芥川賞受賞!仙台市在住の書店員・佐藤厚志さんが描く被災地

純文学の新進作家に贈られる芥川賞。第168回目となる今回、今月19日に選考会が行われ、仙台市出身で、書店員の佐藤厚志さんの「荒地の家族」が初めて芥川賞に選ばれました。作品で描かれているのは震災だけでなく、「災厄」というさまざまな困難を抱えながら生きる人たちの姿です。選考会を前に、作品でのメッセージとは何なのか、NHKの単独インタビューで佐藤さんに聞きました。

 

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書店員として働く佐藤さん

芥川賞に初めて選ばれたのは、仙台市出身の佐藤厚志さん(40)です。幼いころから本が好きだったという佐藤さん。大学卒業後、さまざまな仕事に就きながら20代のころから執筆活動を続けてきました。本にいつでも触れられる環境にいたいと2010年からは仙台市の書店で働き始め、雑誌担当として本の注文や整理を行いながら、執筆を続けています。
佐藤さんがデビューしたのは2017年。4作品目の今回、初めて芥川賞の候補に選ばれました。

「安心したという感じで、候補に乗るまでが心配だったので、うれしいというよりは安心したという感じですね」

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文芸誌掲載の小説「荒地の家族」

今回、候補となった小説「荒地の家族」は、亘理町に住む40歳の植木職人の男性が主人公です。東日本大震災の津波で、主人公は仕事道具をさらわれ、さらに震災の2年後には妻を病気で亡くします。喪失感を抱えながら、生活をたてなおそうともがく姿を描いています。
まず、私が作品を読んで疑問に思ったのが、なぜ亘理町を舞台に選んだのか。佐藤さんに尋ねると、幼いころの記憶があったと答えてくれました。父親の実家が亘理町にあり、以前、遊んだときに感じた景色や周囲の人たちが自然に思いついたといいます。

「亘理町には自分もお盆や正月など折に触れて行くので、イメージしたときに風景がよく見え、作品の舞台にするにはすごくいいなと思いました。亘理町は山あり川ありで、自然が多いですから、植物を相手にしてなにかなりわいを持っている人間というのを主人公とするのは自然かと思いました」

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震災直後の亘理町(2011年撮影)

そして、作品の根底にあるのは震災です。自分が体験したことをもとに小説を書くことが多いという佐藤さん。当初、震災をテーマに描こうとは考えていたわけではないといいます。
それでも仙台市で被災し、震災後、亘理町で見たがれきや復旧工事で変化した自然を目の当たりにして、その時に感じた気持ちを作品に込めました。

「がれきが片付けられて更地になったところに電柱・電線が通り、
大きな防潮堤ができる。そこで時間がとまったような印象を持っています。そういう風景についても今回の『荒地の家族』にも込められています。宮城県を舞台に小説を書こうとなると、自然に風景の中に震災というのが端々に出てくるんです」

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「荒地の家族」より抜粋

ただ、震災をテーマにした作品ですが、”震災”や”津波”といったことばは登場しません。”災厄”や”海の膨脹”ということばに言い換えられています。

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小説を執筆する佐藤さん

それはなぜなのか。佐藤さんに尋ねると、人の営みには震災だけではないものもあると答えてくれました。震災で多くの人の生活が一変したものの、それがすべてではなく、人生では病気や別の災害など様々な困難、「災厄」が連続して起きていて、それらを抱えながら生きているのが現実だと強く感じているからだというのです。

「災厄一般を長い時間軸の中で表現したくて、震災というよりは災厄と書いていますね。東日本大震災以外にもいろんな人が経験した災厄を想起させるようなものがあるかもしれません。震災が起こってそれが今も続いている、僕の中では災害は持続して生活と共にあるというイメージですから、そういうのも表現しているときに気をつけて、伝わればいいと思って書いています」

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そして作品では、震災で悩みを抱え続けている友人、震災後に妻が亡くなった主人公の再婚相手や子どもとの関係など、主人公がそれぞれの「災厄」を抱えた人たちと向き合う姿が丁寧に描かれています。
佐藤さんは、そうした人たちの感情と、それに立ち向かおうともがく姿をこれからも伝え続けたいと考えています。

「100人に1人でも、小さな癒やしが得られれば、書いたかいがあったなと思います。小説にしかできないことをやらなきゃ意味がないので、ドキュメンタリーでは拾われない感情や感覚を小説で拾って表現できればいいなと思っています」

 

佐藤さんの作品では「災厄」が全体に暗い影を落としながらも、人々がなんとか生きようとする姿が描かれています。佐藤さんは「作品を通して救いや癒やしを少しでも見つけてもらえれば」と語っていて、「災厄」を抱くすべての人々の心に寄り添いたいという佐藤さんの願いを感じました。

 


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記者紹介

伊藤奨
2016年入局。仙台市生まれ。
福井局を経て2020年から仙台局。
現在は文化・経済などを担当。