どうなる? 宮城の魚

東日本大震災から11年半。
宮城県の水産業は漁港や漁船などインフラ面での復興はほぼ完了し、漁業産出額も2020年には震災前(2010年)の9割に戻っています。
ただ、県内の漁業関係者はいま、宮城の魚の将来を左右しかねない、別の新たな問題に直面しています。

(石巻支局 藤家亜里紗/気仙沼支局 上田大介/仙台放送局 伊藤奨)


[漁業者を直撃する原油高騰]

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“きょうの水揚げはだめでした。いつもの6割~7割くらいかな”
石巻市の漁業者、木村優治さん(51)が悲しそうに笑いながら言いました。

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木村さんは地元で30年以上、底引き網漁でタイやタコなど四季折々の魚を取って生計を立てています。
震災で漁船などが大きな被害を受けましたが、3年後に操業を再開。
水揚げ量はいま、震災前とほぼ同じ水準になりました。

しかし、このところ、頭を悩ませている大きな問題があります。
「原油価格の上昇」です。

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底引き網漁はほかの漁に比べて漁船の操業で使う軽油の消費量が多く、1日あたりの消費量は1000リットルを超えます。8月の軽油代は約200万円。1年前の1.5倍に上昇しました。

漁業者 木村優治さん
「軽油代は1回の航海あたり8~9万円くらいする。1日だけで。水揚げ量の少ない日は冗談で『休んでた方がマシ』という話がでるくらい」

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影響は水揚げにも。
漁に使う網はナイロン製で石油が主な原料になっています。
海底を長時間引っ張るため、いたみやすく、毎日修繕が必要ですが、その材料も去年より3割ほど高くなっているといいます。
燃料の節約にと、近くの漁場で魚をとったり、スピードを抑えた運転を心がけたりしているため、これまでより取れる魚の量が少なくなるのではないかと心配しています。

漁業者 木村優治さん
「スピードを抑えるとその分操業時間が減るので、不漁になるリスクもある。本当は速く向かって、早く漁場について操業すればそれに越したことはないんだけど、燃費を節約するためにゆっくり行けば操業時間が少なくなってしまう。なかなか難しい」

燃料代などの値上がりを受けて、県や塩釜市は今年度、漁業者に対して経費の一部を補助するなど支援をしていますが、原油価格の高騰がいつまで続くか先行きは見通せません。

 

[サケにサンマ…宮城を代表する魚激減]

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課題はまだあります。
「水揚げの減少」です。

震災前から2020年までのサンマと秋サケの漁業産出額の推移です。
いずれも宮城県を代表する魚ですが、東日本大震災で漁獲量は大きく減っています。

その後、一時的に震災前の水準を回復しましたが、最近では震災直後を下回る水準まで再び落ち込んでいます。
温暖化などが影響しているとみられています。
こうした厳しい状況を乗り越えようと、県内の水産関係者は模索を始めています。

 

[三陸一丸になってサーモンの養殖を]

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気仙沼市の水産加工会社の阿部泰浩社長です。
8月下旬、岩手県の養殖施設を訪問しました。
お目当ては…。

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こちら、トラウトサーモンです。
回転ずしのネタとしても高い人気があります。
サーモンの養殖を目指して、いま、準備を進めています。

水産加工会社 阿部泰浩社長
「この稚魚をこれから海に持って行って育てられるといいんですけど」

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阿倍さんの会社は長年、秋サケを切り身などに加工して販売してきました。
ここ数年、十分な量の秋サケが確保できない状態が続いています。

水産加工会社 阿部泰浩社長
「本来であれば天然の秋サケを買い付けして作業をしている時期ですが、きょうはサケがないのでほかの魚で代用しています。原料さえあればなんとか仕事はできますが、今の状況は苦しい」

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不足する秋サケを安定したサーモンの養殖で補えないか。
同じ悩みを抱える三陸沿岸の会社などが連携することになりました。

将来的には漁協や魚市場とも協力し「三陸サーモン」として売り出したい考えです。
海での試験養殖を来年1月に始める予定です。

水産加工会社 阿部泰浩社長
「三陸のサーモンの養殖は個別で生き残りは難しいとみんなが考え始めている。
 もっと大きなくくりでブランド化できれば、より大きな販路が築ける」

 

[主力のサンマ激減で転換を模索]

主力の魚を転換しようという動きも出ています。

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「これがうちのサンマの主力商品です。サンマが不漁でこの秋から終売になりそう」

そう話すのは、石巻市の水産加工会社の平塚隆一郎社長です。
震災で全壊した工場を9年前(2013)に再建しましたがサンマの不漁が経営を直撃しています。

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サンマは売り上げ全体のおよそ2割を占めるだけに、開いた穴をほかの魚で埋めるのは簡単ではありません。

水産加工会社 平塚隆一郎社長
「サンマの代わりに『何売るんだよ』という話になるので、サンマにかわるものが『じゃあこれ』っていうのは今のところはない。『この商品をこれだけで売り上げられます』というものはないので困っています」

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それでも、何もしないわけにはいかないと、新商品の開発に取り組んでいます。

注目したのは、最近水揚げが増えている「タイ」。
お茶漬け用に切り身を加工して製品化しました。

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およそ1年の開発期間をへて、9月から販売を始めました。

水産加工会社 平塚隆一郎社長
「あっさりしていてお茶漬けにはあう。その意味では日本人にも受け入れられそう」

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水産業を取り巻く環境が大きく変わる中、平塚さんは大切なのは震災前に戻ることではなく、環境に応じて自ら変わることだと考えています。

水産加工会社 平塚隆一郎社長
「サンマがとれなくなったり、暖かいところの魚が増えてきたりするなど、宮城の水産業は大きく変わってきている。加工の方法は全然違うところがあるので、変化に合わせてそれを習得していく。いろんなことにチャレンジしていきたい」

 

[取材を終えて]

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燃料代の負担や水揚げの減少だけでなく、後継者不足やコロナの影響など、宮城の水産業を取り巻く環境は震災前より厳しくなっているといえます。

一方、沿岸の水産関係者の多くは「水産業の復活なくして復興なし」と話しています。

さまざまな困難を乗り越え、宮城の水産業がどう将来を切り開いていくのか、今後も見続けていきたいと思います。

 

 

 


fujiie220916_2.jpg藤家亜里紗
2021年から石巻支局

石巻で旬の魚を目で見て味わって勉強しています。
最近始めた船釣りではタチウオやサバ、スズキを釣りました。

 

ueda.jpg上田大介
2021年から気仙沼支局

カツオやサンマ、秋サケを中心に漁業の現場を取材。
海の変化について日々学んでいます。

 

itou2.jpg伊藤奨
2020年から経済担当

はらこ飯やサンマの炭火焼き
食欲の秋を楽しみたいと思います。