"宮城はポテンシャルしかない" プロ野球・楽天から回転ずしへ 2023新春インタビュー ~経営者・立花陽三さん~

 

“宮城はポテンシャルしかない これに火をつけたい”

そう語るのは、塩釜市に本社がある回転ずしチェーンの社長、立花陽三さんです。
プロ野球・楽天の社長から去年、飲食業界に転身しました。

就任からまもなく1年。
冒頭の言葉の意味や宮城・東北への思い、今後の展望などをインタビューしました。

(聞き手:仙台放送局記者 藤岡しほり)


 

■すごいなすし、すごいな宮城

──そもそも回転ずし店に転身しようとした理由は?

立花さん(以下、立花):(いまの会社の)会長に「やってくれ」って言われて、「楽しそうだな」と思ったから。もうそれだけです。改めて、すごいなすし、すごいな宮城と思ったんです。すごいな地方って本当思ったんで、僕の今の目標は、地方を元気にすることなんです。それが何か日本のためになるかなと。インバウンドもそうだし、コロナ後にみんなが再発見するような(取り組みで)少しでも仙台に恩返ししたいと思っている。イーグルスのときも思っていたので、今そんなことを考えています。

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立花陽三さん 1971年1月10日東京生まれ
外資系証券会社を経て 
2012年~21年 プロ野球・楽天社長
2022年4月 廻鮮寿司 塩釜港 社長に就任

──球団の社長から転身しての戸惑いは?

立花:10年間、イーグルスでやらせてもらって、仙台ってそれまで全然縁もゆかりもなかったんですよ。僕、本当にファンに感謝しかなくて、恩返ししたいんです。回転ずしのマーケットも大きいし、おすしのマーケットも大きい。外食のマーケットも大きい。そこで仙台の観光をどうにかしないと(いけないと思った)。塩釜港というブランドを大きくしたら、もしかしたら観光客のお客さん来てくれるかもと思って、そんなことでワクワクしています。

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2013年には日本一を達成

──球団社長の時のどんな経験が回転ずし店の経営に生きている?

立花:僕が(球団の)社長になった時って、お客様が1万4000人くらいだった、平均で。コロナ前の2019年で大体2万3000ぐらい。1試合で1万人が増えたんですね。で、どうやって増やしたかっていうと、本当にいろんなことやったんです。小学生が来て楽しいところ、中学生が楽しいところ、高校生が来たら楽しい、OLの方、社会人の方、年配の方、誰が来ても楽しいものを作ろうと思っていろいろやった。その一個一個の積み重ねが功を奏して、なんとかお客さんが増えた。それが僕にとっては楽しくて。それが一番いい経験だったし、それをさせてもらって、お客さんのニーズに応えることをやり続けると、お客さんが来てくれるんだってことがわかったので、実際、試したことがよかったなと思ったんで、その経験が今回生きているのかなと思っています。

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スタジアムに観覧車作るなど球界の常識にとらわれない柔軟な発想が注目された

 

■人生は短い 失敗して直せばいい

港で水揚げされたばかりの新鮮な大ぶりのネタを手ごろな値段で出すと評判だった、この店。このすしをもっと多くの人に味わってもらおうと、去年10月、仙台駅東口に2号店をオープン。新しい店舗では立花さんのアイデアが反映されている。

──回転ずしなのに、レーンがないカウンターもあるんですか?

立花:はい、もともと塩釜で回転ずし屋さんをやっている経緯から、回転ずしは残そうと。ただ、やっぱり新しいものにチャレンジしないといけないと思ったんで、ちょっと丸みを持った、おしゃれな感じの(カウンターを作りました)。丸みってすごいよくて、横だと一番端っこの人と一番端っこの人って会話できないですが、丸みだと全員顔見えるし。

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会話しやすいよう形は曲線になっている

──なぜ、“回らない席”を作ったんですか?

立花:新しい価格帯、新しいお客さんをつかむには新しいチャレンジしないとつかめないので、基本的にはファミリーのお客さんが来て、気楽にきてほしい店なんですけど、ちょっとおしゃれしたいところ、ちょっと高級なもの食べたいなっていう時に、こういう空間があるとちょっと楽しめるかなと思って。今は高級、ほんのちょっとだけ高級なところにトライしてますけど、将来的には全く違うビジネスモデルも考えています。僕は性格的に思い立ったらやりたいんで、やって失敗したらやめればいいんで。むしろ直せばいいんで。人生短いんで、失敗したほうがいいのかなと思っています。

──このカウンターも紆余曲折ありましたか?

立花:(仙台の店のオープンから)わずか2か月の間にいろいろやったんです。そう思うと、この場所はわれわれがこうしたいというよりは、お客さんが決める場所で。立ち食いのカウンターがいいのか、高級寿司のニーズがあるのかは、お客さんが決めるって感覚です。ただ、いっぱい提案してお客さんにヒットしたものが正しい答えなんで。店の中も今はプロジェクターが流れていますが、これもなくなっているかもしれないし、ちょうちんをぶら下げる案とか、旗をいっぱい降るとか、絵を飾りたいとか、いろんなアイデアがあります。これからもいっぱい変えていくと思います。

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個室には家族連れを意識してテレビを設置 授乳室も用意

──どうして個室を作ったんですか?

立花:私、50歳で結婚して子どもができたもので、子連れってこんな行く店ないんだと思って、授乳室とか全然ないと思って。あったらお客さん来てくれるかなと。自分の経験からやろうと思ったんですけど、シンプルに騒いだら、ほかのお客さんが気になるとか、そういうのをなくしたくて(個室を)作りました。ある程度広いスペースがあるので、そういったものを作ったら、お客さんの反応どうなるかなと思ってチャレンジしました。

 

■宮城はポテンシャルしかない

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──宮城や東北の可能性をどう見ているのでしょうか。

立花宮城はポテンシャルしかない。本当にまず人がすばらしい。本当すごいおしとやかで、規則正しいし、礼儀正しいし、奥ゆかしい。でもこの奥ゆかしさが一番すごいと思うんですけど、これはすごい長所でもあると同時に短所でもあって。これに火をつけたい。たぶん皆さんが思っている以上に宮城はすごい宝をもっているのに、その魅力を伝えきれていない。ものすごくポテンシャルしか感じないんで、それを発信したいです。発信できると思っています。例えば、仙台に来たら牛タンを食べる、それは仙台のカルチャーだと思うけど、日本で一番とれるマグロは塩釜港にあるんだから、仙台にきたらまずすしを食うっていう文化を作りたい。もっともっとアピールをして、観光客を呼んで、ホテル取れないってなるような、観光の街にしたいです。もう人であふれかえって、そしたらみんな活気づいて賃金も上がるし、みんながハッピーになるような街にしたいです。

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──ことしのキーワードを教えてください。

立花「京都に勝つ!」です。京都は本当にいろんな見るところがある。すばらしい街だし僕大好きなんですけど、仙台もいいとこいっぱいあるんで、これはもう全員で、まずは東北を代表する仙台が中心となって京都に勝つと、これくらい目標高くしないと。旅行に行くと、みんな五感で感じるんです。やっぱりそれが記憶に残るからまた来たいなと思うんですよ。だから、この街も全員が頑張って、僕は五感の1つである食で、うちだけじゃなくて、ほかの店もいい牛タンだして、ほかのおいしいすし屋さんもいいすし出して、「すし食いに行くか、行きたいな」ってくれるような、そんなことをやりたいです。僕ひとりじゃなくて、イーグルスも頑張ってくれて、あとベガルタも頑張ってくれて、89ERSも頑張ってくれて、こんなスポーツも全部そろってるんだから、もう1回この魅力に全員気付いて、それが発信することができれば絶対勝てる。

 

■10年以内に海外進出目指す

──今後の展開はどう考えていますか?

立花:この会社を託された時、僕はみんなに新しい世界を見せたいと思いました。新しい世界っていうのは、仙台だったり、ニューヨークだったり、サンフランシスコやハワイなどそんな世界だと思ったんで、あと5年から10年以内には、ニューヨークとかに店を出したい。それを逆算していくと、仙台でオープンして、東京でオープンして、横浜あたりでオープンして、逆算していくと時間がないんですよ。だから急がないと、まずい。ことしは東京で2店舗くらいやりたいです。

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──インバウンドやコロナ後についてどう考えていますか?

立花:中国語や英語のメニューもしっかり準備しようと思ってますし、受け入れ態勢はとっていきたいと思ってます。インバウンドは当然ながら今後の日本にとっては、とてつもなく大きなマーケットだし、事業を拡大していきたいと思っています。外国のお客さんもいろんなお客様がいて、回転ずしはひとつの文化ですけど、超高級なおすし屋さんに行く人もいて、海外に行くと下手すると1人3万とか5万とかしたりもするので、そういう意味でも、安くておいしいものを提供するっていうのは喜ばれるので提供し続けたいと思っています。逆に俺はチャンスだと思っていて、アフターコロナは勝負時だと思っているんで、ガンガンして出店していきたいです。

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──今後の展開で具体的に考えていることはありますか?

立花:今後、日本がインフレになっていくことはどうしても変えられないと思うので、そういう意味ではちょっとぜいたく、プチぜいたくというか、そういったお客さんのニーズもしっかり受け止めながら、逆にやっぱりちょっと一貫食べたいとか、高校生でも自分でも食べに行けるような店にもチャレンジしたいと思っています。形態とかも含めて、店の色合いとかも、真っ赤な店とか真っ黒な店とか、今までおすし屋さんがやらなかったことをやりたい。女性だけがスタッフの店もやりたいと思うし、やりたいこといっぱいあります。

 

【取材を終えて】

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取材の最後、立花さんに2023年はどんな年にしたいか聞いたところ、「この数年暗いニュースが多いので、街なかに笑顔があふれかえるような1年にしたい」と話してくれました。この数年、コロナ禍で厳しい状況が続いた飲食や観光業界。常識にとらわれない斬新な発想で、新しい風を吹き込むことができるのか、しばらく目が離せません。

 


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仙台放送局記者
藤岡しほり

2022年入局
白石市出身
くらし・経済取材担当

 


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