ページの本文へ

  1. 首都圏ナビ
  2. ちばWEB特集
  3. 通学路の安全 小3娘を失った母親の思い 千葉・木更津市

通学路の安全 小3娘を失った母親の思い 千葉・木更津市

  • 2022年05月18日

白いドレスを着てほほえむ女の子。千葉県木更津市の安藤音織(ねおり)さんです。小学3年生だった3年前、通学路で信号無視の車にはねられ、亡くなりました。子どもが巻き込まれる交通事故をなくしたいーーー。遺族がその思いを聞かせてくれました。

(千葉放送局記者 杉山加奈)

時間はあの日で止まったまま・・・

事故は3年前の4月23日の午前7時20分頃、木更津市内にある通学路の横断歩道で起きました。
友人と2人で横断歩道を横断中、赤信号を無視した車が突っ込んできたのです。
運転手は「ぼーっ」としていたため、信号に気づかずブレーキも踏んでいませんでした。
思いもよらぬ突然の事故。音織さんは、よけることもできないままはねられ、亡くなったのです。

事故現場 音織さんは手前の横断歩道を青信号で左から右方向に渡っていてた

音織さんの母親、安藤正恵さんは、事故があった日の朝、玄関で見送った音織さんの姿が今も頭から離れないといいます。

音織さんの母親 安藤正恵さん

正恵さん
「まさか、朝『行ってきます』って言って出ていって、そのまま亡くなってしまうなんて想像もしていいませんでした。あの日から時間は止まったままです」


 

3年生の時に書いた音織さんの自己紹介カード

将来の夢は漫画家 

明るく、人なつっこい性格で誰にでも優しかった音織さん。
絵を描くことが大好きで、お気に入りのキャラクターや学校の思い出を絵にして、よく見せてくれたといいます。将来の夢は漫画家になることでした。

音織さんが描いた絵

正恵さん
「音織はよくカレンダーの裏とかに絵を描いたり、自由帳に描いてたりして遊んでいました。桜の花が好きでした」

音織さんのランドセル 側面は事故の衝撃で傷ついていた

ランドセルにあった漢字の宿題

四十九日が過ぎた頃、警察からランドセルが戻ってきました。
あの日、音織さんが背負っていたランドセルです。中には教科書とノートがそのまま残っていました。その一冊、漢字ノートに手が止まりました。書かれていたのは、一字一字丁寧に書かれた音織さんの文字。あの日学校に提出するはずだった漢字の宿題だったとわかりました。
正恵さんは、「宿題、頑張ったね」と褒めながら、赤鉛筆で大きなまるをつけてあげました

音織さんの漢字ノート 正恵さんがつけた大きなまる

母親として娘を守ることができたのではないかーーー。
ドライバーの信号無視が引き起こした一方的な事故だったとわかっていますが、今も自分を責めることがあるといいます。

正恵さん
「あの日、付き添ってあげればよかったかなとか、もし一緒にいたら、かばってあげられたかなとか。でも、信号無視でブレーキなし、そんな事故だったから、自分でもちょっと分からないですけど・・・・。後悔ばかりが頭に浮かんでしまって・・・」

音織のためにも前を向きたい

事故から3年。
正恵さんは今、音織さんのためにも、前を向く気持ちを強く持とうと考えています。今回、取材に応じた理由について、正恵さんは遺族の悲しみを知ってもらうことで、ドライバーに少しでも安全運転につなげてもらいたいと話しています。

「いつまでも私たちが悲しんでいては、天国の音織も安心できないだろうと。私たちが元気で暮らしている姿を見せることが、一番の供養じゃないかと思えるようになりました。事故をなくすにはどうしたらいいか、私たちの経験が考えるきっかけになってくれればと思います。音織の死を無駄にしないためにも、ドライバーの皆さんには、子どもや歩行者など交通弱者を思いやる運転をしていただきたいです」

取材後記

今回、正恵さんに交通事故で家族を亡くした当事者のお話を聞かせてくださいとお手紙を出したところ、「事故の遺族としてできることはないかと思っていました。通学路の安全について、何かお力になれることがございましたら、お話したい」と返事をくださり、取材が始まりました。
音織さんに会いたい気持ち、寂しい気持ちが消えることはないと思いますが、“いつまでも私たちが悲しんでいては、音織も安心できない、元気でやっている姿を見せることが一番の供養”と次第に思えるようになったという正恵さんの姿に心を打たれました。
音織さんは生前、木更津市を紹介するテレビ番組に少し映ったことがあり、「またテレビに出たいなぁ」と楽しそうにしていたということです。ところが、次にテレビに映ったのは、今回の悲しい事故のニュースでした。正恵さんは、今回の取材が、音織さんの「またテレビに出たかった」という希望を少しでもかなえるものになってくれたら、うれしいですと話してくださいました。
今後、ドライバーや子どもたちにも直接、遺族の思いを伝えていきたいという正恵さんを応援したいと思います。

  • 杉山加奈

    千葉放送局東葛支局

    杉山加奈

    2018年入局。音織さんが亡くなった交通事故は警察・司法担当だった当時に取材、現場に駆けつけていました。

ページトップに戻る