村宗作部長(当時)

洋上風力発電事業が地域に根付くことを強く期待している。この一大プロジェクトに一社でも多くの県内企業の参入がかなうように努力していきたい。

一方で、地元からは参入の難しさを感じる声も出ています。

銚子の企業経営者

世界的な大手風車メーカーの厳しい技術基準をクリアするのは簡単ではなく、建設工事や部品製造に参入するための壁は非常に高いと感じている。

そうした中で、地元が参入を狙っているのは「風車のメンテナンス」です。
おととし、銚子市と地元の漁協、商工会議所は、発電開始後を見据えてメンテナンス会社を新たに共同出資で立ち上げました。 

風車のメンテナンスの様子

メンテナンスは、発電事業が始まった後も継続的に仕事があり、受注できれば長期にわたる地域の産業として根づかせられます。

また、銚子には、すでに陸上に20基ほどの風車があり、そのメンテナンスで得たノウハウを生かそうという狙いもあります。

屏風ヶ浦近くに立ち並ぶ風車

8月9日、銚子を訪れた熊谷知事に対し、市長はメンテナンスへの参入に地域を挙げて取り組む姿勢を強調するとともに、メンテナンスを行う船の拠点となる港の整備を県に求めました。

現場を視察する熊谷知事(画面中央)

地元の行政、漁協、商工会議所が一致して事業を後押ししている状況について、熊谷知事は県を挙げて「地域の発展につなげる」ことを約束しました。 

熊谷知事

首都圏の中では一番安定して強い風が吹く場所なので注目度も高い。銚子市、経済界、漁協がこれだけ一致団結してやるぞとなっている地域は貴重だと思うので、できる限り波及効果が高まるように我々も全力を尽くしたい。

千葉県では銚子沖のほかにも、いすみ市の沖合が将来計画を進めるための「有望な海域」と位置づけられているほか、九十九里町・山武市・横芝光町の沖合も「有望な海域」の候補に挙がっています。
洋上風力発電が「地域のためになる事業」となる先例を作り、今後続いていく他の地域への足がかりとなるのか、銚子沖の動きには全国からも目線が注がれています。

取材後記

7月まで環境省担当記者として、再エネ導入の課題について取材してきました。千葉に異動して必ず取材したいと思っていたのが、「国策」である洋上風力です。発電が始まるにはまだ6年間もの長い年月がかかり、その間には環境への影響調査が主に行われます。「国策」の行方を左右する重要な現場として、取材を続けたいと思います。(岡本基良)
 

三方を水に囲まれた銚子で「海を拓く」という言葉はこれまでたくさん聞いてきました。魚をとるだけではなくヨットやボートで遊ぶ。そして時代は進んでエネルギーの生産の地になろうとしています。子どもの頃から慣れ親しんできた目の前の海が時代時代に合わせて、どう変化するのか注目したいと思います。(岡根正貢)

  • 岡本基良

    千葉放送局

    岡本基良

    これまで各地の再エネを取材してきました。今回銚子を初めて訪れ、あまりに強い風に高いポテンシャルを感じました。

  • 岡根正貢

    千葉放送局銚子支局

    岡根正貢

    30年間地元を密着取材。魚や野菜だけでなく再エネも地産地消できることに期待します。

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