【キャスター津田より】1月13日放送「福島県 双葉町」

このたびの能登半島地震のご遺族の皆様、ならびに被災された皆様に、番組スタッフ一同、心よりお悔やみとお見舞いを申し上げます。
停電、断水、物資や医療も届かずに人であふれる避難所、衛生問題や体調不良の続出、サバイバルのような孤立集落や避難所に入れない人の車中泊、被災した住宅での自主避難…。東北の私たちも完全に同じことを13年前に経験しました。被災した方や自治体職員の表情まで全く一緒です。
当時は私たちも絶望し、“もう終わった”と思いました。でも、先に被災した私たちは、“いずれ必ず復興に向かう”という事実も知っています。今は信じられないと思いますが、どうか経験者を信じて、何とかあと少し辛抱していただければと思います。こんなことぐらいしか言えず、恥ずかしい限りです。

さて今回は、福島県双葉町(ふたばまち)の声をお伝えします。人口は5400あまりで、事故を起こした福島第一原発が立地しています。全域に避難指示が出て、面積の96%は放射線量が高い帰還困難区域に指定されました。2020年3月、帰還困難区域を外れたわずかな地区で、人は住めませんが避難指示が解除されました。2022年8月には、帰還困難区域の中にある、住民の約7割が暮らしていた550ヘクタールほどで、除染やインフラ整備が終わって避難指示が解除されました。この時、実に11年5カ月ぶりに居住が可能となりました。自治体の中では最も遅く、帰還が始まりました。
現在、JR双葉駅の周辺には、役場の新庁舎や診療所、駐在所があり、新たに整備した町営住宅では生活も始まっていて、今年5月までに全86戸が完成する予定です。2025年度には商業施設がオープンし、小売り大手のイオンと飲食店3軒の入居が決まりました。駅から離れた地区には、県内外の20社以上が進出する産業団地や、震災と原発事故を伝える県の伝承施設、企業や飲食店、土産物店、コンビニも入る産業交流センター、約130室のビジネスホテルもあって、2025年度には、大規模な会議場を備えた別のホテルがオープンする予定です。去年は、日帰り入浴や飲食を楽しめるレジャー施設『さくらの里双葉』も開業しました。さらに、今なお帰還困難区域の地区でも、一部では帰還を希望する人のための除染作業が始まりました(町民からは一部ではなく、全体の除染を求める声が上がっています)。
一方、すでにほとんどの町民は避難先に新しい家を構え、そこに生活の根を下ろしています。

はじめに、JR双葉駅の隣に整備された町営住宅を訪ねました。帰還開始から1年5か月、町に住むのは人口の約2%、100人ほどです。町内では帰還者や移住者など住民同士の交流を深めるため、『双葉町結ぶ会』が発足し、夏祭りやラジオ体操を行ってきました。住民の一人、大島遊亀慶(おおしま・ゆきよし)さん(68)は福島市出身で、復興関連の仕事に携わったことを機に、2年前に移住しました。

「戻ってきた人は点在しているじゃないですか。話す人がいないと1人ぽつんと寂しいので、何とかみんなで協力して、ちょっとでもここに住んでいるのが楽しくなるようにしないと」

また、双葉町出身の谷津田陽一さん(やつだ・よういち)さん(72) は、自宅を修理し、避難指示解除と同時に帰還しました。 町にはまだスーパーもなく、住民の助け合いが不可欠だそうです。

「兄弟とか、親類、友達、いろんなつながりが無くなった町なんです。その代わり、さっきもボランティアで買い物に付き合ったんだけど、便利に生活ができるまでの間、誰かが運転して車のない人を送迎する、そういうのを始めたばっかりなんです。ここで若い人が結婚して第1号の子どももできたら、皆でお祝いしなくちゃと思っています。まずスタートしないと、1がなかったら10も何もないのでね」

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次に、帰還困難区域だった下羽鳥(しもはとり)地区に行き、除染した農地でブロッコリーを育てていた、元農協職員の木幡治(こはた・おさむ)さん(73)に話を聞きました。いわき市に自宅を再建し、町に頻繁に通っています。帰還困難区域内にあった農地では、除染を行い、2021年にコメと野菜の試験的な栽培が始まりました。ホウレンソウやブロッコリーなどの野菜については、翌22年に出荷制限も解除されました。木幡さんが2年前に出荷したブロッコリーは、町から出荷した最初の作物となりました。

「やっぱりうれしかったですよね。汗かいて野菜を収穫するっていうのは、気持ちいいものです。問題はこれからですね。担い手をどうやって見つけて、どうやらせたらいいんだか…。双葉町はもともと農業の町なんですよ。始まればゆっくりでも一歩一歩進んでいきますんで、それが楽しみです」

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また、1月6日と7日には、人々が縁起物のダルマを買い求める伝統行事“ダルマ市”もありました。多くの町民が避難するいわき市で開催されてきましたが、去年から町内に戻っています。地元農協の女性部は30年前から自作のダルマを売り、避難でメンバーが各地に離散した後も、毎年9月には集まってダルマを作ってきました。代表の石田惠美(いしだ・えみ)さん(69)は、5年前に避難先のいわき市に家を建て、双葉町の自宅(築8年で避難)は、去年秋に取り壊したそうです。

「お互い家が遠いので、話をする機会がないです。だから、ダルマを売りながらお話しするのが楽しいです。家を壊しちゃうと、またあそこに家を建てられるんじゃないかという気が起こってくる…おかしいよね。土地はあるんです。先祖伝来だからね。それを無くしてしまってはどうかと思うけど、帰るといっても、まだ帰還困難区域だから…。毎日夜も眠れず、“これから先、どう生きていこうか”と思った時、いつも笑顔でいれば、何とか未来が切り開けるんじゃないかと思って、頑張ってきました」

その後、町から80キロ離れた郡山(こおりやま)市に行きました。郡山市には、580人あまりの双葉町民が生活しています。町の民謡同好会の会長を務める伊藤美枝子(いとう・みえこ)さん(81)は、10年前に郡山市に自宅を新築し、夫と娘夫婦、孫の5人で暮らしています(双葉町の自宅は5年前に解体)。民謡同好会は震災翌年に活動を再開し、老人ホームやイベントで唄や踊りを披露してきました。

「やっぱり町の人はいいなって…町で培ってきた人情とかいろいろあるでしょ。そういうのが懐かしい。家も壊しちゃったから、悲しいし寂しいし、むなしいね。でも気持ちは双葉にある…生まれ育った所だからね。どんなに遠くにいても、双葉っていう自分の町があるんだって思うと、何となく救われますよ。下を向いて暮らしてもしょうがないです。元気に楽しく生きるのが儲けものだと思っています」

さらに、市内にある災害公営住宅で暮らす、渡邊光一(わたなべ・こういち)さん(72)にも話を聞きました。郡山市内には8つの災害公営住宅があり、約120人の町民が暮らしています。渡邊さんは事故後、県内外の5カ所を転々と避難し、郡山市の仮設住宅に入った後、8年前に妻と2人で災害公営住宅に入居しました。いわき市に自宅を再建した長男一家からは、同居を勧められているそうです。

「思い出がみんな双葉だから、ついつい双葉だもんな。双葉に行きたいけど、家内が“行かねえ”って言えば、ケンカしてまで戻ることもないし…。息子はいつ来てもいいって言ってくれるから、どうしようかと頭の中がグルグル回って…。郡山の人にいっぱい支援してもらったから、これだけの生活ができるようになったし、この地に足をつければいいのかな…とも思うしね。悩むよ、13年たっても」

去年、県内外の11カ所で開いた2023年度の町政懇談会では、「定着した生活を捨てて双葉に帰れない」「町内の復興もいいが、町外の人の生活も考えてほしい」という声が当然のように出ました。農業の再建でも、高齢化が進んで後継者もいない中、通いながらの農業は非常に負担が大きいです。何より双葉町で暮らすことは、福島第一原発の廃炉作業のすぐそばで暮らすことを意味します。11年5か月も人が住めなかった町の未来を預かる役場の苦悩も、尋常ではありません。

最後に、取材期間中に行われた双葉町主催の『二十歳を祝う会』(旧成人式)で出会った、ある女性の声を紹介します。式典には、震災当時、小学1年生だった53人のうち9人が出席し、その一人、橋本葵(はしもと・あおい)さん(19)は、両親と弟、祖父母で関東地方に避難しました。一家は今、茨城県に住み、橋本さんは埼玉県の大学に通っています。式典後、役場の計らいで13年ぶりに訪れた母校の双葉南小学校では、自分の読書感想文を見つけ、懐かしそうに見入っていました。

「1年生だったから、原発とか言われても何も分からなかったし、逃げろって言われて逃げていただけだから…。日常が無くなっちゃったみたいで、“震災がなかったら、こんなつらい思いをしなかったのにな”って、埼玉では学校へ行きたくない時が多かったです。成人式を双葉で迎えられたのは、今まで町の復興に関わった方々のおかげだと思うし、学校に行きたくなかった時、お母さんは毎日学校まで送ってくれたし、“無理に行かなくてもいい”と言ってくれたし、おじいちゃん、おばあちゃんも、つらいことがあっても一緒に乗り越えてくれたし、いろんな人に感謝の気持ちでいっぱいなので、次は自分が恩返しできるように、もっと強くて素敵な大人になりたいです」

涙を交えて話した橋本さん。大学で学ぶ観光学を生かし、町の役に立つ仕事をするのが夢だそうです。

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