2019年07月25日 (木)早坂、先輩をおもう 【早坂 隆信】


6月、早坂は番組づくりをしていた。
放送の告知も上司に任せ、編集室に籠っていたのである。

静岡空襲の悲劇と慰霊に思いを【横尾泰輔】

ある日、制作を終えて部屋を出ると先輩がいなくなっていた。

「あれ?吉田さんは?」

「吉田さんなら転勤しましたよ」

「そういえば、そうだった」

先輩は出世して、秋田に行ってしまったのだった。
早速向こうでブログを書いているようだ。

NHK秋田 ブログこまち
「どうぞよろしくお願いいたします。【吉田一貴】」


静岡局にはなんだかぽっかりと穴が開いてしまったような気がする。

ブログの催促も今となっては懐かしい・・・
ような気がしないでもないが、どうかな。

手遅れながら、送別ブログを書かなくては!
何を書こうか。
ええと、お世話になったこと・・・
思い出の数々・・・。
・・・ブログの催促・・・?
1か月近くも、早坂は時折ぼんやりと考えた。

そんなある日、思いがけない再会があったのだ。

開高先生の文章に!

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先生は釣りが好きな小説家だ。

カメラマンと一緒に世界中の海、川、湖を旅して、
たくさんのエッセイを残している。

アラスカやシベリア、アマゾン、東南アジア。
世界のあらゆる場所に釣り糸を垂らした、
男のロマンを生きたような人なのである。

東京・神保町の古本屋街で久々に手に取ったその文章は、
ずいぶん大人になった早坂の冒険心を
やっぱりくすぐるのであった。

「ぼくもアラスカでキングサーモンと戦いたいっ!」

「そして岸辺でウイスキーをラッパ飲みに『ブっくらい』たいぞ!」

「オーパ!オーパ!」

いてもたってもいられず、ブログを書くことにした。

つまりいつもの「釣りに行ったよ」っていうだけの話だ。

6月末。梅雨の時期の雨上がり。
いつもの川に子供を連れてやってきた。

190725hayasaka_001.jpg 10匹ほど、たまってます


川底付近にコイがうようよ。
みんな上流に向かって口をパクパクしている。
流れてくる食べ物を待っているようだ。
ミミズ型のワーム(ソフトルアー)を使う。

橋の上からミミズワームを垂らして
コイたちの鼻先に向かって流すと、
そのうちの1匹が「ほふ」とミミズを吸い込んだ。
1投目で!

異変を感じたコイがもりもり泳ぎだす。
リールから糸を少しずつ出しながら格闘に入る。
横でわくわくしている少年にいったん竿を持たせ、
車にタモ網を取りに行く。
再び竿を手にする。
岸辺で滑って肘をすりむく。
コイが走る。
糸が張る。
コイが止まる。
糸を巻く。

少しずつ相手を疲労させ、10分ほどかけて足元まで寄せた。
しかし、取り込もうとした最後の一瞬。
コイは巨体をくねらせて針を外し、下流へと泳ぎ去っていった。
70cm~80cmくらいはあったか。

横の少年は呆然と逃した魚影を追っている。

「惜しかったなあ。」

「すごくおおきかったねえ。」

「また釣ればいいさ。」

父は気を取り直してミミズルアーを投げたが、
もうコイたちは見向きもしなかった。
「見切られた」のかもしれない。
こうなると、もうだめである。

「うまくはいかんもんだなあ。」

「またこようよ。」

釣れない日があるから、魚釣りは面白い。
逃がした魚がいる場所には、また来たくなるものである。

先生の文章だって、釣れた話ばかりではない。

オーパ!を叫び損ねた親子はとぼとぼと釣り場を後にした。

本日の釣果・・・なし

※今月のブログ「さよなら、吉田先輩」はお休みします。
ご了承ください。

投稿者:早坂 隆信 | 投稿時間:18:10

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