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ウクライナ侵攻 千葉県内のロシアゆかりの人は深い苦悩

  • 2022年03月16日

ロシアのウクライナへの軍事侵攻で、千葉県内に住むロシアにゆかりが深い人やロシア出身の人の苦悩が深まっています。
ロシアでバレエダンサーとして活躍し、袖ケ浦市でバレエ教室を開いている女性は、教え子がロシアへの留学をいったん見送ることになり、現在のウクライナ情勢を憂えています。

人生の半分をロシアで過ごしたバレエ講師の憂い

袖ケ浦市でバレエ教室を開いている砂原伽音さん(29)は、14歳の時、モスクワに留学して、現地のバレエ団でロシアやウクライナのダンサーと同じステージで活躍。現地で結婚・出産もして、おととし帰国するまで人生のほぼ半分をロシアで過ごしてきました。

バレエ教室 砂原伽音さん
「ロシア人はとても情に深い人たちです。学生時代、ホームシックになったときは、寮母さんの部屋に行って、一緒に寝てもらったこともありました。ロシア語の意味の深さや語感も大好きです。この戦争をやっているのはロシアじゃなくて私の中ではプーチン大統領がやっていると解釈するようにしています、そうしないと私、身がもたないので」

軍事侵攻のあとキエフに住む友人と連絡が取れなくなり、砂原さんは友人のことが心配でほとんど寝られないといいます。

バレエ教室 砂原伽音さん
「その友人の彼と私がペアで踊ることになって、彼女に申し訳ないと思って話をしに行ったら、『背丈のバランスがあるからしょうがないよね。私の彼をよろしくね』と言われたのはすごく思い出に残っていて、それから仲良くなったんです。お互い、外国出身で、いっしょにビザを取る手続きをしたこともあります。彼女のSNSがオンラインにならない。心配です」

レッスン中は、ウクライナ語とロシア語、それに日本語で平和を願うメッセージが書かれたTシャツを着ています。

バレエ教室 砂原伽音さん
「戦地のウクライナにいる子、兵士で送られたロシア人、息子を取られた親族たちに、かけることばが“生きて”以外に思いつかないです。ロシアはこれ以上、民間人を殺さないでほしいです。この時代になっても戦争という手段でしか解決しようとできなかったのか、とても残念で胸が苦しいです。ウクライナが自分の国を失わないようにしてほしいです」

バレエ教室 生徒の留学 急きょ中止に

軍事侵攻の影響は教え子にも及んでいます。
砂原さんが指導している市原市の中学1年生、眞田栞奈さん(13)は、4月末からロシアのノボシビルスクのバレエ学校に留学する予定でした。しかし、戦争が起こっている中でロシアに向かうのは危険だとして、砂原さんとも相談した上でいったん見送ることを決めました。中止を決めた日はちょうど、パスポートを受け取ったばかりでした。

バレエ教室の生徒 眞田栞奈さん
「留学できず涙が出ました。バレエを上達させたかったし、ロシア語やロシアの流行についても知りたかったです。ウクライナとロシアのことを思うと悲しい気分になります。平和な世界が戻ったあとにロシアに行きたいです」

バレエ教室 砂原伽音さん
「バレエ作品の多くがロシアで生まれていて、バレエ界でロシアは切り離せない存在なのです。早く日常を取り戻してほしいです」

ロシア人への迫害・差別が起きないか大きな不安

娘のダイアナさん(左)と母親のアナスタシアさん(右)

千葉市で料理店を営むロシア人の親子は、ウクライナにいる親族や知人の安否を心配するとともに、日本で暮らすロシア人への迫害や差別が起きないか大きな不安を感じています。

千葉市中央区にあるロシア料理店「マトリョーシカ」は、母親のステッツク・アナスタシアさんと娘のダイアナさんが4年前に開店しました。

ロシアによる侵攻を受けたウクライナの伝統的な家庭料理、ボルシチを看板料理の1つにしています。

アナスタシアさんとダイアナさんは首都キエフなどウクライナに親族や知人らが住んでいて安否を心配していました。2人のSNSにはロシアの軍事侵攻以来、「朝から爆弾の音がしている」、「どこに逃げればいいか、いつ死ぬか分からない」など生々しいメッセージが届いているということです。

ダイアナさん
「助けてあげたいけどどうして助ければいいか分からず、ただ見ることしかできなくてとても辛いです。ロシアはすぐに戦争をやめて被害にあった人たちを助けるべきです。皆が安心して暮らせる平和な世界になることを願っています」

SNSに「母国に帰れ」という書き込みも

さらに2人は、日本で暮らすロシア人への迫害や差別が起きないか大きな不安を感じているということです。今、インターネット上にはロシア人に対するひぼう中傷やヘイトクライムが書き込まれていて、ダイアナさんのSNSにも「母国に帰れ」という書き込みがあったといいます。

ダイアナさん
「とても怖いです。私たち日本にいるロシア人は戦争に関係ないのに何をされるか分からない。これから関係が悪化するのではないかととても不安です」

取材後記

こちらの目をまっすぐ見てはっきりとインタビューに答える砂原さんが、うつむいて小声でつぶやく場面がありました。「あぁ、私はこんな国に長くいたのかと思ってしまうところがある、残念ながら」。砂原さんの無念さを思うと私もこみ上げてくるものがありました。今、ウクライナで起きていることやその影響を、今後も伝え続けなくてはならないと思っています。(千葉放送局 記者 金子ひとみ)

千葉市でロシア料理店を経営する親子は、プーチン大統領に対して、「なぜ話し合いで解決できなかったのか。なぜ無差別にウクライナ人を殺すのか」と憤っていました。SNSなどではプーチン大統領とロシア人を同一視して非難する声もありますが、日本で生きるこの人たちもまた、今回のウクライナ侵攻の被害者なのだと痛感しています。(千葉放送局 記者 大岡靖幸)

  • 金子ひとみ

    千葉放送局 記者 

    金子ひとみ

    2006年入局。函館局、札幌局を経て社会部。いったん退職し、2018年に4年ぶりに再入局。千葉局4年目。

  • 大岡靖幸

    千葉放送局 記者 

    大岡靖幸

    1998年入局。根室報道室(現在は根室支局)時代には北方領土も取材。千葉局は5年目で、さまざまな街ダネを取材しています。

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