浸水面積が東日本大震災の1.2倍 宮城最大レベルの津波想定とは
(CGソフトウェア開発:板宮朋基)
成人の腰のあたりまで浸水する名取市の杜せきのした駅前。これは宮城県が2022年5月10日に発表した最大レベルの津波想定を可視化したものです。
新たな想定では、浸水する面積が東日本大震災のおよそ1.2倍に上り、震災後に整備された住宅地や避難所、市役所や町役場も浸水区域に含まれます。
どのような内容なのか、今後どのような備えが必要なのか、詳しくお伝えします。(取材班)
【避難対策のため 悪条件下で最大規模の想定】
津波の新しい浸水想定は、県が避難対策の基礎とするため、国の法律にもとづいて設定し、10日に公表しました。▽東日本大震災と同じ東北地方太平洋沖▽日本海溝▽千島海溝で起きる3つの巨大地震について津波のシミュレーションを行い、浸水の規模が最も大きい結果を地域ごとに選びました。
また▼防潮堤が壊れる、▼満潮の時間帯に発生するなど、悪い条件が重なった場合を考慮して津波の高さや浸水の範囲を設定しました。
その前提で分析した結果、浸水する面積は震災時の1.19倍にあたる391平方キロメートルに上りました。
県が発表した浸水想定図の一部です。赤や黄色が浸水範囲です。津波は名取市の国道4号線の近くにまで及び、震災では浸水しなかった杜せきのした駅周辺も「0.5m以上1m未満」や「0.3m未満」などの色が付けられています。
最初に紹介した画像は、この結果をもとに0.7mの浸水をCGで表現したものです。
【津波高さ最大22m 到達から10分で最大波に】
市町別の最大となる沿岸の津波の高さ及び地点 (県の公表資料より) | |||
沿岸名 | 市町名 | 津波の高さ (T.P.m) |
最大となる地点 |
三陸南沿岸 | 気仙沼市 | 22.2m | 気仙沼市本吉町道外 付近 |
南三陸町 | 21.2m | 南三陸町戸倉長須賀 付近 | |
石 巻 市 | 19.6m | 石巻市雄勝町雄勝上雄勝 付近 | |
女 川 町 | 20.7m | 牡鹿郡女川町海岸通り 付近 | |
仙台湾沿岸 | 石 巻 市 | 11.2m | 石巻市桃浦向 付近 |
東松島市 | 10.6m | 東松島市宮戸観音山 付近 | |
松 島 町 | 4.7m | 松島町松島大沢平 付近 | |
利 府 町 | 5.0m | 宮城郡利府町赤沼櫃ケ沢 付近 | |
塩 釜 市 | 4.8m | 塩釜市新浜町 付近 | |
七ヶ浜町 | 10.0m | 宮城郡七ヶ浜町菖蒲田浜長砂 付近 | |
多賀城市 | 8.6m | 多賀城市栄 付近 | |
仙 台 市 | 10.3m | 仙台市若林区井土須賀 付近 | |
名 取 市 | 10.7m | 名取市下増田屋敷 付近 | |
岩 沼 市 | 11.3m | 岩沼市早股前川 付近 | |
亘 理 町 | 11.5m | 亘理郡亘理町吉田砂浜 付近 | |
山 元 町 | 14.9m | 亘理郡山元町坂元浜 付近 |
最も高い津波を市町村別にまとめました。
県によりますと
▽5メートルで一般的な住宅の2階の天井まで、
▽3メートルで2階の床下まで、
▽0.5メートルで1階の床までつかるとされています。
最も高い気仙沼市の本吉町道外付近では22.2メートルという結果になりました。
このほか女川町の海岸通り付近で20.7メートル、仙台市の若林区井土須賀付近で10.3メートルなど、ほとんどの地域で10メートル以上の津波が想定されています。
津波の水位・影響開始時間等一覧表(県公表資料より) | |||||
市町名 | 代表地点 | ||||
影響開始時間 | 第1波(+1m) 到達時間※1 |
最大波 | 代表地点数 | ||
到達時間※2 | 津波水位※2 (T.P.+m) |
||||
気仙沼市 | 5分 | 21分 | 41分 | 21.7 | 32 |
南三陸町 | 4分 | 23分 | 46分 | 20.8 | 16 |
石巻市 | 4分 | 21分 | 60分 | 18.7 | 50 |
女川町 | 6分 | 25分 | 46分 | 20.2 | 15 |
東松島市 | 10分 | 51分 | 62分 | 10.0 | 11 |
松島町 | 32分 | 73分 | 124分 | 3.7 | 4 |
利府町 | 26分 | 74分 | 125分 | 3.4 | 2 |
塩釜市 | 19分 | 56分 | 66分 | 9.3 | 7 |
七ヶ浜町 | 16分 | 57分 | 65分 | 9.4 | 8 |
多賀城市 | 15分 | 60分 | 69分 | 7.8 | 1 |
仙台市 | 13分 | 59分 | 69分 | 10.3 | 8 |
名取市 | 14分 | 60分 | 68分 | 10.5 | 3 |
岩沼市 | 15分 | 60分 | 68分 | 11.2 | 3 |
亘理町 | 15分 | 60分 | 67分 | 11.0 | 3 |
山元町 | 15分 | 58分 | 64分 | 11.7 | 6 |
※1:影響開始時間及び第1波(+1m)到達時間は、各市町における複数の代表地点のうち、最速のものを記載
※2:各市町における複数の代表地点のうち、最大となる津波の到達時間と水位を記載(最大となる地点が複数ある場合は到達時間の早い方を記載)
津波の到達時間の一覧です。最も早い気仙沼市の場合、地震発生から21分後に1メートル以上の第1波が到達し、41分で20メートル以上の最大波になるとされています。
東松島市と塩釜市、七ヶ浜町、仙台市、名取市、岩沼市、亘理町、山元町では、1メートル以上の津波が来てから10分ほどで10メートル近い最大波になるとされ、急激な水位の上昇が予想されています。
市町別浸水面積 (県公表資料より) | ||
市町名 | 浸水面積(㎢) | |
宮城県津波浸水想定 | 東北地方太平洋沖地震 津波の実績※1 |
|
気仙沼市 | 25.6 | 18.0 |
南三陸町 | 13.8 | 10.0 |
石巻市 | 84.9 | 73.0 |
女川町 | 6.2 | 3.0 |
東松島市 | 49.2 | 37.0 |
松島町 | 6.0 | 2.0 |
利府町 | 0.6 | 0.5 |
塩釜市 | 5.8 | 6.0 |
七ヶ浜町 | 5.8 | 5.0 |
多賀城市 | 11.2 | 6.0 |
仙台市 | 53.8 | 52.0 |
名取市 | 30.5 | 27.0 |
岩沼市 | 28.8 | 29.0 |
亘理町 | 42.0 | 35.0 |
山元町 | 26.8 | 24.0 |
※1:東北地方太平洋沖地震津波の実績値は国土地理院HPを基に記載
市町別の浸水面積です。最も広いのは石巻市で、震災の1.16倍となる84.9平方キロメートルでした。岩沼市と塩釜市以外は震災を上回っています。
【市役所 町役場 かさ上げ住宅地も浸水区域に】
各地の想定結果を見ていきます。まず気仙沼市です。震災後に津波対策として最大5メートルかさ上げした鹿折地区や漁港周辺が広く浸水区域に含まれ、やや高台にある気仙沼市役所も一部浸水する想定となりました。津波は国道45号線を越え、震災では浸水しなかった上田中付近にまで到達するとされています。
仙台市の宮城野区周辺です。津波は仙台東部道路を越え、国道45号線やJR仙石線の陸前高砂駅周辺にまで及ぶとされています。一部、国道4号線周辺の水田にまで到達する想定となっています。
△岩沼市役所周辺(CGソフトウェア開発:板宮朋基)
今回の想定では沿岸の15の市と町のうち、▼気仙沼市▼女川町▼石巻市▼東松島市▼松島町▼塩釜市▼多賀城市▼岩沼市▼亘理町の9つの市役所や町役場が浸水区域に含まれています。女川町や松島町、亘理町は東日本大震災の地震や津波で被災し、かさ上げした場所に移転するなどして新たに建設したものです。
市役所や町役場は災害時の拠点となる施設です。それぞれの市や町では、孤立した場合の代替施設などについて議論が進みそうです。
ほかの多くの地域でも、震災では浸水しなかった住宅地や避難所に指定されている施設などが浸水区域に含まれることになりました。今回の想定を受けて、避難所や避難ルートの見直しなどが必要になりそうです。
【原発避難にも影響か】
東北電力が2024年2月の再稼働を目指している、女川原子力発電所の周辺はどのような結果になっているのでしょうか。周辺の津波の高さは12.7メートルとされました。女川原発は高さ23メートルの津波にも耐えられるように防潮堤の工事作業を進めているので、防潮堤の内側は浸水しないとみられています。
ただ、原発周辺の多くの主要道路が浸水するため、原発事故が起きた場合の住民の避難ルートに影響する可能性があります。
例えば牡鹿半島の石巻市鮎川地区の住民が避難する場合、市がまとめた避難計画では半島沿岸の県道を通るルートが指定されています。
しかし、その県道は5メートル以上の浸水が想定されている場所があるほか、半島を出たあとの国道も浸水するとみられていて、地区の孤立や避難の遅れにつながることも懸念されます。
【万が一に備え 避難場所 避難ルートの確認を】
震災後に整備された巨大な防潮堤を越えて、かさ上げした住宅地にも津波が及ぶ。
その地域に住んでいる人もいるなか、正直、考えたくはない想定です。浸水区域に住んでいる人や働いている人たちは、この想定をどう受け止めればいいのでしょうか。
(県のQAより)
“浸水想定は、最大クラスの津波が、考え得る悪条件が重なる状況で発生するという、極めてまれな条件設定で計算をしています。私たちの日常生活に大きな影響を及ぼすものではありませんが、避難を促す範囲の目安を示すものなので、万が一に備えて、避難場所や避難ルートを確認してください”
11年前の震災で、災害に上限がないことを私たちは学びました。想定結果を真正面から受け止めて、今できる備えをしておきましょう。
※NHK仙台放送局では、5月11日からの「おはよう宮城(平日午前7時45分~)」で、県内の地域ごとの津波浸水想定を解説するシリーズを14回にわたって放送します。
※宮城県の新しい津波浸水想定を知りたい方はこちらへ(宮城県庁のページへ移動します)
https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/kasen/miyagi-tsunami-shinsuisoutei-published1.html