難聴のフットサル選手 聞こえない壁に挑む

“聞こえない壁”に挑みながら、国内最高峰のフットサルリーグに挑み続ける選手がいます。
野寺風吹(のでらふぶき)さん、24歳。
聴覚に障害がある中、仙台市を本拠地とする男子フットサルチーム「ヴォスクオーレ仙台」で活躍。さらなる高みを目指し、挑戦する野寺選手を追いました。

(仙台局ディレクター 内藤孝穂)


【難聴のフットサル選手 野寺風吹】

1チーム5人が、サッカーの9分の1ほどのコートで激しく競い合うフットサル。
攻めと守りが素早く切り替わる、スピード感が魅力です。
その全国リーグである「Fリーグ」の上から2番目のカテゴリーで戦う「ヴォスクオーレ仙台」。
1部昇格を目指し、現在9チーム中2位につけています。(11月7日時点)

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野寺風吹選手、24歳。
国内トップリーグで戦う、聴覚に障害がある選手です。
右耳は聞こえず、左耳に補聴器をつけ、口の動きも見ながらコミュニケーションをとります。

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「上を目指すのは、一番選手としてやるべきことだと思うので、そういった中で、
Fリーグに挑戦しなければいけないなという責任感というか、使命をもって挑戦した」

北海道出身の野寺選手は2歳のとき、感音性難聴と診断されました。
小学1年からサッカーを始め、大学時代には、聴覚障害者のフットサル日本代表に選ばれるなど、障害者スポーツの中で活躍してきました。

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しかし、さらなる成長を求め、健常者のチームへの入団を希望すると、厳しい声が。

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「耳が聞こえないから、チームの入団を許可することはできないっていうふうにいわれたことがあって、やっぱりそれが悔しいなと」

それでも、Fリーグでの活躍を目指し、さまざまなチームの入団テストに挑戦。
持ち前のシュート力が目にとまり、半年前、ヴォスクオーレ仙台の入団をつかみ取りました。

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【課題は守備】

チームに貢献する上で、いま課題となっているのが、守備です。
フットサルでは、声による指示から守備の形を構築していきます。
ひと言の指示で、いま必要な戦術を理解し、チームメイトと連動していく力が求められます。

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しかし、体育館で行われるフットサルは、シューズの音や応援が大きく響き、
難聴の野寺選手にとって、その指示が聞こえない状況が起きているのです。

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「全部、補聴器が音を拾っちゃうので、その中でプレーするっていうのが雑音が入ってくる状態。ことばをことばとして聞き取れない部分があるので、指示も聞こえない」

 

【聞こえなくても守るために】

「聞こえなくても守る」。
野寺選手が練習後、欠かさず行っていることがあります。
練習の映像を繰り返し見ることです。

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「味方がなんて言っているかは、この動画だったら聞き取れるので、こういう場面では「行け!」って言っているとか、「中切れ!」っていうさまざまな指示がある」

守るときにチームがとる形は無数にあるわけではなく、実は、いくつかのパターンに分けられるといいます。

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“どんなときに、どんな守備を求める指示がでるのか。”
そのパターンが分かれば、聞こえなくても、仲間と連動した守備ができると考えたのです。

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「(練習中は)指示が聞こえていないけど、そこに対しての自分のアクションが合っているかを今、照らし合わせている。そういうのを積み重ねていって、こういう感覚なんだろうなっていうのを無意識にでるようにしないといけない」

1日2時間、こうした取り組みを続けたことで、今、手応えを感じ始めています。

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「以前に比べて、聞こえなくてもスムーズになったなとか、守備ではまるようになったっていうシーンが増えてきた。見ていく作業っていうのは、耳が聞こえないならなおさらやらなくてはいけない」

 

【聞こえない壁に挑む理由】

野寺選手には、大学生のときから続けてきたことがあります。それは、子どもたちにサッカーの楽しさを伝えること。チームメイトとともに聴覚支援学校などを訪れ、サッカーの巡回指導をしています。

「デフ(聴覚に障害がある)の子って、団体競技とかに触れる時間がすごく少ないっていうのは、僕もろう学校出身なのでよくわかって。サッカーとかフットサルっていう団体競技を通して、そういうみんなと協力することの楽しさだったりを伝えられる時間にできたらいいな」

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国内トップリーグという厳しい世界に挑む野寺選手。
あくまでもひとりの選手として、高みを目指し続けます。

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「自分の可能性を諦めたくないというか、周りがそうだからとか、環境がそうだからしかたないのではなくて、自分が今、何ができるか。自分の力とか可能性を信じて、やり続けてほしいなっていうのは、自分が体現することで伝えたい」

 

【取材を終えて】

実は、私自身も趣味でフットサルをプレーしています。
その中で、野寺選手の存在を知ったとき、真っ先に「一体、指示が聞こえない中で、どうやってプレーしているのだろう」という疑問が浮かび、今回の取材のきっかけになりました。

取材の中で、野寺選手が話した「僕は障害に関係なく、上を目指す」ということばが印象的でした。
障害に関係なく、どんなアスリートにもあるスポーツへの熱意、気迫、目標…。“障害者”だからではなく、“ひとりの選手”として、トップを追い求める野寺選手の姿は、多くの人に勇気を与えてくれると思います。だれもがスポーツに親しむことができる、上を目指すことができる。そんな社会へのヒントを探るべく、これからも取材を続けていきます。

 


naitou_221115.jpg仙台拠点放送局 ディレクター
内藤孝穂

令和3年入局
主にスポーツと性の多様性、女性アスリートの問題を取材