新型コロナ3年 現状は、今後は、注意点は... 東北医科薬科大・賀来満夫特任教授にさまざま聞きました

新型コロナウイルスの感染が国内で初めて確認されてから3年がたちました。
宮城県内では、今月(1月)、感染者の累計が50万人を超え、
人口で単純に計算すると、これまで4~5人に1人が感染したことになります。
最近では感染して死亡する人が増え、インフルエンザとの同時流行も懸念されています。

現状をどう受け止めればいいか。
そして、今後の見通しや私たちが注意すべきことについて、
感染症対策に詳しい東北医科薬科大学の賀来満夫 特任教授に聞きました。

※2023年1月13日に取材した内容です。

 (取材:NHK仙台放送局 記者 岩田宗太郎)

〔動画〕1月19日「てれまさむね」より(約6分)

【現状の受け止め】

Q.
宮城県内でも連日、多くの感染者が確認されています。現状をどう受け止めていますか。

A.
年末からずっと感染の第8波が続いています。
医療機関では、医療従事者が感染したり濃厚接触者になったりして就業制限がかかり、救急現場などを含め医療体制が弱くなっています。感染者の急増を受けて、引き続き医療体制のひっ迫が起こっている状況と思います。

 

【死者の増加 その理由は?】

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Q.
最近は感染して死亡する人が増えています。どうしてでしょうか。

A.
実際の感染者数が、報告されているよりも多い可能性があります。今は、自分で検査をして申告することがありますが、その申告が行われず、本当は社会全体でもっと感染者が多くなっていて、結果的に重症化する人が増えているということも1つの要因と思われます。

また、高齢の方、基礎疾患がある人が感染することでもともとの持病が悪化し、重症化して亡くなるケースが考えられます。

さらに、新型コロナはもともと肺炎を起こす病気として知られていましたが、それだけでなく、血管の細胞に障害を起こして血液の塊を作り、それがもとで心筋梗塞や脳梗塞などの循環器系の合併症を起こすことが、さまざまな研究で分かってきました。

 

【インフルエンザと同時流行のおそれ】

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Q.
この冬、宮城県内ではインフルエンザの患者も増え、「流行期」に入りました。
新型コロナとの同時流行は起こるのでしょうか。

A.
日本ではここ数年、インフルエンザの流行がほとんどなく、インフルエンザウイルスに対する免疫力が低下してきています。日本とは季節が逆の南半球ではすでに大きな流行があり、日本でも感染が広がるおそれがあります。学校が始まって子どものインフルエンザの感染が増えてくる可能性があるので、十分注意しなければならないです。

また、新型コロナとインフルエンザに同時に感染することもあり、症状がより重くなったり、長引いたりすることも報告されています。

新型コロナとインフルエンザの症状は、発熱やせき、頭痛、けん怠感などで、本当に似ているため区別が難しいです。
今では、どちらに感染しているかを同時に判別できる検査キットも出ているので、早めに診断をつけ、早期治療につなげる必要があります。

 

【変異株の影響は】

Q.
アメリカなどでは、新型コロナの新たな変異ウイルスも報告されています。影響はありそうですか。

A.
第7波の原因となった変異ウイルス「BA.5」の割合が今はどんどん少なくなって、6割ほどになっています。その代わりに「BQ.1」や「XBB.1.5」などの新たなものがどんどん増えています。

アメリカで問題となっている「XBB.1.5」は、ワクチン接種でできる抗体を逃れる、つまり効きにくくなるという性質、また、ヒトの細胞にくっつきやすくなって感染力が増えているという性質があります。この変異ウイルスが広まると、いったん収まってきた感染が再び増えたり、感染者がなかなか減らなかったりと、感染拡大の波が長引くおそれがあります。

 

【不安の中の制限緩和】

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Q.
死亡する人が増え、さまざまな懸念材料がある中で、最近は行動制限が緩和されてきました。私たちは何に気をつけて行動すればいいのでしょうか。

A.
この感染症は、特に若い人はあまり重症化しないことが分かってきました。
一方で、高齢の方や基礎疾患のある人は重症化のリスクが高い。
こうして、大きく2つに分かれてきています。

感染の予防法や、重症化をどう防ぐかについて、徐々に分かってきてはいますが、
それでもまだ救えない、守らなければいけない方がいるのが現実です。

これまで非常事態宣言やまん延防止等重点措置などによって、私たちの行動が制限されてきました。制限がない社会生活を私たちは希望しているわけですが、新型コロナはまだゼロにはなっていない。

弱い立場の、守らなければいけない方をしっかり守りながら、一方で経済活動を活発にする。このバランスを私たちがどうとっていくのか、ことしの大きな課題と思います。
感染リスクを常に認識して対策やワクチン接種をしっかり行いながら、いかに日常生活を行っていけるか。“ウィズ・コロナ”の生活をどう送っていけるか。私たちがチャレンジする1年ではないかと思います。

 

【求められる感染対策と備え】

Q.
インフルエンザとの同時流行も心配されますが、必要な感染対策と備えを教えてください。

A.
<マスク>

新型コロナもインフルエンザも、主に、口から飛ぶ飛まつ、あるいは小さなマイクロ飛まつによって感染します。このため、とても重要なのは、やはりマスクを着けること。特に人と会うとき、会話をするときなどはマスクをしっかりつけることが重要です。

マスクが効果的というのは以前からいろんな研究がありますが、特にアメリカで、マスクの有効性が見直されてきています。日本では多くの人がつけていますが、もしもマスクをつけていなかったら、もっと大きな流行が起きると考えられます。

最近の研究では、気温が下がったり乾燥したりすると鼻の中の免疫細胞の力が非常に弱くなることが分かっています。マスクをすることで温度や湿度を保ち、免疫力を維持できるという研究も出てきて、改めてマスクの効果を認識する必要があると思います。

<換気・手洗い>
そして、換気をする、手洗いをする。これはもう、何か特別なことではなく、ふだんの衛生的な習慣として行っていただきたいです。

<ワクチン接種>
さらに、新型コロナとインフルエンザ、それぞれのワクチン接種を受けることも重要です。

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<備蓄・行動を考えておく>
実際に感染する可能性は常にあるので、1週間分の食料や飲み物、解熱剤などの薬を備蓄しておく。また、症状が出た場合、どこに連絡してどう行動するかをあらかじめ考えておく必要があります。

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【経験からの見直しも】

Q.
これまでの経験から対策を見直してきたことはありますか。

A.
例えば、屋外にいて人との距離があり、会話しないような場合には、マスクは不要と考えられます。

また、いろいろなものにウイルスが付着しますが、今の状況では、環境の中でウイルスが長く生きることは少ないのではと考えられます。例えば、ビュッフェなどで手袋をつけて食べ物をとることがありますが、そこまで過剰な対策は必要ないと思います。

 

【収束までの道のり “まだ道半ば”】

Q.
国内初の感染確認から丸3年です。以前のような日常を取り戻すことはできるのでしょうか。私たちは今、収束までの道のりの、どこにいるのでしょうか。

A.
この感染症が発生したとき、収束までは少なくとも3年から5年はかかるのではないかと言われていました。3年がたち、徐々に収束は見えつつあるように思いますが、一方ではまだ道半ば、ようやく折り返し地点を過ぎたところと言えるかもしれません。

本当にこの感染症は、スペインかぜ以来の、100年に1度の感染症と思います。変異ウイルスが次々と出てきて、それによって感染の波が大きくなる。ワクチンで重症化は防げても、感染予防効果は長続きしない。高齢者や基礎疾患がある人は重症化するし、若い人でも後遺症に悩む人が多い。本当に制御しにくい、対応しにくい感染症と思います。

この病気が収束するかどうかはいろんな考え方があります。病原性が弱まって重症化しなくなることも1つの条件と思いますし、例えば冬に流行するけれどもそれ以外はあまり流行しない、インフルエンザのような形になることも考えられます。いずれにしても、今のように多くの方が感染して、重症化する人が一定の割合で出てくるということは、まだまだ収束には届いていないと考えなければならないと思います。

収束まであと何年かかるか、これが1年になるのか2年になるか分かりませんが、収束までにはもう少し時間がかかるんだと認識した上で、“ウィズコロナ”の行動をしっかりと立て直すことが求められます。

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【3年間を振り返って】

Q.
この3年間の対策を振り返り、感じることは何ですか。
私たちは、新型コロナとしっかり闘えているのでしょうか。

A.
この3年間でいろんなことが分かってきました。ワクチンが開発されて、ある程度、重症化を防げることも分かりましたし、効果的な治療薬も開発されました。
また、夏は冷房をつけ、冬は暖房をつけ、室内で換気がうまくいかない環境条件で、ある程度、夏と冬に感染が増えることも経験しています。こうして明らかになったことをしっかりと理解して、それに基づいた対応をとっていく必要があると思います。

さらに、日本で行われてきた感染対策は世界的にも評価されています。国民が、義務的ではなく、自主的にマスクを着用し、手洗いなどを励行してきました。そしてワクチン接種をしっかりと受けてきたことは、被害を抑えるのに十分役だったと考えます。

 

【経験から学ぶことは】

Q.
最後に、私たちはこの経験から何を学べばいいでしょうか。

A.
交通のグローバル化によって世界が1つになり、誰もがどこにでも行ける時代になってきました。非常に便利ですが、このような感染症が発生したとき、どれだけ大きな事態になるか、私たちはこの3年間で経験してきました。

新たな感染症は、今後もまた出現すると思います。
感染症を制御するには、個人個人の感染予防とともに、社会全体で制御していくことが重要です。感染症に強い社会を作るため、1人ひとりが意識を高め、国や自治体とともに積極的に関わっていく必要があります。そして、感染症についての研究・開発を進め、詳しい人材、専門家を育成していく。さまざまなことに挑戦していかなければならない、こうした大きな課題が浮き彫りになったと思います。

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今の状況では、お年寄りや基礎疾患がある人は重症化のリスクがあり、実際に亡くなる方が増えているという現実を認識していただきたい。その上で、感染症は、個人、そして社会全体で防御していくものだと理解して、自分自身を感染から守る、また、リスクのある弱い立場の方を守っていく、そんな生活を続けていただきたいと思います。