ロヒンギャ迫害で批判 どうするスー・チー氏
2019年12月15日の出演者のみなさんです。
左から、永井伸一キャスター、坂下千里子さん、Mr.シップ、ゲストの榊原郁恵さん、国際部の清水一臣デスクです。
伸さんとMr.シップ、この日は東京・高田馬場へ。
「あ、こんなところに、ミャンマー!」。
ミャンマーと言えば、民主化運動のリーダーとして活躍した、アウン・サン・スー・チー国家顧問。
ノーベル平和賞も受賞し、国民からの人気は絶大です。
ところが、国内で起きている「ある問題」をめぐって、いま、国際的な裁判の被告側に…。
いったいどういうことなのか、国際部・アジア担当の清水一臣デスクが解説しました。
まず、スー・チー氏について説明します。
スー・チー氏は、50年近く軍が政権を握っていたミャンマーで、民主化運動のリーダーとして国民を導いてきました。
長く自宅に閉じ込められていたんですが、1991年にノーベル平和賞を受賞しました。
ようやく自由の身になったあと、選挙で圧勝。
3年前に「国家顧問」という、国の実質的なトップに就任しました。
国民の間では絶大な人気があり、私も実際取材したことがありますが、背筋をのばし民族衣装に身を包んだ姿には、カリスマとしてのオーラのようなものも感じました。
でも、そのカリスマがいま「国際司法裁判所」というところで、裁判の「被告側」として法廷に立っているんです。
スー・チー氏が率いるミャンマーは、ロヒンギャと呼ばれる人たちへの迫害をめぐって、訴えられているんです。
ロヒンギャの難民キャンプでは、竹などで作られた小屋がひしめくように建っています。
雨が降れば、土砂崩れで亡くなる人もいます。
迫害から隣の国に逃れてきた90万人以上ものロヒンギャの人たちが、いまもこうした生活を強いられています。
ひどい衛生状態で、病気になる人があとをたちません。
子どもたちも十分な教育を受けられず、今世紀のアジアで最大の人道危機とも言われています。
[ミャンマー西部で暮らしているロヒンギャについて、オレが説明するヨーソロー]
ミャンマー人とロヒンギャでは、話す言語が違います。
そして、宗教も、ミャンマー人は仏教徒が多く、ロヒンギャはイスラム教徒が多いんです。
ミャンマー人はロヒンギャに対して「“よそ者”のくせにずっとミャンマーにいて、いつか侵略しようとしている」と思っています。
ロヒンギャは、ミャンマー人から嫌われ、ひどい差別を受け、国籍すら与えてもらえませんでした。
迫害を受け「もうこんな状況我慢出来ない」と怒った一部のロヒンギャの武装勢力が、ミャンマー軍や警察の施設を襲撃しました。
これを受けてミャンマー軍は、ロヒンギャ武装勢力の掃討作戦にのりだしました。
ロヒンギャはこの時、仲間が殺されたり暴力を受けたり、家を焼かれたりしたと訴えています。
そのため、ロヒンギャの人たちは国外で避難生活を送ることになってしまいました。
国連の報告では、掃討作戦のなかで、1万人ものロヒンギャの人たちが亡くなったとされています。
スー・チー氏は、なにもしなかったわけでないんですが、消極的な姿勢が目立ちます。
ミャンマーの国民感情に配慮する必要もあるからです。
しかし、イスラム教徒と、これまでスー・チー氏に期待していた欧米の国々や人権団体などはいらだちを募らせていて、「ノーベル賞を返上しろ」という声まであがっています。
スー・チー氏が、なぜ消極的なのか、それはミャンマー国内を見るとわかります。
スー・チー氏が国のトップとはいえ、ミャンマーでは軍がいまだに強い権力を持っているんです。
その軍の権力というのが…
「政治に口出し」。
議会の議席の4分の1は、憲法で、はじめから軍に割り当てられています。
ロヒンギャの問題で軍の責任を追及すれば、反感を買い大事な決定も邪魔されてしまうかもしれません。
「政治に口出し」できるのが軍なんです。
そして、もう1つは…
「言うことを聞かない」。
スー・チー氏には、軍の指揮権がないんです。
軍がロヒンギャの人たちをいじめていても、止めることができません。
これまでスー・チー氏は、2つの武器を持って軍と対抗してきました。
ところが、「世界の評価」という武器は、ロヒンギャ問題の対応のまずさから、失いつつあります。
そして、最大の武器だった国民からの圧倒的な支持さえも、最近、錆び付きが目立つようになっています。
スー・チー氏の人気は健在ですが、その影響力にかげりがでてくるかもしれない事態なんです。
実は来年、総選挙を控えていますが、カリスマとは思えない必死な姿も見られるようになっています。
総選挙を控えたスー・チー氏は、自ら国内各地を駆け回り、与党への支持を訴える異例の活動を行っています。
「みなさんに寄り添うために集会を開き、質問も受け付けます」。
地元当局者に対し、インフラ整備の遅れを厳しく問いただし、有権者にアピールするような様子も見られました。
スー・チー氏が必死に支持を訴える背景にあるのは、国民に広がる失望感です。
民主化運動を支えてきた中心人物、コー・コー・ジー氏は、およそ30年間、スー・チー氏と歩みをともにし、与党・NLDを支援してきました。
「かつての民主化運動は、国民の手による革命であり、純粋に国民自身の運動であったということを忘れてはならない」。
しかし、去年「スーチー氏の与党には民主化の進展を期待できない」として、新たな政党・人民党を設立しました。
これまで、民主化を求めてスー・チー氏を支えてきた人たちが、見切りをつけて離れつつあるのです。
「私たちのように、与党に不満があるから党をつくった人はたくさんいます。もっとできることがあるはずなんです」。
さらに、これまでスー・チー氏や与党を支持してきた少数民族の間でも、失望と反発が広がっています。
ミャンマー東部の少数民族の村に住む男性は、長年、工場の排水による悪臭や農作物への悪影響などに悩まされてきました。
前回・4年前の選挙では「スー・チー氏なら、少数民族の権利も尊重し、生活環境を改善してくれるはずだ」と与党に投票しましたが、いまだに状況は改善されず、裏切られたと感じています。
「暮らしが良くなると期待したけど。ことばもありません。もう諦めました」。
こうした不満を背景に、スー・チー氏の与党に対抗しようと少数民族の政党が協力する動きが進んでいます。
こうしたなか、スー・チー氏本人が裁判に出てきたのは、戦略なのではという見方もできるんです。
まず、1つ目の戦略は、いま持っているこの武器を強くすることです。
そもそもミャンマーの人たちはロヒンギャを嫌っているわけですから、スー・チー氏が裁判所で反論してくれれば、国民はうれしいと感じます。
スー・チー氏が持っている武器が強くなりました。
2つめは、軍の力を弱めるきっかけをつくること。
ロヒンギャへの迫害をめぐって高まる批判を、スー・チー氏が軍の代わりに受けることで、軍に貸しをつくれる。
すると軍はスー・チー氏にモノを言いづらくなります。
ただ、これはあくまでもスー・チー氏の事情です。
キャンプでは、いまも多くのロヒンギャの人たちが、厳しい状況におかれていることを見過ごすことはできません。
キーワードは「具体的な行動を」。
裁判で被告側として立ったスー・チー氏の口からは、反論ばかりで、ロヒンギャの人たちへの謝罪の言葉は聞かれませんでした。
年明けには、裁判所からミャンマー政府に対して、ロヒンギャへの迫害をすぐにやめさせるための暫定的な指示が出される可能性もあります。
この問題を解決に導くことができるのは、スー・チー氏をおいてほかにはいません。
目の前で刻々と進む危機に対して、具体的な行動こそが求められています。
【この日の時間割】
1.ロヒンギャ迫害で批判 どうするスー・チー氏
2.大統領は元コメディアン ウクライナに ロシアが…
3.地球温暖化が影響 変わる!?ワイン産地
これでわかった!世界のいま
NHK総合 日曜午後6:05~ 生放送
出演:永井伸一 坂下千里子 Mr.シップ
2019年12月22日のゲストは、高橋真麻さんです。
投稿者:永井伸一 | 投稿時間:14:45