暑さも本格化するこの時期、心配なのが“突然降ってくる局地的な大雨”です。
空が急に暗くなったと思ったら、雷雨があり、あっという間に周囲は水浸しに…ということも。
そこで今回、「大雨の中ではどんな危険があるのか?」
さらに「突然の大雨を事前に知る方法は無いのか?」そんな疑問、身をもって取材しました!
(報告:首都圏局 アナウンサー山田朋生 取材:ディレクター佐々木雄大)
まず訪ねたのは、茨城県つくば市にある「防災科学技術研究所」。
ここには、さまざまな強さの雨を人工的に降らせる施設があり、大雨災害に関する実験が行われています。
防災科研・酒井直樹 総括主任研究員
「大雨による土砂災害や浸水被害などを研究しています」
そんな大雨実験施設で、まず体験したのが1時間に50ミリ~60ミリの雨。「滝のように降る」と表現される雨です。
雨を再現してもらうと傘だけでは雨を防ぐことができず、体がぬれてしまうほどの大雨でした。
実際の雨ではこれに風も加わるので、より激しく吹きつけるといいます。
この量の雨が続くと、都市部では排水機能に影響がでることも考えられ、冠水など“災害の一歩手前”の状況になる可能性があるといいます。
こうした1時間に50ミリ以上の「非常に激しい雨」は決して珍しい雨ではなく、去年、アメダスのデータでは全国で270回以上も観測されています。
続いて体験したのは1時間に180ミリの雨。これは、国内で観測された1時間雨量のほぼ最大値です。
雨が降り始め、まず変わったのが傘の持ち方でした。
傘から伝わる雨の重さで、自然と両手で傘を持つように・・・。
さらに地面に目を向けると、わずか数分で冠水し、足もとは見えにくくなってしまいました。
こういった場合、マンホールのふたが外れているおそれもあるということで、歩くには非常に危険な状況です。
さらに、周囲の“音”についても気づきがありました。
1メートルほどしか離れていない研究員の酒井さんに問いかけても雨が降る音に声が遮られ、ほとんどコミュニケーションがとれませんでした。
声を発しても聞こえない=助けを求められないことにもつながるのでとても危険な状況になることが想定できます。
こうした場合は、いち早く頑丈な建物に避難することなどが命をつなぐことになります。
そうした状況下で酒井さんが危険性を指摘するのは、車の運転です。
180ミリの雨を車の中から体験してみると、安全のため停車しているにもかかわらず、 フロントガラスから見える景色はワイパーをフル稼働させても、とても見えにくい状態に…。
わずか20メートルほど先に置かれた赤いコーンと隣に立つスタッフの姿は全く見えません。
走行していたらと思うと、ゾッとする体験となりました。
こうした場合は、ライトやハザードランプを付けて車の存在を周囲に示しながら徐々にスピードを落とし、すぐに停まれる状態にすることが大切だといいます。
横断歩道を渡る人は、おそらく車が止まってくれると信じていると思います。でも車は見えない状況なので、そこは『違う!」という認識が必要です。
雨が強まってくると、正常な判断力が奪われてしまうので、大雨になった場合の対策を事前に知り、いざというとき正しい判断ができるようにすることが大切です。
では、こうした大雨、事前に把握することはできないのでしょうか?雲を見つめて半世紀、気象学者の小林文明教授に伺いました!
気象学者・防災大学校 地球海洋学科 小林文明 教授
「夏に発生する突然の大雨を事前に知るためにポイントとなるのは、特徴的な積乱雲=入道雲や、その周辺の雲を見ることです。
雲を見ることは“危険を知らせるサイン”を知ることにつながります」
まず小林教授が教えてくれたのが「かなとこ雲」と呼ばれる積乱雲です。
特徴は「雲の上が平らになっている」こと…。
この平らな部分が金属を加工する際に使う作業台「金床(かなとこ)」に似ていることから「かなとこ雲」と呼ばれています。
では「なぜ平らになるのか?」
それは、雲が成長することが出来る限界の高さである上空およそ10キロまで到達したため。
かなとこ雲は非常に発達している積乱雲のため、見かけたら豪雨への備えが必要だと小林教授は指摘します。
かなとこ雲の真下では豪雨や雷、突風が起こっているかもしれないことが想像できます。
『遠くに見えるから』と安心するのではなく、自分に近づいてくると思って備えることを心がけてほしいです。
さらに、局地的な大雨が間近に迫ることを示すサインがあるといいます。
逃げなさいよ!といっているのがこの「アーク」なんです。
「アーク」は弓を寝かせたような形をしていることから「アーチ雲」とも呼ばれます。
小林教授はこの雲が見えたら、短時間のうちに大雨が降りだす可能性があると指摘します。
「アーク=アーチ雲」の見分け方。
▼活発な積乱雲の周辺に発生する。
▼ふだんの雲よりもずっと「低く」「黒い」
▼周辺では「夏でも冷たい風が吹く」
高いビルが建ち並び雲の全体が見えない都心部でも、低く黒い雲が頭上に現れ、冷たい風が吹いたら「アーク=アーチ雲」の可能性があります。突風や激しい雷雨への注意が必要だということです。
ほかにも夏ならではの「ある現象」は注意が必要だと指摘します。
寝苦しい夏の夜。最低気温が25度以上の熱帯夜が連日続いた場合は、突然の大雨への注意が必要だということです。
積乱雲は主に太陽の光で温められた地上の水蒸気が次々に上昇することで発生します。
熱帯夜が続くと夜でも気温が下がりません。
そのため、午前中から雲のもととなる温かく湿った空気が大量に供給されるため、雨を降らせる積乱雲が多く発生する可能性があるというのです。
熱帯夜が連日続くような場合は、天気の急変に注意が必要だということです。
最近は「スーパー熱帯夜」とも言える、夜でも30度近い、もしくは超えるような日もあります。暑さというのは単に暑いだけではなくて、豪雨にも注意しなさいよ!というサインでもあるので雨に備える一つの目安にしていただければと思います。
今回、小林教授が教えてくれた3つのポイント「かなとこ雲」「アーク=アーチ雲」「熱帯夜」はあくまで雨が降る際によく見られる現象で必ず大雨につながるということではありませんが、こうした自然からのサインを見逃さない心がけが大切です。
そして「こうした雲を見た」「自分に災害の危険が迫っているかも」と感じたら、「NHKニュース防災アプリ」や気象庁ホームページなどを確認し、いち早い行動につなげてください。
NHKニュース防災アプリ ダウンロードは→こちらから
大雨体験では、見知った場所でもひとたび大雨が降ると全く違う場所になることを、身をもって知りました。
いざ大雨になると、通常の判断ができない可能性があります。もしものとき、スムーズな行動をするためにも「準備し過ぎることはない」という思いで、雨への備えをしっかりしておきたいと感じました。