『後発地震注意情報』って何? 解説します

「後発地震注意情報」の運用が12月16日から始まりました。
「千島海溝・日本海溝」で想定される巨大地震に関連した情報ということですが、
NHK仙台放送局の内山太介記者が解説します。


【「後発地震」ってなに?】

「後発地震注意情報」の「後発」という言葉、聞いたことがない人がほとんどだと思います。思い起こしてもらいたいのが、東日本大震災の2日前の3月9日に発生した地震です。このときの地震はマグニチュード7.3で、宮城県には津波注意報が出され、カキなどの養殖施設に被害が出ましたが、その2日後にマグニチュード9.0の巨大地震が発生しました。このようにマグニチュード7クラスの地震が起きたあとに起きた、より規模の大きな地震が「後発地震」で、その発生の可能性があると注意を呼びかけるものです。

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【どんな地震で出されるの?】

この情報が発表されるのは、北海道から岩手県にかけての沖合にある「千島海溝」(地図の赤部分)と「日本海溝」の北側(地図のグレー部分)の震源域やその周辺で起きるマグニチュード7クラスの地震の場合です。

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地震発生からおおむね2時間後をめどに発表され、対象は▼3メートル以上の津波や▼震度6弱以上の揺れなどが想定されている北海道から千葉県にかけての沿岸の市町村で、宮城県は、県内で一体的な対応をとりたいという地元の要望をふまえ、沿岸に限らず全ての市町村が対象になります。

【なぜこの情報が出されるの?】

東日本大震災のあと進められた、津波によって運ばれた土砂など「津波堆積物」の調査から、「千島海溝」沿いと「日本海溝」の北側にあたる領域で、高い津波を伴う巨大地震が300年から400年の間隔で発生していることがわかりました。しかも、17世紀の地震を最後に巨大地震は発生しておらず、国の検討会は「最大クラスの津波の発生が切迫している」と指摘しています。

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千島海溝では1963年に択捉島の南東沖でマグニチュード7.0の地震が起き、その18時間後に8.5の巨大地震が発生しています。東日本大震災も2日前にマグニチュード7.3の地震がありました。こうしたことから、マグニチュード7クラスの地震のあとに巨大地震が起きるかもしれないと「後発地震注意情報」が出されることになりました。

巨大地震の実像は、まだわかっていないことも多いですが、この地域で巨大地震の発生が切迫していることに加え、東日本大震災や択捉島南東沖地震、また、震源域はまったく異なり、今回の注意情報とは関係ないですが、熊本地震でも当初、本震と見られていたマグニチュード6.5の地震が起きた2日後に、マグニチュード7.3の地震が起き、大きな被害が出たというケースもあるので、十分、注意が必要なのです。

【情報が出たらどうすればいいの?】

巨大地震が起きる可能性があるといわれていますが、この情報が出たからといって、事前の避難の呼びかけはありません。発表から1週間程度は日常の生活を維持しつつ、津波が想定されるなど、迅速な避難が必要な場合にはすぐ行動できるよう備えておくことなどを求めるとしています。

こちらは国が対応をまとめたガイドラインです。

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(▲ クリックで拡大)

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【”発生確率は1%”?】

今回の情報は、巨大地震の発生の可能性が平時より高まっていることをお知らせするわけですが、マグニチュード7クラスの地震が起きたからといって必ず巨大地震が起きるわけではありません。

気象庁は、国内外の過去110年余りのマグニチュード7以上の地震の記録からその後、さらに大きな地震が起きたケースは100回に1回程度だとしています。つまり確率的には1%しか起きないのです。

だから情報に過度な期待をしてはいけないし、むしろマグニチュード7クラスの地震あと、すぐに巨大地震が起きることはまれだと捉える必要があります。

一方で、千島海溝や日本海溝を震源とする巨大地震が発生すること自体は切迫性があるとされているので、わたしたちはどう向き合えばいいのか困ってしまいますよね。
東北大学災害科学国際研究所の今村文彦教授に聞きました。

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今村教授
「今回の後発地震注意情報は「警報」ではなく「注意報」なので、信頼性が高くないし、不確実な情報。だからといって、準備をして無駄ということは決してない。空振りでもいい。野球で言う”素振り”だと思って、いざというときの備えと捉え、家庭や職場、地域などで一段階上の備えをしてほしい」


【発表は2年に1回程度 周知に課題】

気象庁は、過去の地震のデータから「後発地震注意情報」の発表の頻度は「おおむね2年に1回程度」となる見込みだと説明しています。そもそも聞き慣れない言葉だし、地震はいつ起きるか分からないので、できるだけ早く周知する必要がありますが、宮城県や沿岸の自治体も、住民にどのように呼びかけるのか検討を始めたばかりです。

また、巨大地震の前兆とされるマグニチュード7程度の地震でも、震源の場所によってはかなり大きな地震になります。もちろん予兆がなく突然、巨大地震が起きる可能性もあるので、私たちは「後発地震注意情報」が出てから備えるのではなく、改めて、地震への備えが十分出来ているか、確認してほしいと思います。


uchiyama221216.jpg内山太介
1996年入局

静岡局、名古屋局で事件・事故を中心に10年近く関わったあと、福井や新潟、東京・科学文化部で原発報道に携わる。2011年から14年まで仙台局勤務。10年間のデスク生活を経て現場復帰。温泉と映画が好き。常に日本酒で乾杯。阪神タイガースの大ファン。