「注文に時間がかかるカフェ」伝えたいのは"一人じゃない"

「ことばがスラスラ出てこない時もあるけれど、接客に挑戦したい人もいます」

こう話すのは幼いころから「きつ音」に悩む女性の言葉です。
今月2日に仙台市内で開かれたカフェ。その名も「注文に時間がかかるカフェ」。そこで働くスタッフは「きつ音」に悩んでいる人たちです。1日限定のカフェ。さまざまな出会いがありました。


「きつ音」を理解してほしい

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今月2日に仙台市内で1日限定で開かれた「注文に時間がかかるカフェ」。
スタッフは「きつ音」があります。きつ音とはどういった症状なのでしょうか。

「きつ音」

・話すときに最初のことばが出にくかったり、
 つまってしまったりする症状。

・特徴的な例は次の3つ

  1. 音のくりかえし(連発)
    例:「わ、わ、わたし」

  2. 引き伸ばし(伸発)
    例:「わーたし」

  3. ことばを出せずに間があいてしまう(難発)
    例:「・・・・わたし」

このカフェは「きつ音」について理解を広げるとともに、症状で接客の夢を諦めてしまう当事者が自信をもつきっかけになるようにと、きつ音の当事者である奥村安莉沙さんが2021年に東京で初めて開きました。その後、全国各地でも開催されています。

東北で初開催「注文に時間がかかるカフェ」

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東北地方で開かれたのは今回が初めてで、コーヒーや紅茶、ジュースなどの飲み物を無料で提供します。
カフェでは訪れた人にきつ音の人への対応方法を必ず説明します。対応方法はそれぞれ人によって違いがありますが、一般的な例を紹介しました。 

▽遮ったり、推測して代わりに言ったりせずに言い終わるまで待ってください。
▽「リラックス」して「ゆっくり話せばいいよ」とアドバイスしないでください。
▽話し方をまねしたり、からかわないでください。
▽ことばがうまく出ませんが、ほかの人と同じように接してもらえるとうれしいです。


分かってもらえずつらい思いも…

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今回の開催を呼びかけた仙台市内に住む19歳の過心杏さんは、幼いころから「きつ音」に悩み中学生のころは学校に通えなくなった時期もあったといいます。

過心杏さん
「ことばが詰まってしまったり、連続してしまうので、まねされたり。なんでって聞かれたり。心ないことばを受けることもあって、それはつらい体験でした」


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高校生3年生の時、一歩踏み出すきっかけが訪れました。それがSNSで見つけた、奥村さんが主催した「注文に時間がかかるカフェ」の東京での初めての開催でした。

参加した過さんはそこで同じように悩む人たちと出会いました。
“悩んでいるのはひとりじゃない”。
このカフェを地元でも開催したいと奥村さんに呼びかけて、今回実現したのです。

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開店当日。スタッフのマスクには、訪れた人にお願いしたいことを書き込みます。過さんが書いたことばは「笑顔でお話してください」。きつ音とは関係なく、自分と向き合って話して欲しいという思いから書き込みました。

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開店の時間になると、事前に予約した人たちがさっそく訪れました。
客の中にはカフェを楽しもうという人だけでなくきつ音で悩む人たちも 参加しました。
「日によって症状が違って、うまく話せるように布団のなかで練習を繰り返した」と打ち明ける若者に、過さんは「学生だと関わる世界が狭い分、理解してもらえないとか、ひとりぼっちを感じることが多いよね」と寄り添いながらこたえます。

親子できつ音があるという人は、なかなか当事者どうしで話す機会がないためこうした場があると励まされると、このカフェの存在の大きさを感じていました。

伝えたいのは “一人じゃない”

過さんにとってなつかしい出会いもありました。中学生時代の先生やきつ音に悩む過さんにアドバイスしてきたことばの教室の先生も駆けつけてくれたのです。

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「よくいろいろ大変なことを乗り越えてきたんだなって。いろんなことを経験しながらきょうの笑顔があるんだなって思いました」

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“私も当事者です!一緒にがんばりましょう!”
“これから学校現場でも、きつ音のことを伝えていきたい”。

カフェに設けられたボードには多くのメッセージが書かれていました。
ひとりじゃない。
たとえ注文に時間がかかっても訪れた人もスタッフも笑顔で大切な時間を共有していました。

過心杏さん
「本当に一人じゃないし、症状が軽くても重くても悩んでいることに変わりはないので、一歩少しだけ踏み出して、こういう場に出てくれば、自分の経験としてもいいんじゃないかと思います。」

「注文に時間がかかるカフェ」は常設店がなく、全国各地を移動しながら開店していて、
今後も東京などさまざまな場所で開かれる予定です。