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定時制高校の生徒たち 困難を乗り越えて 「君の声が聴きたい」

  • 2022年05月16日

若い世代の声に耳を傾け、幸せを感じられる社会への手がかりを探るNHKのプロジェクト『君の声が聴きたい』。千葉県佐倉市にある定時制高校を取材させていただきました。多様な事情を抱えながらも、困難を乗り越えて前に向けて進む生徒たちの声を、ぜひ聴いてください。

(千葉放送局 記者 金子ひとみ)

定時制高校の今昔 さまざまな事情抱える生徒たち

定時制高校といえば、かつては働きながら学ぶ「勤労学生」が通う場でした。40年前の生徒の就業状況では、正社員がおよそ7割を占めていました。一方、近年は生徒が通う事情が多様化していて、国の調査によりますと、不登校の経験があったり、ひとり親家庭だったり、さまざまな事情を抱える生徒が多くなっています。

佐倉市にある県立佐倉南高校。およそ220人の生徒が定時制のクラスに通っています。
授業は、午前・午後・夜間の3部制。どの時間帯に通うかは、生徒自身が選ぶことができます。

今回、取材させてもらったのは夜間のクラス。大半の生徒が、1日4コマ、計3時間の授業を受け、4年間かけて卒業します。ほかの部の授業も取って、3年間で卒業することも可能です。生徒のほとんどが10代です。アフガニスタンや中国など外国にルーツのある生徒も増えていて、佐倉南高校でも日本語上達のための課外教室も設けられています。

授業の合間、午後7時からは夕食の時間があります。お弁当を持ってくる生徒と1食およそ400円で提供される夕食を取る生徒が半分ずつだということです。

夕食について生徒は
「きょうはカレーで当たり。シチューも当たり。マーボー豆腐もおいしい。豚汁は外れ、野菜炒めとかも外れかな」

「もう一度学びたい」 彩乃さん(19)

ふだんは明るい生徒たちですが、過去に苦しい思いをした人も少なくありません。この春入学した1年生の福島彩乃さん、19歳です。胸の内を語ってくれました。

福島彩乃さん(19)
「中学校になってから、いじめにあってそれから人づきあいがうまくいかなくなって、不登校になってしまったんです。それでも何とか卒業して、全日制の高校に通うは通ったんですけれど、それもうまくいかなくてやめて、ちょっとメンタル的にやられてしまって。どうでもいいやみたいな感じで、ずっとふてくされてたというか、いじけてました」

3年前、全日制の高校を中退し、コンビニエンスストアや仕分け作業などのアルバイトをしてきましたが、もう一度勉強がしたいと定時制高校を選びました。

福島彩乃さん
「もう一回頑張ってみたいなって。最初は『高卒認定資格』を取ろうと独学で勉強しようとしたけど、難しくて悩んでいたときに夜間定時制のことを知ったんです。無事入学できて1か月たち、夜間は1日の授業時間が短いし、無理に人と関わることがなくて、気が楽で過ごせる。でも、気があう子もいる。英語とか数学とか苦手だったんですけど、改めて勉強することで昔分かんなかったことが分かるようになったりしたので、すごく今勉強してて楽しいと思います」

定時制高校が人生を変える 蓮くん(18)

定時制に通うことで、自分の将来について考え方が大きく変わった生徒がいます。相京蓮くん、18歳です。バスケットボール部に所属する4年生です。去年2月に、47歳で亡くなった父親の弘幸さんは、蓮くんが小学生の頃から病を患い、働くのは難しい状態でした。

中学生の頃の蓮くん

家庭は経済的に苦しく、蓮くんは中学卒業と同時に、就職しようと考えました。当時はお金を稼げれば、どんな仕事でも良かったといいます。

相京蓮くん(18)
「団地に住んでいたので、周りの子、一軒家、マンション の子がすごい小馬鹿にしてくる、おまえ団地なんだろって。なんで俺こうなんだろうって、周りの子と自分のギャップみたいなのに疑問を持っていました。甘えられるところが俺にはない、であれば、自分でお金を稼いで、自分で変えたいという思いにつながっていった」

アルバイトする蓮くん

そうした中、働きながら通える定時制高校のことを知った蓮くん。牛丼店で、朝8時から夕方4時まで週に5日アルバイトをしながら、学校に通ってきました。しかし、入学当初は仕事と勉強の両立に苦労し、あきらめそうになることもあったといいます。

相京蓮くん(18)
「高校受験の面接の時に『二足のわらじでがんばります』とか、かしこまって言ったんですけど全然無理で。こんなにきついのかと思ったし、想像と違いすぎてきつすぎて」

「学びの場を守りたい」 先生とともに

そんなとき、支えとなったのが先生の存在でした。定時制高校では途中で退学してしまう生徒が少なくないのも実情で、その割合はおよそ7%。全日制のおよそ10倍です。

「学びの場を守りたい」と、一人ひとりの事情に合わせ対応をしてくれる先生たち。蓮くんにとって、疲れていても優しく、大きな救いになってきたといいます。

相京蓮くん
「僕が寝てるのを分かってるんだろうなと思うんですけど、起こすとか怒られたとか経験はなくて、ああ疲れてるんだね、配慮っていうか、優しさを感じます」

佐倉南高校夜間部 4年生担任 荒川昌一郎先生
「起きてほしいというのはあるけど、寝ている裏には全日制の子とはまた違う事情がある可能性が高いことも多く、慎重にならざるを得ません。信頼関係は、1回崩れてしまうと、なかなか元には戻らないですから。この学校がなかったら、どうなっていたか、分からないっていう子はいっぱいいるからこそ、成績とか欠席とかで簡単に閉ざしちゃいけない場所だと思ってます」

「定時制高校はセーフティーネットの役割」

5月12日 熊谷知事の記者会見

千葉県の熊谷知事も、多様な学びの場を保つ上で、定時制高校は重要だと話します。

千葉県 熊谷知事
「定時制高校は、学びのセーフティーネットの役割を果たしているとも考えられますので、大変重要だというふうに思っております。今後も生徒の環境や課題というのは刻々変化していくというふうに思いますので、学びの機会がしっかり保たれるように取り組んでいきます。それぞれの学校現場の要望に応えて、支援を必要とする生徒に適切な支援が届けられるよう体制整備に努めていきたいと思います」

蓮くん「視野広がり 大好きな映画の制作に」

定時制高校の卒業まで1年を切った蓮くん。新たな夢ができました。大好きな映画の制作に関わりたいと、奨学金の給付を目指しながら、卒業後は専門学校に進むつもりです。

相京蓮くん
「就職の道しかないと思ったときに比べて、自分が見ていた視野がとても狭いなと思ったんです。自分が決めたんだから責任は僕。勉強は絶対するし、高校もやめない。4年間、絶対通い続ける。赤点を取ったら、次はリカバリーして勉強して倍の点数取るぞって。自分で決めたことはがんばりたいという思いがあります」

取材後記

この記事は、5月13日の「ニュースウォッチ9」で放送しました。放送内容は、千葉放送局のホームページhttps://www.nhk.or.jp/chiba/の「千葉の動画コーナー」をご覧ください。
当初、定時制高校の生徒さんたちに自分の過去の話を赤裸々に語ってもらうことは相当難しいことなのではないかと考えました。でも、いざ質問を投げたとき、彩乃さんも、蓮くんも、ひょうひょうと、堂々と、経験や今の考えを語ってくれました。「不登校」と「経済的苦しさ」というそれぞれの過去の壁を乗り越えつつあるふたりは、本当に強いと思いました。いま何かに悩んでいたり苦しんでいたりする若い人たちへの、ふたりからのメッセージをお伝えします。

彩乃さん
「無理して嫌な環境で耐えるよりも、新しく自分が心を入れ替えて踏み出せる環境に行った方が自分が成長できると思う」

蓮くん
「周りからバカにされることがあっても、時間がたてばきっと大丈夫。他人は他人、自分は自分。自分が好きでやりたいことを、伸ばしてほしい」

  • 金子ひとみ

    千葉放送局 記者

    金子ひとみ

    千葉局4年目、県政を経て遊軍担当。香川県の県立高校を20年前に卒業。授業中に寝て、よく注意されていました。

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