水中撮影の極意 東京海洋大学×NHK潜水班

  • 2023年02月15日

NHKでは大学生の皆さんにNHKを身近に感じてもらうため、セミナーを開催しています。
今回は、東京海洋大学の学生たちとNHKの潜水カメラマンが一緒に企画したセミナーを紹介します。

(首都圏局/地曵悠)

深海を泳ぐ巨大なイカ

©️NHK/NEP/DISCOVERY CHANNEL

太平洋戦争中、南の海に沈んだ船の墓場

知られざる水中の世界。

その撮影に成功したのが、NHKの潜水カメラマンで構成される「NHK潜水班」です。

そんなNHK潜水班のメンバーが大学生と一緒にセミナーを企画しました。

東京海洋大学 品川キャンパス

東京海洋大学の品川キャンパスは、海洋の環境や資源、食品生産などを学ぶ学生が通っています。

2022年10月。

11月のセミナー開催に向けて、学生とNHK職員が集まってミーティングを開きました。

今回のセミナーの構成づくりは、学生と一緒に進めます。

協力してくれるメンバーは、大学の潜水部やサークルに所属する14人の学生たち。その中でも、人一倍思いがあって参加してくれた学生がいます。

東京海洋大学3年・石井暁さん。

今回、自らセミナーの司会役に志願してくれました。その背景には、ある切実な願いがあったといいます。

コロナ禍で失った学びの機会を取り戻したい

小学生の頃、NHKの番組でダイオウイカを目にして以来、水中生物の虜になったという石井さん。海洋生物のことなどを専門的に学びたいと東京海洋大学に進学しました。

ところが、コロナ禍で講義はオンラインに。大学の教授や友人たちと顔をあわせる機会もない期間が半年間続いたといいます。

さらに、石井さんが参加したいと考えていた乗船実習も2年近く中止に。船で仕事を行う上で必要な知識や危機管理などについて学ぶことができなかったといいます。

石井さん

セミナーに参加すると、もしかして新しい道が切り開けるかなって思いました

新たな挑戦へ

セミナーで話す内容や順番をどうするか、どのような仕掛けがあれば参加者に喜んでもらえるのか。学生たちで自主的に集まって考えを巡らせます。

大学側も参加希望者から事前に取ったアンケートを検証し、学生たちがこのセミナーに参加しようと思った動機や関心があるものを探っていました。

そこから見えてきたものは、潜水や撮影機材に興味がある学生が多いということ。

こうした結果を受けて、学生たちの議論はさらに深まります。

学生

水中カメラ紹介があるから、カメラ限定じゃなくてライトも含めて説明してもらう時間を取る?

学生

水中での体験談的なところは誰が聴いても面白いかなと思う。

石井さんたちは、普段目にする機会がない撮影機材に加えて、潜水班の体験談も重点的に質問してみることにしました。

石井さんがメモしたセミナーの台本

セミナー当日

2022年11月。

NHK職員とともに学生たちが会場の設営を手掛けます。会場には学生や教職員など約60人がつめかけました。

講師役は「NHKスペシャル」や「ダーウィンが来た!」など数々の大型番組で水中撮影に携わってきたカメラマン3人が務めます。

左からNHK潜水班の本郷大輔(ほんごうだいすけ)カメラマン、青木宗大(あおきむねひろ)カメラマン、松下猛(まつしたたけし)カメラマン

まずは石井さんたちが考えた構成の工夫の一つ、潜水班の「体験談」を厚めに聞くことにしました。

トラック島に取材に行ったときの話してくれたのは松下猛カメラマン。カメラマン歴25年で、テクニカルダイビング(レジャーのダイビングより高度な潜水の方法)を得意とするベテランのカメラマンです。

松下カメラマン

トラック島周辺の海には太平洋戦争中、日本軍に徴用された民間の船が沈んだままになっていて、

船内にはたくさんの遺骨が残されているといいます。

松下カメラマン

撮りながらずっと涙が止まらなかったですね。日本に帰りたかっただろうに、こんなところで戦争っていうものの犠牲になって死んでしまったというのは本当に無念。絶対誰も知らないし見られない世界なので、こういうのを届けるのも我々の重要な使命だと思います。

真剣な眼差しで聞き入る学生たち。

続いて、「撮影機材の紹介」です。

NHK潜水班が撮影で使っているものを紹介しました。学生たちのアイディアで盛り込んだ、自分たちが普段潜水で使っているライトとの比較です。

石井さん

我々一般的なダイバーが使っているライトと比較をしてみようかなと思います。

まずは一般的なライトを点けてみます。

続いて、NHK潜水班が使っているライトを点けてみると・・・

比較してみると、違いは一目瞭然。この日、会場が一番湧いた瞬間でした。

こうして90分のセミナーは無事に終了しました。

学生たちの反応は?

セミナーが終了してからも参加してくれた多くの学生たちが残り、1時間近く経っても潜水カメラマンへの質問の列が途絶えませんでした。

話を聞いてみると、「戦争を経験していないので、その過酷さはわからないけれど、戦地で亡くなった方の無念さに気づき、それを伝えるために頑張っている人がいると思ったら涙が出ました。」と感想を話してくれました。

“司会”という大役を終えた石井さんにも感想を聞いてみました。

「皆が要所要所で笑ったり、うなずいたりしてくれたので、よかったなと思って。(自分自身が)水中撮影に本当にちゃんと関わりたいってなったら、NHKの潜水班として身を置くっていうのは、かなり興味が湧きました。こうやって対面で会って生の声を聞くっていう機会が1つでもあると何か自分の道が増えるのかなって思いましたね。」

今回企画に協力してくれた学生たちは、とても晴れ晴れとした顔つきをしていました。

後記

コロナ禍で学びや自己実現の場は大きく制限され、学生生活にも影響が出ています。今回セミナーを開催した東京海洋大学の魅力の一つである船上での実習がここ数年中止になるなど、学びの意欲や将来につながる糧を見失ってしまった学生もいるのではないかと感じました。その場に代わるようなものを提供できないかという思いから、学生たちと一緒に企画を作り上げることにしました。

オンラインが主流になる中、リアルで行うイベントにどれくらいの人が興味をもって集まってくれるのか不安もありましたが、当日の盛況ぶりを見て、やって良かったと嬉しくなりました。ここまでたくさんの人がセミナーに参加してくれたのは、協力してくれた潜水部・潜水サークルの学生たちが、学生ならではの視点で知りたいことを内容に盛り込めたからだと思います。

今後も学生の皆さんの心に寄り添いながら、新たな選択肢を見つけてもらう機会をひとつでも多く作っていきたいです。

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