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新型コロナ感染妊婦 早産の赤ちゃんの命を守るために 千葉

  • 2022年02月18日

千葉県内の新型コロナの感染者は2月17日時点で4万6千人を超え、これに伴い、妊娠中の女性が感染する例も増えています
あなたがいま妊娠中、あるいは家族のなかに妊娠している人がいる場合、もし感染してしまったらどういう医療が受けられるのか、ご存じですか?
千葉県では、去年8月に柏市で新型コロナに感染した妊婦の受け入れ先が見つからずに赤ちゃんが亡くなったことをうけて、この半年、さまざまな対策を行っています。
進んできた対策、残されている課題などについて、医師や県などに聞きました。

妊婦用の専用病床はどのくらい?

生水医師

千葉大学病院周産期母性科長 生水真紀夫医師「去年8月に柏市で赤ちゃんが亡くなったことを受けて、千葉大学病院では、直後に新型コロナに感染した妊婦の専用病床と赤ちゃんの専用病床をそれぞれ2床ずつ確保しました」

県担当者

県担当者「現在、県内で妊婦の専用病床を35床、赤ちゃんの専用病床を21床確保しています。最大で、妊婦用は43床、赤ちゃん用は25床まで拡大できる計画です」

自宅療養になったらどうなりますか?

県担当者

県担当者「県では、胎児の心拍数と妊婦の子宮の収縮状況を把握できる機器をあわせて50台導入しました。この機器を、各地域の中核となる周産期母子医療センターから、かかりつけのクリニックを通じて、妊婦に貸し出します」

妊婦に貸し出される機器

この機器を活用すると、出産の兆候や体調の悪化を少しでも早く察知できるようになるということです。県内では先月末までに31人に貸し出されました。

オンラインで助産師とやりとりをする様子(稲毛バースクリニック)

第6波で妊婦への感染が広がる中、千葉市のクリニックでは、医師や助産師が、毎日、この機器を使って健康観察をしていました。妊婦のお腹につけたセンサーが胎児の心拍数と子宮の収縮状況を読み取って、助産師の手元のタブレットにデータが表示されます。

記者

記者「使ってみてどうですか?」

妊娠中の女性

妊娠中の女性「赤ちゃんの心拍数を聞くことができ、安心しました」

生水医師

生水医師「第5波では自宅療養の妊婦に対して、誰が中心になって見守るかという点が曖昧でした。検討の結果、産婦人科のクリニックが中心になることを確認しました。毎日クリニックの先生がまず患者と連絡をとっていただいて、もし問題が生じた場合は、それぞれの地域の中核になる病院が患者を引き受けることになります。機器を貸し出す過程で、かかりつけ医と地域の中核病院の間でも妊婦の情報が共有でき、いざというときに備えることができます。また地域にどれくらいリスクのある妊婦がいるか把握できることにもつながっています」

実際、入院はできるのですか?

生水医師

生水医師「第6波では感染した妊婦の数が第5波以上に増えているため、病床の回転率を上げる対応を取っています。出産後の母親は通常1週間程度、産科の病棟で過ごしますが、千葉大学病院では、2日程度で一般のコロナ病棟に移ってもらっています。毎日のように感染した妊婦への対応があり、少しでも専用病床を空けて受け入れ数を増やすためです」

もし近くの病院に受け入れ先がなかったらどうなりますか?

生水医師

生水医師「近隣の病院で受け入れ先がない場合、広域での搬送調整を行います。第5波の時には専用のコーディネーターが電話で各病院に1つ1つ調整を図っていましたが、いまはインターネット上のシステムを導入しています。近隣での受け入れ先がない場合に、妊婦の状態や妊娠の週数、胎児の推定体重、合併症などを入力すると、周産期医療に関わる医療機関などに一斉に情報が共有されるようになっています」

新たに導入したインターネット上のシステム画面
生水医師

生水医師「受け入れる周産期母子医療センターなどの担当者にはメールが送られ、『母子ともに受け入れ可能か』などの返答をワンクリックで回答できます。受け入れ先が決まらない場合は、5分ごとにこのメールが送付され、見逃しがないようになっています。県内では1月末までに、5人の感染した妊婦がこのシステムで搬送されました」

感染中に出産になったらどういう対応になりますか?

生水医師

生水医師「妊婦の肺への負担や胎児への影響、医師や助産師への感染対策を考慮して、帝王切開となります。
ただ千葉大学病院では、帝王切開の判断のタイミングを安全な範囲で送らせて、帝王切開を避ける工夫をしています」

生水医師

生水医師「これは大事な問題です。本来コロナにさえかかっていなければ普通に産めるので、それが一番体にもいいし、赤ちゃんにもいい。それができない状況というのは大変心を痛めています。
妊婦さんが帝王切開をしたくないという気持ちになるのはよく分かりますが、一方で、そのまま生んだ場合に、赤ちゃんへの感染や、妊婦さん自身の症状が悪化したときに対応することが難しくなります。加えて、職員が感染する事態になりますと、次に必要な妊婦さんに対して十分医療が提供できない事態が生じかねません。そういう意味で今の段階では、やむをえない対応なのかなと思っています」

病院で陽性のまま出産したら、赤ちゃんはどうなりますか?

生水医師

生水医師お母さんと赤ちゃんは、出産直後から離れて過ごします。そして赤ちゃんへの対応は地域のクリニックなどと協力して対応を工夫しています。赤ちゃんは生まれてから48時間の間に行われる2回の検査で陰性が確認されれば、専用病床での対応は必要なくなります。しかし、家族も濃厚接触者などになっていることが多く自宅に帰れないため、かかりつけのクリニックで一時的に保育してもらうことになります

出産後のお母さんが赤ちゃんの写真を見せてもらっている様子(撮影:千葉大学病院)
生水医師

生水医師「本来、妊婦さんには一定期間入院していただいて、体の回復や育児指導などのサポートをしていかなければいけない。しかし母親が産科病棟を離れるタイミングも早くなっているため、授乳方法を教えたり、育児の不安などに寄り添う産後ケアが十分にできない状況です。できれば親子一緒に病院で過ごしてもらいたいのですが、そうしたことができなくなっています」

もし早産で小さく生まれてしまったら、赤ちゃんは入院できますか?

NICU
櫻井記者

櫻井記者「残念ながら、早産の赤ちゃんや低体重児に対応出来るNICU=新生児集中治療室のベッドは課題のままです。柏市の自宅で早産となった母親は妊娠29週でした」

当時対応の医師

柏市で当時対応した医師「正期産の状態なら産科としてはどこでも受け入れができたと思いますが、新生児をしっかり見られるNICUのあるところでしか対応できないということで、前回は特に、探す施設が限られてしまいました」

櫻井記者

櫻井記者「NICUの不足は、コロナ禍以前からの問題で、通常でもほぼ満床の状態が続いているということです。そのため新型コロナに対応できる病院は、さらに限られてしまうということなのです」

大曽根センター長

千葉大学病院周産母子センター 大曽根義輝センター長「2月14日にも千葉大学病院では妊娠27週の妊婦を受け入れて、帝王切開での出産となりました。赤ちゃんはNICUに入りましたが、12床の最後の1枠が埋まりました。
特に東京に近い地域では早産になりそうな妊婦さんの数の割に、受け入れ先が少なく、そう簡単に見つからないのが千葉県の現状です。妊婦さんが遠方まで行かざるを得なくなっています」

なぜ少子化なのに、NICUのベッドは空きづらいのですか?

櫻井記者

櫻井記者「背景には少子高齢化で全体の出産数は減る一方で、医療技術の進歩などにより救える命が増え、低体重児などに対応する件数は増えている現状があります。
また生まれてから十分に成長するまで数ヶ月をNICUで過ごすこともあり、なかなかベッドが空きづらい状況となっているということです。
一方で医師の人手不足で、病床を簡単に増やすことはできません」

大曽根センター長

大曽根センター長「千葉県は、小児科医の数が人口の割合に比してかなり低い県なんですよね。多くの場合は小児科の中のサブスペシャリティとして新生児科医療を実施しています。ですので小児科医が少ないということは、結果的に新生児科医になる人材も少なくなる。加えて、365日24時間いつなんどき呼ばれることがあってもおかしくない。また本当にちょっとした時間の遅れとか判断の遅れがその子の命に関わってしまうということに常に直面しているという現場ではあります」

大曽根センター長

大曽根センター長「でもやっぱり赤ちゃんは、かわいいです。それをまず原点にしながら、大変な仕事ではあるんですけども、こういった周産期とか新生児医療というものの一番の大きな魅力というのは『未来をつくる医療』だということです。それはその子の家族の未来ということもありますし社会、国の未来ということです。そういったものを作ってるんだという気概を持てるのが魅力だとは思っています」。

取材後記

柏市で赤ちゃんが亡くなった背景にあるNICUの問題があまり取り上げられていないと感じて取材を進めてきました。コロナ禍以前からの課題であり、新型コロナの感染拡大が収束したとしても残る課題です。特に人手不足が大きな問題と言えますが、一方で、低体重児の救命率は他の先進国と比べても高い水準にあります。柏市の事案は、現場の医療従事者の頑張りに頼る状況に改めて警鐘が鳴らされたと思います。
また帝王切開や母子分離については、携わる医師も悩みながら最善を考えて対応にあたっています。妊婦や小さい赤ちゃんも見えにくいところで大きな影響を受けています。コロナ禍でのやむを得ない対応がなくなるよう、少しでも早く感染拡大が収束してほしいと改めて思いました。

  • 櫻井慎太郎

    千葉放送局 記者

    櫻井慎太郎

    2015年入局。長崎局、佐世保支局を経て千葉局。医療問題を継続取材。

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