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  • 2024年6月11日

国立市 分譲マンションなぜ解体 引き渡し直前 異例の事態 何が起きた【詳しく】

事業中止と解体 その経緯は
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国立市の分譲マンション「グランドメゾン国立富士見通り」について建設した事業者の「積水ハウス」は、市に対して6月、事業の中止を届け出ました。引き渡しが7月に迫るなか、建物周辺への影響を理由に解体される見通しとなりました。事業者は取材に対し、契約者の個別の事情を踏まえ、金銭面の補償を含めできるかぎりの対応を進めていくとしています。建設をめぐり何が起きていたのか、そして事業者の判断の経緯などを詳しくまとめました。

18戸販売 引き渡し直前に解体方針

JR国立駅から歩いて10分ほどのところに建つ国立市中2丁目の分譲マンション「グランドメゾン国立富士見通り」は、地上10階建てで、7000万円から8000万円台中心の18戸が販売されました。
7月、契約者に引き渡されることになっていましたが、その直前に解体の方針が決まるという異例の事態となりました。

“建物の周辺への影響 検討が不十分だった”

「積水ハウス」によりますと、この分譲マンションの事業中止と解体は6月3日に決定し、翌日の4日に国立市に対し、届け出たということです。理由については「建物の周辺への影響に関する検討が不十分だった。建物の構造上の不備といった法令違反などはなかった」としています。

マンション建設 富士山をさえぎるかたちに

国立市などによりますと、この分譲マンションの建設計画は3年前の2021年2月に公表され、翌年11月には市が事業者側に建設を承認し、2023年1月に着工しました。

立地する「富士見通り」はその名のとおり、晴れた日には富士山を望める場所でしたが、マンションが建設されたあとは富士山をさえぎるかたちになりました。
ただこの間、計画の公表直後から周辺住民からは問題を指摘する声があがっていました。

「指導書」当初計画の11階から10階建てに変更

市は、まちづくり条例に基づく有識者などからなる審議会に諮問し、答申を踏まえ、市は事業者に対し、建物のボリューム感の低減などについて住民への丁寧な説明と理解への努力を求める「指導書」を交付します。

これを受け、事業者は2021年9月からの住民説明会で建物の高さを当初計画の11階から10階建てに変更する方針を示しました。

“さらに建物を低く” 市議会に陳情も

しかし、住民側はこの変更案をもっても景観に多大な影響を及ぼすとしてさらに建物を低くするよう求め、これに対し、事業者側は2022年1月の住民説明会で「さらなる階数の低減には応じられない」などと回答しました。

着工のあとも周辺住民は、計画の見直しに向けた対応を市に求める陳情を市議会に提出するなどしてきました。

陳情した関係者 “半ば諦めていた 具体的な説明を”

マンションが解体される見通しとなったことについて、近くの住民からは解体の判断を評価する声や「そこまでする必要があったのか」などさまざまな声が聞かれました。

70代の
女性

駅を降りたら、通りから富士山が見えるのをすごく楽しみにしていました。それがなくなってさみしかったですが、また見えるようになりそうだと聞いて、うれしいです。

60代の男性

富士山が見えないと気分が乗らないという方もいるのかもしれませんが、事業者がそこまでの判断をする必要があったのかと思います。富士山が見えにくくなっても生活するのに不便は感じません

建設計画の見直しを求める陳情を市議会に提出した関係者の1人は取材に対し、解体の見通しとなったことについて次のように話していました。

もう半ば諦めていたので、突然の話で驚いている。事業者側から計画中止に至った説明を受けていないので、具体的な説明を求めたい。計画が中止されたからといって手放しで喜べる話ではなく、もっと早く判断できなかったのか複雑な心境だ。また今後、別の事業者がマンションを建設する計画が持ち上がったときに同じ問題が起きないか懸念している。

積水ハウス  “最終的な判断に向けた検討は5月から”

今回の判断に至った経緯について積水ハウスは取材に対し、「2023年1月の着工後も住民から景観などに関する要望や意見が寄せられる中、現地確認や調査を進めてきた。事業の継続の可否も含めてこれまで検討してきたが、最終的な判断に向けた検討は5月から始めた」と説明しました。

そして、決定の時期については「検討の結果、このタイミングになった」としています。

一方、今回の判断については「計画の段階から法律や条例にのっとって進め、法令違反などはないが、最終的にはそうしたプロセスによらない決定をした」と話しています。

積水ハウスは今後、契約者の個別の事情を踏まえ、金銭面の補償を含めできるかぎりの対応を進めていくとしています。

“事業者から近隣住民に丁寧な説明を”

今回の問題を受け、国立市の市議会議員の有志でまとめた要望書が10日、国立市の永見理夫市長に手渡されました。この中では「今般、当該マンションが取り壊されるとの情報を得たが、詳細については近隣住民に説明がなされていない状況のようだ」としました。

その上で、住民の不安を払拭するため、▼解体の理由や、▼今後の安全面、それに▼環境面への対応について、事業者から近隣住民に丁寧な説明を早急に行うよう求めることを要望しています。

市議会によりますと、要望に対し、永見市長は「近く対応したい」という考えを示したということです。

事業者の対応 不動産コンサルタントの見方は

不動産コンサルタントの長嶋修さんは、引き渡し直前での今回の対応について「マンション建設の慣例として日照や眺望などについて周辺住民に説明会などを行って交渉を進めていくが、最後まで折り合いが付かず、裁判などに発展するリスクがあると判断したのではないか。金銭的な損失をとるか、企業としての評判を汚してしまう方をとるか、という天秤の中で今回の決断に至ったのではないか」と話していました。

また、契約者への補償については「一般的に契約書上は、手付金の倍の金額を契約者に返すことになるが、今回は引き渡し間近ということもあって自宅を売却したり、賃貸契約を解除した人がいる可能性もあるので、そうしたことに配慮して、見舞い金やおわび金などいろんな名目でさらなる金銭的な補償が発生する可能性はある」と指摘しています。

国立市 過去には裁判も

東京・国立市では20年余り前、市内に建設された14階建てのマンションをめぐって周辺住民が美しい街並みの景観が損なわれたと主張して不動産会社を訴えた裁判があります。

この裁判は2006年、最高裁判所が「街並みの景観は周辺住民にとって法律上保護に値するものだが、マンションが当時の法律に違反していたとはいえない」と判断し、周辺住民の逆転敗訴が確定しました。

街並みの景観が周辺の住民にとって法律上保護に値すると最高裁が初めて認めたものでしたが、裁判で建設の差し止めなどを求めるには法律違反や社会的に認められないような明確なルール違反が必要だという判断を示しました。

積水ハウス 経緯など説明する文書を公表

積水ハウスは11日の夜、問題が表面化して以降、初めて、経緯などを説明する文書をホームページ上に公表しました。この中では冒頭、「ご契約者様、周辺住民の皆様をはじめ、多くの関係者の皆様にご迷惑とご心配をおかけしておりますことを謹んでおわび申し上げます」と謝罪しています。

そしてこれまでの対応について「計画当初より富士山の富士見通りからの眺望に対して多くの声をいただき、十分な協議を重ねる中で2回にわたる設計変更を行い、地域に配慮した設計を目指しました」と説明しています。

その上で完成が近づき、富士山の眺望に与える影響を再認識したとして「現況は景観に著しい影響があると言わざるを得ず、本事業の中止を自主的に決定しました」と説明しています。そして「特に遠景からの眺望に関する検討が不足していたことが引き起こした事態」だとして今回の経緯を重く受け止め、再発防止に取り組むとしています。
(6月11日 追記)

国立市 積水ハウスに文書で要請

6月12日、市議会の一般質問では関連の質問が相次ぎ、答弁で永見理夫市長は「周辺地域は再び解体工事に直面することになり影響が必ずある。積水ハウスに対し住民に丁寧に対応するよう12日、文書で要請した」と述べました。

また、永見市長は「条例や法令に基づいて適切に進めてきたが、今回突然、廃止届が出され、その後、問い合わせても文面以上の回答は得られず、きのう突然ホームページ上に文書が出された。建てるときに住民の不安を踏まえて建物のボリューム感の低減などを指導してきたが、積水ハウスのやり方は非常に遺憾だ」と述べ、事業者側の今後の対応を注視していくという考えを示しました。

「積水ハウス」は12日、国立市からの要請書を受け取ったとして、「いただいた内容については今後検討していきます」としています。
(6月13日 追記)

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