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障害ある人の防災 地域全体にもプラスに

  • 2022年10月20日
“防災アンバサダー”講座

障害のある人が、同じ当事者に防災の知識などを伝える“防災アンバサダー”を育成する取り組みが、東京・江戸川区で始まっています。実は多様な人たちを想定して災害に備えることが、地域全体の防災を考えるヒントになるといいます。

(首都圏局/ディレクター 山口憲生 佐々木雄大)

当事者が講師!“防災アンバサダー”

ことし6月、江戸川区内で耳の聞こえない「ろう者」向けに防災講座が開かれました。
講師も同じ、ろう者の“防災アンバサダー”です。手話で説明がされます。

 

講師

懐中電灯を持ちながら
手話はできません。
なので頭につけたらいいです。

講座で使われたスライド

講座では、停電に備えて頭につけられるタイプのライトを用意するとよいことが説明されました。
懐中電灯などを手に持ったままでは、手話ができないからです。

講座で使われたスライド

こちらは、家具の固定器具ごとの転倒率を説明したスライドですが、見ただけで分かるようイラストを多用し、文字も大きくわかりやすい表現を心がけて制作されました。
ろう者の中には、長い文章を読むのが苦手な人もいるためです。

参加者は手話で質問し講師も手話で答えます

今回の講座に参加した、江戸川区に暮らす五十嵐大さんもろう者です。

災害に備えて用意しているライトを見せる五十嵐さん

五十嵐さんは東日本大震災をきっかけに非常食などを備蓄してはいました。
しかし、3年前の台風19号では、実際に大雨で川の水位が上昇するなど、災害のリスクが高まる中、いざというとき、どう行動したらいいか戸惑ったといいます。

江戸川ろう者協会の佐野敏勝理事長によると、行政や防災の専門家などから説明を受けようと思っても、手話通訳者がいないと、ろう者には理解がしにくいのだそうです。
また、長い文章を読むのが苦手なろう者も多く、文章やスライドといった資料もわかりにくいといいます。「聞こえる人」の視点から脱却できていないことが多いのだそうです。

五十嵐さんは今回の講座を受講して、新たに得られた知識が多かったそうです。
さっそく、自宅の家具を固定するなど、講座で学んだことを実践しました。

そして五十嵐さん自身も、“防災アンバサダー”となって、得た知識を同じ障害のある仲間に伝えていきたいと考えています。

防災アンバサダーの取り組みを進めているのは、地元の市民団体「江戸川みんなの防災プロジェクト」です。
団体メンバーは、防災や福祉分野を専門にする人たちで、障害のある当事者と一緒になって「誰一人取り残されないための防災」を合言葉に啓蒙活動を行っています。

ろう者との打ち合わせ

メンバーの星野渉さんによりますと、これまでも、医療的なケアが必要な人たちと実際に避難所に行って課題を確認したり、精神障害のある人たちと一緒に防災イベントを開いたりする活動を続けてきたそうです。
去年からは江戸川ろう者協会と連携し、「聞こえる人」の視点ではなく、ろう者の視点を取り入れた講習を企画しました。すでにろう者9人が受講していて、さらに活動を広げたいとしています。

星野渉
さん

防災の専門家から伝えるべき情報もありますが、
当事者だからこそ分かる実情もあります。
当事者が教える側に回ることで、
より現実な対策を伝えられることがあります。

多様な人たちを想定する事で地域の防災力をアップ

星野さんたちがこうした取り組みを続けているのは、障害者の防災だけ考えているわけではありません。多様な人たちを想定して災害に備えることは、地域全体の防災にも生かすことができると考えているからです。例えば

と、より多くの人たちにとっての防災にプラスになると考えています。

取材後記
ろう者に直接お話しを伺い、災害時のコミュニケーションの難しさを知りました。
こうした中で、当事者が自分たちの実情も踏まえた形で備えの重要性を伝える“防災アンバサダー”の取り組みは、ほかの地域にとっても参考になると感じました。
私たちが暮らす地域は、さまざまな人たちで構成されています。
それぞれの人たちがそれぞれの立場で防災を考えることで“誰ひとり取り残さない”防災のあり方が見えてくるのではと感じました。

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