千葉県と東京都の境を流れる、一級河川の江戸川。下流の河川敷付近には、大量の「かきの殻」がたまっています。このかき殻で、水辺で遊ぶ子どもや釣りをする人がけがをするなど、問題となっています。地元の人やSNSで集まったボランティアによる回収作業が行われました。
(千葉放送局記者 金子ひとみ)
8月7日、50人ほどが参加して、市川市の江戸川河川敷で大掃除が行われました。参加者が回収していたのは、かきの殻。
栄養が豊富な海水が流れ込む環境を好んで生息するマガキを採った人たちが、中身だけ取り出して放置したものが積み重なってきたのです。
「小石は取り除いて、かきの殻だけを回収するようにしています。古い殻は固まっているものもあって、取り除くのが大変です。熱中症にも気をつけて、休みを取りながらやっています」
この付近は漁業権は設定されておらず、個人でかきを採ることは禁止されていませんが、殻は、放置せず廃棄物として処理する必要があります。
現場には、「カキの貝殻放置は迷惑」「カキ殻とその他の貝殻の不法投棄は犯罪」という看板も設置され、国土交通省江戸川河川事務所も巡回していますが、不法投棄はあとを絶ちません。ことし6月には、千葉海上保安部が集中的な取り締まりを行いました。
この付近は、釣りをする人や水辺で遊ぶ子どもたちが多く訪れます。河川敷の保全活動などに取り組む「妙典河川敷の環境を守る会」の藤原孝夫さん(81)によると、殻のとがった部分で手や足を切る人が相次ぎ、中には、深く複雑な傷で救急車を呼ぶケースもあったということです。
「今は夏休みで、親子でハゼ釣りにくる人が多く、この河川敷が1年でいちばん賑わう時期です。最近も、釣りに来た若い男性が、殻で足を切るけがをしていた」
「かき採りしていた人に殻を捨てないよう注意したら、外国の人なのか、『日本語がわからない』と言われたこともあります」
この状況を変えようと立ち上がったのが、中国から日本に来て、働いたり勉強したりしている若者たちでした。
「かきを採って殻を放置するのは中国の人が多いと聞き、見過ごせないと思った」、そんな思いから、SNSなどで、殻の回収活動を呼びかけたところ、賛同者が増えていきました。
「今、暮らしている日本において、社会をよくする活動をしたい、貢献したい、という思いから参加しました。自分たちの活動によって、不法投棄の抑止につながればいいのですが」
藤原さんら地域住民の協力も得て、多様な人たちが集まっての清掃活動になりました。
「小さいときから、このあたりでよく遊んでいました。川をきれいにしたいなと思って参加しました。こんなにもたくさんの殻があるんだ、と驚きました」
「知り合いから誘われて参加しました。私も、今住んでいる日本で役に立ちたいと思っているから、参加できてうれしい。きょうは早起きして来ました」
7時すぎからの2時間あまりで、トラックの荷台いっぱいのかき殻が回収されました。この殻は、肥料として再利用される見込みだということです。
「今回の活動で、大量のかき殻を回収することができ、本当にありがたいです。釣りにしても川辺遊びにしても安全に楽しめる河川にしていきたいです」
清掃活動を主催する中国出身のメンバーらは、「地元の人もたくさん参加してくださったのは、大きな励ましになりました。外国から来た人に関する社会問題は、私たちのような外国人自身が動くことで解決の道筋が見えてくるかもしれない。今後も活動を続けていきたいです」と話していました。
「今、自分が暮らしているこの国やこの地域の役に立ちたい」という中国やスリランカからの若者のことばを聞きながら、私自身の経験を思い返していました。かつて3年ほどインドに暮らした際、私も、「インドやインドの人の役に立ちたい」とささやかながら思いました。日本語を学ぶ学生に、ボランティアで日本語会話を教え、学生たちから感謝された際には、インドという国や人に一歩近づけた気持ちになりました。今回の活動に参加する若者たちの気持ちに近いものがあるかもしれません。
今回のかき殻回収のような活動を、ともに重ねていくことによって、「多文化共生社会」は創られていくのではないかと思いました。