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千葉市の認可保育所 「手ぶら」で送迎できる その訳は?

  • 2022年06月15日

私は、子ども(5歳の双子)を保育所に預け始めて4年。「紙おむつ」や「よごれもの入れ袋」を日々準備して名前を書き続けてきました。今は、ランチョンマットにコップ、フォーク・スプーンのセットとおしぼりを日々洗い、準備しています。月曜日の登園時と金曜日の降園時には、シーツや掛け・敷き用のバスタオルもあり、旅行に行くぐらいの荷物の量になります。きっと同じように、慌ただしい日課をこなしている保護者も、多いのではないでしょうか。 こうしたなか、保護者がこうした準備をする必要がなく、無料ですべての準備をしてくれる保育所があります。キーワードは「手ぶらで送迎できます」。

(千葉放送局 記者 金子ひとみ)

「手ぶら」で通える保育所 「子どもとの時間増やしてほしい」

 

千葉市中央区にある民間の認可保育所では、子どもが使う身の回りのもの一式を、無料で提供する取り組みを行っています。去年4月に昼寝用の布団とシーツの提供を始めたのを皮切りに、紙おむつとおしりふき、使い捨てエプロンに歯ブラシ、手・口ふき・・・と段階的に提供するものの範囲を広げてきました。ことし5月末からは、保育所内で着る服も用意するようになり、保護者は着替えの準備も不要に。「荷物のいらない保育所」となったのです。

運営会社「ハイフライヤーズ」 吉田りえ 事業企画本部長
「保護者の方は、毎日、こまごましたものの準備がたくさんあって、週末には布団の持ち帰りや天日干しもお願いしていました。『雨や雪の日は持ってこなくていいです』ということはなく、子どもと手をつなぐことをあきらめて、両手に荷物を抱えて登園してもらっていました。保護者にラクをしてほしいというよりも、子どもと手をつなぐ時間、子どもに向き合う時間を増やしてほしいという思いから始めました」

保護者の追加負担なし なぜできる?

 この取り組み、保護者の追加支払いはゼロ、無料です。保護者は、千葉市の基準に基づく、ほかの認可保育所と同じ利用料を払うのみです。保育所の運営会社が、1か月で園児ひとりあたり、最大7000円程度の費用を捻出しています。年間3000万円ほどかけていた保育士の採用活動コストをオンライン面接やSNS周知を活用したことで9割カットしたほか、千葉市内と成田市内という特定の地域に13の認可保育所を集中的に展開する「ドミナント方式」を取ることで、経営を効率化しているということです。

運営会社「ハイフライヤーズ」 吉田りえ 事業企画本部長
「この取り組みに関して、『保育士の給与を削っているのでは』とか、『おもちゃとか保育備品を購入していないのでは』とか、いろいろなご意見をいただくことがあるんですが、給与にも保育備品にも影響は出ていません」

保育所に大きな負担だった子どもの荷物の管理

以前使用していた「荷物チェック表」

取り組みを始めた背景には、保育士にとって子どもたちの荷物の管理の負担が大きかった状況がありました。以前は、保育士らが1日最低2回、それぞれの子どもがその日持ってきたものを確認して、書き記し、取り違えが起きないように管理していました。子どもたちの個人ロッカーで、それぞれの身の回りのもののストック量も確認して、保護者に個別に補充を依頼してきました。

「キートスチャイルドケア新千葉」 八木沼杏梨 園長
「保育所で統一のものを準備するようになって、朝、チェック表に持ち物をひとつひとつ書いていき、夕方にちゃんとあればマルをつけてという形で確認するという作業がなくなった、保育士の手間とプレッシャーが減りました」

よごれ物を回収するクリーニング業者

保育所側が準備することになった服や布団ですが、クリーニングに出して保育士の業務が増えないようにしています。

「心の余裕できた」保護者からは歓迎

この保育所を利用する保護者からは歓迎の声があがっています。

2歳半の女の子を預ける母親
「助かります。精神的、経済的、体力的にトータルで。ひとつひとつの準備は数分でたいした時間じゃないかもしれないけれど、その分の時間を子どもに与えられる、心の余裕ができました。気温差が激しいときの服をどうするかということを心配しなくていいのも助かります」

1歳2か月の男の子を預ける母親
「以前、他の保育所の一時保育を利用したとき、預ける前日にリストに沿って、着替え複数、おむつ、哺乳瓶など準備したんですけど、すごく時間がかかって利用する前に私の方が疲れちゃったことがあったんです。それに比べるとラクで、洗濯物が全然増えないのもすごくありがたいです」

待機児童ゼロに 保育所を選ぶ基準は

千葉市では保育所などの空きを待つ待機児童が11年前の2011年には350人ほどいましたが、その後、減少して、現在はゼロです。
少子化が進む一方で、各地で保育所の開業や拡充が相次ぐ中、こうした独自のサービスが、保育所を選ぶ上での利用者の選択基準になるという声もあります。一方、保育や子育て支援に詳しい専門家からは。

恵泉女学園大学 大日向雅美 学長
「保護者に過度な負担がかかっていると思うので、こうした取り組みで親がリラックスして子どもに向き合い、手をつないで通えるようになるのはいいことだと思います。 ただ、待機児童が少なくなる中、一部の保育所が選ばれるために行うサービスではなく、すべての認可保育所が行う当たり前のエッセンシャルな取り組みになってほしい。そのために行政側が運営費を補助するための検討も必要だと思います」

取材後記

 手ぶらで登園できる荷物のいらない保育所、今後広がってほしいという願いをこめて、取材しました。4年あまり前、私が保活をした際には、入りやすい年度初めの入園ではなかったこともあり、保育所を「選ぶ」という意識は正直ありませんでした。見学した印象に沿って希望を書いていった末、第4希望の小規模認可保育所への入園通知が届いた際への喜びはよく覚えています。保育所生活を始めるにあたり、準備する物の多さやルールの細かさには本当にびっくりしましたが、対応するのが、子どもの面倒をみてもらっている親の役割なのだと思ってきました。取材を通して、保護者と保育所の関係性は変わってきているのだなと感じました。取材した保護者の中には、「荷物が少なくて済むからこの保育所をピンポイントで選んだ」と言っている人もいました。
待機児童問題の解消が進む中で、保護者が保育所を選ぶ目が厳しくなる時代、また、保育所側による子どもの獲得競争が激しくなる時代なんだなあと個人的に考えていたところ、Eテレの「すくすく子育て」や育児向け雑誌でおなじみ、大日向雅美さんに大事なことに気づかされました。
6月15日、子ども政策の司令塔となる「こども家庭庁」の設置法が成立しました。子育てに関わる人たちの負担が減るための施策が生まれてほしいと心から思います。

  • 金子ひとみ

    千葉放送局記者

    金子ひとみ

    2006年入局。双子を育児中。小規模認可保育所の卒園後、今は大規模な認可保育所に通っています。同じ自治体内の保育所でも、準備するものが大きく異なることに驚きました。 

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