2019年08月06日 (火)思い込みと実際 【三上 弥 】


こんにちは。
シニア・アナウンサーの三上弥(みかみ・わたる)です。

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梅雨が明けて、暑さの厳しい季節になりました。
富士川から見る雲も、
真夏らしい風景醸し出しています。


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三上弥の「現場のことば」
第11回は、「思い込みと実際」です。


  正しい読み方や意味を学ぶ  

あることばについて、
正しい読み方を知らないまま誤った読み方を続けていた経験のある人は、
少なくないと思います。

誤った読み方に気付くのが、身内や友人どうしの会話や学校の授業の場だと、
本人が恥ずかしい思いをするのは「限られた空間」で済みます。
一方、大勢が集まる場や社会人になってから仕事がらみの場で「誤読」すると、
恥ずかしさだけでなく、時には辛い思いをすることもあるのは言うまでもありません。

日本では、小学校から高校まで、
漢字や慣用句、ことわざを学ぶ機会は国語の授業を中心に豊富です。
正しい日本語を身に着ける観点では、
学校で国語を学ぶ機会を大切にすることをおすすめします。

読者の中に、小学生、中学生、高校生、大学生、
専門学校生、高専生など若い世代の人たちがいたら、
国語の授業で学ぶ日本語の数々を大切にして、書くことに加え、正しく音読して、
意味が思い浮かぶようにしておくと、一生の財産になります。
夏休みのような長期休暇は、ことばを覚える絶好の機会です。


  活字+音声面のチェック   

ところが、どんなに気を付けて学んでいても、ことばには落とし穴があって、
大人になっても気づかない誤りが誰にでもあります。
だからこそ、新聞社や出版社には校正の専門家がいて、
記者や作家の文章は必ずチェックを受けてから世に出るわけです。

物事を伝える仕事に20年余り携わっていても、
ことばについてちょっとした疑問を抱くことは少なからずあるので、
その都度確認するようにしています。
放送の場合、活字のチェックに加え、音声面のチェックが欠かせないのも特徴です。

辞書や資料に載っていないことばや地名、固有名詞もあります。
特に、アクセントで疑問が生じたときには、
副部長をはじめとするアナウンサーやキャスター、ニュースデスクと話し合って、
「本番ではこう読む!」と決断することもあります。

  名詞の表記・発音・アクセント

静岡県を流れる一級河川の富士川安倍川は、
それぞれ「ふじかわ」・「あべかわ」と読みます。
「川」は、「か」に濁点のない「かわ」です。

日常会話では、「ふじがわ」や「あべがわ」というように、
濁点付きの「が」で発音している人も存在します。
ふだんの会話では許容範囲でも、
もし放送で「――かわ」と読んだら、「ご指摘」が来るはずです。

放送に限らず、正しい名称を知っている人にとっては違和感があるので、
特に、固有名詞を含む名詞については、
正しい表記や発音・アクセントを大切にしたほうがいいでしょう。

誤りと気付かずに広く使われている名詞の事例としては、
次のようなことばがあります。

〇アボカド avocado  ×アボガド
(クスノキ科、果実がよく知られている)
〇みぞれ 霙     ×雨まじりのみぞれ ×雪まじりのみぞれ
(雨と雪が同時に降る現象がみぞれ)
〇カムチャツカ Kamchatka 半島  ×カムチャッカ (半島名)
〇バングラデシュ Bangladesh ×バングラディッシュ  (国名)
〇マゼンタ magenta  ×マゼンダ (三原色のひとつ)

放送メディア、活字メディアを問わず、

報道の仕事に携わっている人にとっては若手の研修でよく見聞きする事例です。
しかし、この仕事に長く携わっていると、
日常会話では誤用がなかなか解消されない事例だということにも気づきます。

  どちらがより良い表現か

間違いではないけれども、
どちらがより良い(better)表現か考える対象になることばもあります。

たとえば、太陽が子午線を通過する時刻=「正午(しょうご)」です。
この時間帯のNHKニュースのコメントは、「こんにちは。正午のニュースです」で始まります。
NHKニュースでは「正午」と言うものの、12時や午後0時とは言いません。
正午の1分前は午前11時59分、1分後は午後0時1分です。
深夜に日付が変わるときは「午前0時」です。気象情報では「深夜0時」という場合もあります。
深夜の場合も、12時とは言いません。1分前は午後11時59分、1分後は午前0時1分です。
午前、午後、正午を使うことで、時刻を分単位で特定しています。

以前「現場のことば」で触れたことのある「人口」も好例です。
人口を表現するときは、
「人口〇〇万〇千」と「人」を付けずに表現するのが「より良い」とされています。
人口〇〇万〇千」というと、人口と人が重複しているようにもとらえられるからです。


  正しい名称は  

通称「朝ドラ」とも呼ばれるNHK「連続テレビ小説」は、
連続テレビ小説」であって、「朝の連続テレビ小説」ではありません。
この番組が、朝ではない時間帯にも放送しているのは周知のとおりです。

番組のテーマソングが流れるときにタイトルの字幕を見ましょう。
「朝の」とはひとことも書いていません。
最初の勤務地で、あるニュースデスクが話しているのを聞いて、
当時、なるほどと思いました。
「放送している組織が書く原稿では、番組名は正しい名称で」という趣旨だったからです。

正午から始まるNHKニュースは、
正午から始まるのであいさつで「正午のニュース」とは言っても、
「お昼のニュース」という名称の番組は存在しません。番組表の表記は「ニュース」です。
「お昼のニュース」と言っている人は一定数いるものの、
実は、正式な名称としては存在しないのです。

思い込みと実際」という今回のテーマの視点では、
こうしたことも知っておくと、
NHKの番組をひそかに楽しめるかもしれません。

 

 

投稿者:三上 弥 | 投稿時間:11:20

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