シリーズ内容 本放送 再放送
第1回 世界文学はおもしろい 10月5日 10月12日
第2回 恋はサスペンス−『マイトレイ』 10月12日 10月19日
第3回 名作を裏返す−『サルガッソーの広い海』 10月19日 10月26日
第4回 野蛮の幸せ−『フライデーあるいは太平洋の冥界』 10月26日 11月2日
第5回 戦争は文学を生む−『戦争の悲しみ』 11月2日 11月9日
第6回 アメリカを相対化する−『老いぼれグリンゴ』 11月9日 11月16日
第7回 アメリカ化する世界−『クーデタ』 11月16日 11月23日
第8回 さまよえる良心−『アメリカの鳥』 11月23日 11月30日
語り手
池澤夏樹 IKEZAWA Natsuki

1945年北海道帯広市生まれ。埼玉大学理工学部物理学科中退。75年より3年間ギリシャに滞在し、現代詩の翻訳などを手がける。88年『スティル・ライフ』で第98回芥川賞受賞。以後、世界各国を訪れながら執筆活動を続ける。93年『母なる自然のおっぱい』で読売文学賞、『マシアス・ギリの失脚』で谷崎潤一郎賞、2000年『花を運ぶ妹』で毎日出版文化賞、『すばらしい新世界』で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞するなど受賞多数。07年紫綬褒章受章。同年11月より『池澤夏樹=個人編集 世界文学全集』を刊行中。

第1回

世界文学はおもしろい

池澤さんが独自な視点で編集した新たな「世界文学全集」。池澤さんの編集方針は、20世紀後半に書かれた秀作を、欧米の作品にかたよらずに選ぶことだった。今回番組で取り上げる7作品も5つの言語で書かれ、世界各地を舞台にしている。旧植民地出身の女性作家ジーン・リースや母国アメリカを痛烈に風刺した作品を書いたアメリカ人作家ジョン・アップダイクなど、書き手もさまざま。新しい世界文学の魅力を池澤さんが語る。
第2回

恋はサスペンス−『マイトレイ』

『マイトレイ』(1933)は、ルーマニアの作家・宗教学者のミルチャ・エリアーデが、自らの体験をもとに書いた恋愛小説。主人公はアランという23歳のルーマニア人の青年と、マイトレイという16歳のインド人の少女。異なった文化を背負った男女の恋愛が描かれている。この作品の魅力は、官能と精神が絶妙のバランスで描かれているところだと池澤さんは言う。インドを舞台に若き男女が文化を越えて結ばれようとするラブストーリー『マイトレイ』の魅力に迫る。
第3回

名作を裏返す−『サルガッソーの広い海』

『サルガッソーの広い海』(1966)は、作家ジーン・リースが76歳のときに完成させた作品。リースは、カリブ海に連なる西インド諸島の一つ、ドミニカ島の生まれ。当時は、イギリスの植民地だった。リースは、植民地生まれであることで差別され、苦労続きの人生を送った。『サルガッソーの広い海』はイギリス文学の傑作『ジェイン・エア』に登場する脇役、植民地生まれの女性を主人公にした物語。いわば、『ジェイン・エア』を裏返した小説だ。アイデアと技法が鮮やかに決まった傑作を池澤さんが読み解く。
第4回

野蛮の幸せ−『フライデーあるいは太平洋の冥界』

『フライデーあるいは太平洋の冥界(めいかい)』(1967)は、フランスの作家ミシェル・トゥルニエが、ダニエル・デフォーの小説『ロビンソン・クルーソー』(1719)を下敷きに書いた作品。トゥルニエ版では「野蛮人」フライデーの登場以降、デフォー版と全く別の展開を見せる。「野蛮」というものに、ネガティブな価値しか見出さなかったデフォーの時代と違い、トゥルニエが作品を書いた20世紀半ばには、それまで「野蛮」とよばれてきたものが、実は独自の世界観と知恵を持った文化だと明らかになった。その思想がこの作品にも影響を与えたのだ。
第5回

戦争は文学を生む−『戦争の悲しみ』

『戦争の悲しみ』(1991)は、北ベトナム人民軍の兵士としてベトナム戦争を戦った作者バオ・ニンによって書かれた。これまで、ベトナム戦争に関する知識や情報は、その多くがアメリカ側および南ベトナム(ベトナム共和国)政府側のものだった。しかし今や、北ベトナムの人があの戦争をどう見ていたかを『戦争の悲しみ』で知ることができる。小説の主人公キエンは、かつてベトナム戦争を戦い、40歳になった今、ハノイで作家になっている。そのため、この小説は戦争に関する小説であると同時に、主人公が戦争に関する小説を書くという過程を体験しつつある自分を語る小説となっている。
第6回

アメリカを相対化する−『老いぼれグリンゴ』

『老いぼれグリンゴ』(1985)は、「メキシコ革命」を背景にした一種の歴史小説。物語は、革命の初期、一人の年老いたアメリカ人「グリンゴ」が国境の川を越えてやってくるところから始まる。「グリンゴ」とはアメリカ人男性を指す蔑称だが、時に愛情も含むという微妙な言葉。近代化しすぎて迷路に迷い込んだアメリカに絶望し、川の南のメキシコに人間的なるものを求めやってきた老いぼれグリンゴ。作者のカルロス・フエンテスがアメリカに対する批判を込めて書いた作品だ。
第7回

アメリカ化する世界−『クーデタ』

『クーデタ』(1978)は、今年1月に亡くなったジョン・アップダイクの作品。戦後アメリカを代表する作家の一人だ。これといった特徴をもたない「普通のアメリカ人」を主人公に、『走れウサギ』(1960)に始まる「ウサギ四部作」や『カップルズ』(1968)など、アメリカを舞台に多くの小説を書いた。今回取り上げる『クーデタ』の舞台は、アフリカにある架空の国「クシュ」。しかし実は、この作品もまたアメリカを書いた小説だと池澤さんはいう。つまり、アメリカの外にいったん出て、そこに設定した「クシュ」という国を透かして見えるアメリカの像を描くといのがアップダイクの執筆意図だったのだ。
第8回

さまよえる良心−『アメリカの鳥』

アメリカの女性作家メアリー・マッカーシーの『アメリカの鳥』(1971)。主人公ピーターは、鳥好きの少年。この小説は、ピーターが、渡り鳥のようにアメリカから海を越えてヨーロッパへと渡っていく話であり、主人公が現実のなかで人生や社会についてさまざまに考え、悩み、時には傷ついたりしながら、次第に成長していく「教養小説」だ。主人公ピーターと池澤さんは同じ年。共に1945年の生まれだ。そのため、時代の空気も、世界的な事件も、その背景も、共有する部分がとても多いという。この作品を「まぎれもない傑作」と語る池澤さんが、その魅力を語る。

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