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風疹をなくし未来の赤ちゃんを守りたい 母親たちの思い

  • 2021年11月05日

2020年に新たに報告され、多くの人の命を奪った新型コロナウイルス。目に見えず、どこでうつるかわからない感染症の怖さを多くの人が思い知らされました。この9か月間で7割の人たちが2回のワクチン接種を済ませました。
一方で、東京オリンピックの年までに排除を目指しながら達成できていない感染症があります。「風疹」です。妊娠中に感染するとお腹にいる赤ちゃんの目や耳、心臓などに障害が出る恐れがあります。自分たちのような思いをする妊婦をもう出したくないと母親たちが活動を続けています。

風疹ワクチン接種対策を継続してほしい

熊谷知事に要望書を提出

10月22日、ある患者会が千葉県の熊谷知事のもとを訪れました。風疹をなくそうの会「hand in hand」の可児佳代さん(67)と大畑茂子さん(55)です。子どものころ風疹のワクチン接種を受ける機会がなかった中高年の男性を対象にした無料のワクチン接種の継続を国に求めるよう要望しました。

風疹ウイルス 写真提供:国立感染症研究所

風疹は、ウイルスに感染することで発熱や発疹などの症状が現れる感染症です。怖いのは妊娠中の女性が感染するとお腹の中の赤ちゃんの目や耳、心臓などに障害が出る「先天性風疹症候群」をもたらす恐れがあることです。その確率は妊娠初期ほど高く妊娠1か月では50%以上と言われています。

妊娠中に風疹にかかった母親たちの思い

可児さんの長女 妙子さん(生後5か月ごろ) まだ手術を受ける前で目は見えない

岐阜市に住む可児さんは、妊娠のごく初期に風疹に感染しました。自分には免疫があると思い込んでいてワクチン接種を受けていませんでした。生まれた長女の妙子さんは、目は見えず、難聴の上、重い心臓疾患もあり、何度も手術を繰り返しました。

17歳の妙子さん

症状は一進一退を繰り返しますが、周囲の支えもあり手話などを使ってコミュニケーションするのが大好きな女の子に成長しました。しかし2001年心臓の病気が悪化して亡くなりました。18歳でした。

亡くなる直前に妙子さんが病院で書き残したメモには、娘からの最後のねぎらいの言葉がありました。 「お父さんとお母さんと私はがんばりました」

妙子さんの絶筆

可児さんは患者家族を支援する活動を始めましたが、2012年から2013年にかけて都市部を中心に風疹が大流行し先天性風疹症候群の赤ちゃんが45人生まれました。(うち11人は生後1歳あまりで死亡) 

しかし感染が判明し中絶という決断をした人も少なくないと見られ、実際に影響を受けた赤ちゃんはもっと多いと見られています。妙子さんと同じ世代の母親に自分と同じ思いをさせてしまったと、可児さんは大きく後悔しました。

可児佳代さん 
「娘と同じ世代の女性が同じ思いをしている。お母さん何してるの?と怒られたような気持ちになったんです」

左:可児佳代さん 右:大畑茂子さん

可児さんがそのころ知り会ったのが大畑さんです。大阪府に住む大畑さんは24年前、三女を身ごもっていた妊娠4か月の時に風疹にかかりました。

「おろすやろ?」

医師からは、当然のように中絶を勧められましたが、反対を押し切って出産。生まれてきた娘は難聴でした。

その後、周囲には自分が妊娠中に風疹にかかったことを黙って過ごしてきました。しかし同じ境遇の母親たちと出会い自らの経験を語る決意をし、患者会の活動を始めました。

大畑茂子さん
「風疹が再び流行したのはこれまで声をあげてこなかった大人の責任。私ももう隠れるのはやめようと思いました」

風疹はワクチンで防げる

2人が最も知ってほしいのは、風疹は防ぐことのできる病気だということです。2回ワクチン接種することで感染はほとんど防げるとされています。日本では風疹の予防接種は、過去に女性だけが公的な定期接種の対象となった時期があり1962年4月2日から1979年4月1日生まれの男性は、子どものころ、ワクチンを接種する機会がありませんでした。そのため日本で数年ごとに流行する風疹は、抗体がないまま成長した男性たちが感染源となり、職場などから感染が広まったと見られています。この世代の抗体保有率を上げるため、会では国や自治体への働きかけ、イベントでの啓発など、機会があれば全国各地に出かけてワクチン接種の呼びかけを続けてきました。

その結果、国も東京オリンピック・パラリンピックが予定されていた2020年度までに風疹排除達成を目標とする指針を策定。2019年からはこの世代を対象に抗体検査や予防接種を無料で受けられるクーポンを配る施策も始まりました。

コロナ禍でワクチン接種が進まない

しかしせっかく始まった取り組みにも関わらず、ことし7月末の時点で対象者のうち検査やワクチン接種をした人はいずれも2割ほどにとどまっています。国はこの世代の抗体保有率を90%に引き上げようと今年度末までにおよそ190万人の男性にワクチン接種を終える目標を掲げていますが、受けた人はこことし7月末でおよそ71万人にとどまっています。もともと施策がなかなか知られていないということに加え、コロナ禍で医療機関の受診を控える動きが広がったことや企業の健康診断が延期になったことも要因と見られています。

クーポン券の見本

新型コロナワクチンのクーポンは短期間で多くの人が利用したのに、風疹のクーポンは使われないままになっているのです。

可児佳代さん
「コロナをきっかけに感染症はワクチンで防げる病気だということ、またコロナで感染症の怖さを知った人も多くいると思う。コロナ以外にも身を守るワクチンがあることを知ってほしい」

未来の赤ちゃんを守りたい

そして11月3日、2人の姿は再び千葉市にありました。今だからこそワクチンで防げる風疹をなくしたいと講演会で広く訴えるためです。

可児佳代さん
「2020年東京オリンピックまでになんとかできるのかなと思っていたらコロナが感染拡大しました。そして今年東京オリンピックは終わりましたが風疹はまだ終わっていません。娘が生きていたら11月で39歳です。まだお母さんなにしてるのと怒られている気持ちです。もうこれで最後にしてほしい、クーポンを使ってほしいです」

大畑茂子さん
「自分のおなかに宿った自分より大切な命をなかったことにしなさいと迫られてしまうことを考えてみてください。私はどうしてもなかったことにすることができませんでした。

私は娘と会えて本当に幸せです。しかし娘がおなかにいるのに風疹にかかってしまったことを今でも悔やんでいます。妊娠する前になぜ抗体を持っていなかったんだろうと。

新型コロナでワクチンを打ち感染症にかからない体を作ることが大事だということが社会に伝わりました。風疹も妊娠初期にかかったら大変なことになります。どうかコロナだけでなく風疹のクーポンを使ってください。風疹を排除し、悲しい思いをする妊婦さん、聞こえない、見えない赤ちゃんを少しでも減らしてほしい」

編集後記

私が可児さんたちと出会ったのは2013年。風疹の大流行が続いている時、同期の記者から声をかけられ一緒に取材を始めたのがきっかけです。しかし最初はまったく国は動きませんでした。可児さんたちが厚生労働省を訪れた際にも「ほかに優先すべき感染症がありますから」と言った担当者の顔は今でも忘れられません。しかし可児さんたちの粘り強い働きかけはいつしか国や学会も巻き込んで「風疹ゼロ」に向けた活動が広がり、とうとう無料クーポンの発行にまでこぎつけました。しかし目標達成を目指した年に、新型コロナが発生し、会の活動はほぼストップせざるを得なくなりました。

これまで何度も、会の皆さんの体験談を聞き、原稿にしてきました。しかし「自分が風疹になってしまったために子どもに苦労をかけた。私たちのような母親になってほしくない」。かかりたくて感染したわけではないのに、後悔の言葉はいつも心に突き刺さります。「会のトレードマークのピンクのTシャツを早く脱ぎたいの」。久しぶりに再会しそう言って笑う2人の姿に、私も風疹排除の日を信じて見届けたいという思いを改めて強くしました。

未来の赤ちゃんを守るために。

NHKは「ストップ風疹」サイトで(https://www3.nhk.or.jp/news/special/stopfushin/index.html)風疹の情報を引き続き発信しています。

  • 山本 未果

    千葉放送局 ニュースデスク

    山本 未果

    千葉局に6年在籍。

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