お祝いムードのウラに課題も 中国建国70年
2019年9月29日の出演者のみなさんです。
左から、永井伸一キャスター、国際部の為井貴規デスク、坂下千里子さん、Mr.シップ、ゲストの虻川美穂子さん、岩田明子解説委員です。
※中国の建国記念日(10月1日)の2日前の放送内容をテキストにしています。
パンダのふるさと・中国は、10月1日が70年目の誕生日。
あちこちでイベントが開かれて、お祝いムードでいっぱい!
これまでものすごい勢いで発展してきた中国だけど誕生日を前に、なにやら心配事も多いようです。
国際部中国担当、為井貴規デスクが解説しました。
10月1日は中国にとって、一番大切な日です。
こちらのカラー映像、建国記念日を前に中国政府が、初めて公開しました。
70年前の10月1日の天安門広場。
中国・建国の父とされる、毛沢東の演説です。
「中華人民共和国の成立を宣言する」。
まさに、いまの中国が立ち上がった歴史的な瞬間なんです。
いまの中国は毛沢東をリーダーとする中国共産党のもと立ち上がりました。
その後、海外から資本や技術を導入するなどして、経済を成長させていきます。
世界第2の経済大国にまで成長し「豊か」になりました。
そして、いま、目指すのは「強国」。
政治や軍事、経済、あらゆる分野で世界をリードする強い国です。
共産党は中国を統治する唯一の政党です。
70年間、このやり方で中国を発展させてきました。
こちらの塔、名付けて「共産党一党支配塔」です。
今のトップがこの人、習近平国家主席です。
中国のリーダーたちは、これまで、発展の成果を内外に知らしめるように建国記念日を祝ってきました。
なかでも、10年ごとの節目には、威信をかけた軍事パレードを行ってきました。
習主席も、10月1日は過去最大規模の軍事パレードを行って盛大に祝う予定です。
直前の様子を取材しました。
建国記念日まであとわずかとなった北京では、国旗や「熱烈に祝う」などという横断幕が至るところに掲げられています。
書かれていたのは「習主席のもと団結し、社会主義の偉大な勝利へ!」という勇ましいスローガン。
その前で、市民が記念撮影をしていました。
国をたたえる歌を歌っているグループもいました。
「親愛なる祖国よ、これから豊かで強い国に」。
「ワクワクしているわ!中国で生きることは誇りよ」。
当日の行事に向けた訓練や準備も加速しています。
この日、カメラマンが家族と街中を歩いていると…。
上空を、70という数字をつくったヘリコプターの編隊が飛んでいきます。
通行止めになっている道路では、武装警察などが警戒し緊張感が高まっています。
テレビでも、連日、建国記念日のニュースが放送されています。
9月に入って3回、週末の深夜に外国メディアを排除して予行練習が行われました。
市民や兵士のべおよそ70万人が動員されたといいます。
こうした行事の中でも、習近平指導部がとりわけ重要だと位置づけているのが、軍事パレードです。
強力な軍事力を国内外に示し国威発揚につなげようとしています。
パレードでは「世界一流の軍隊」を目指して開発してきたさまざまな兵器が、お披露目されます。
中でも注目は、初めて公開される可能性がある新型のICBM=大陸間弾道ミサイルです。
アメリカ全土を射程におさめるものでアメリカへの強い牽制となります。
「皆さん、楽しみにしていてください。失望はさせません」。
10月1日に向けて盛り上がっていますが…
習主席、顔色が変わりました。
習主席の内心は、やや不安を抱えながらということになるかもしれません。
というのも、この「一党支配塔」を、ともすれば揺るがしかねない事態が起きているんです。
鍵を握るのは、この人、トランプ大統領です。
塔が揺れ、一部が剥がれました。
剥がれた場所には「経済減速」と書いてあります。
いま、中国では経済の減速が鮮明になっています。
原因の1つは、トランプ大統領率いるアメリカとの貿易戦争です。
アメリカによる関税の上乗せは確実に中国経済に打撃を与えています。
対立の出口が見えない中で、今後も、安定した経済成長を続けられるか見通せなくなっているんです。
そして、この「一塔支配塔」を揺るがしかねない要因はまだあります。
また揺れて、そして、また何か剥れました。
「香港問題」と書いてあります。
香港といえば、連日報道されている、デモ。
「一党支配塔」を揺るがしかねないもうひとつの要因が、長期化する香港政府に対する抗議活動です。
依然として、収まる気配はありません。
中国共産党としては、中国の一部である香港での抗議活動をいつまでも解決できなければ、いずれは、中国本土にも、民主化を求める動きとして、飛び火しかねないと恐れているんです。
香港の様子を現地の若槻支局長に聞きました。
こちらではお祝いとは正反対の雰囲気です。
いまこの時間も、ネット上の呼びかけに応じて、大勢の市民がデモ行進をしていて、一部で、警官隊が催涙弾を発射するなど衝突も起きています。
10月1日当日には再び、デモ行進が呼びかけられています。
香港政府は先週、事態の打開を図ろうという行政長官と市民150人との対話を行ったんですが、
「3か月以上、市民が街に出て要求を突きつけているのに、何を求めているのか、まだわからないのか?」と不満をぶつける人たちが相次ぎました。
「対話は無意味だった」と切り捨てる人たちも多く、政府や警察に対する反発は全く弱まっていないと感じます。
一連の抗議活動は、すでに100日が過ぎました。
10月1日はひとつの山ではありますが、むしろ多くの人は11月下旬に行われる各地区の議員選挙を見据えています。
デモに参加している若者達が多く立候補すると見られていて、抗議活動が選挙活動と一体となって大きなエネルギーになると見られています。
5年前の雨傘運動はデモへの反発の声も上がり、およそ2か月半で収束しました。
しかし今回は政府や中国に対する反発が日を追うごとに増し、市民がより団結していて収まる気配はありません。
11月の選挙で民主派の立候補が認められないケースなどがあれば人々の反発はいっそう激しさを増し、
香港の混乱はさらに深まっていくことになります。
このままで、中国共産党の「一党支配塔」は大丈夫なのでしょうか。
[中国共産党は、一党支配を守るために、いろんな事をしてるんだヨーソロー!]
新聞やテレビでは、中国共産党にとって都合の悪いことは、報道させません。
インターネットでは、個人の書き込みも監視し、批判はすぐに削除しています。
犯罪を取り締まる警察も、判決を下す裁判所も、中国共産党の方針に従います。
たとえ政府に不満があっても、自由な選挙はやりません。
中国共産党のメンバーは、中国に9000万人もいますが、中国の人口はその15倍の14億人近くもいます。
いくら目を光らせて抑え込んでも、すべての人を納得させることはできません。
中には反発する声もあって地方レベルでは、ときに不満が爆発することさえあります。
これは3年前に為井デスクが取材した、中国の農村部の様子です。
まだ貧しい家も多く、貧富の格差への不満が根強くあることを実感しました。
人々の不満は、ときに政府に直接向かうこともあります。
こちらは、地元政府が計画した工事に反発した住民の抗議活動です。
政府庁舎に乗り込み、計画を中止に追い込みました。
さらに、中国の少数民族の中には政府の政策が抑圧的だなどと不満を持つ人もいて、過去にはウイグル族による大規模な暴動につながったケースもありました。
中国政府は、いま、100万人ものウイグル族の人たちを不当に拘束していると、国際社会から批判を受けていて、くすぶる不満を力で抑え込もうとしています。
ただ、これまでは、国が発展するなかで、比較的多くの人はとりあえず自分の生活は良くなっているからと、受け入れてきた形です。
ただ、アメリカとの貿易戦争の影響で経済がさらに減速すれば、国民の生活への影響は避けられません。
また、そこに、香港の抗議活動も影響が飛び火すれば、批判の矛先は中国共産党にも向かいかねません。
うまく対応しないと、この「一党支配塔」がさらに大きく揺れかないってことなんですね。
そこで習主席がいま、一番頼りにしているのがこちら。
「愛国心」です。
国民の愛国心を高めて「一党支配塔」を安定させようとしているです。
その様子を取材しました。
毎日、日の出とともに行われる国旗掲揚式では、建国70年を控え、これまでよりも多くの人々が訪れています。
中には、国旗掲揚の様子をスマートフォンで生中継している男性も。
「祖国ばんざい!国は豊かに、国民は強くなる!」。
国営メディアは建国70年に向けて、宣伝を強化してきました。
連日「国旗」を愛国心の象徴に見立てた歌を放送しています。
「国旗は私の誇りだ。国旗は私の生命以上に重要なのだ」。
さらに中国政府は、これまでの発展の成果を披露する展示会を開き、人々の愛国心を高めようとしています。
展示会には、建国以来の歴史とともに、世界で初めて月の裏側に着陸した探査機「嫦娥4号」や、初の国産空母の模型などを展示。
科学や軍事面での技術の進歩を強調することで、求心力を高める狙いがあります。
そして、アメリカとの貿易戦争で経済の減速が取りざたされる中でも、世界第2位の経済大国であると強調。
国民1人あたりの所得は40年間で24.3倍になったとして、成果を誇示し経済不安を払拭しようとしています。
「米中貿易戦争を恐れていません」。
「これからも中国共産党は、国をさらに輝く時代に導いてくれると思います」。
このような愛国心の強い人々がいる一方で、中国共産党主導の愛国心をあおる宣伝に、冷めた見方をする人も少なくありません。
いまは、中国でもネットを通じて海外の情報がたくさん入ってきますし、年間1億人を超える中国人が海外旅行に行き、多様な価値観に触れる時代なので、露骨な宣伝だけでは、そう簡単に信じません。
このため、愛国心に染まる人と、冷めた見方をする人に分かれていっているようにも感じます。
キーワードは「曲がり角?」。
中国は、課題を抱えるなかであさって建国70年の節目を迎えます。
習主席は一党支配の正しさを強調する演説をするはずで、私は、そこに現状への危機感がどのくらいにじむのか、注目しています。
共産党が、この先も、国民の支持をつなぎとめていくことができるのか。
70年目以降の今後のかじ取りは、これまでより格段に難しくなるはずです。
長い目でみると中国は、歴史の1つの曲がり角にきているのかもしれません。
【この日の時間割】
1.お祝いムードのウラに課題も 中国建国70年
2.アメリカvsイラン 仲介のカギはあの国!?
これでわかった!世界のいま
NHK総合 日曜午後6:05~ 生放送
出演:永井伸一 坂下千里子 Mr.シップ
2019年10月6日のゲストは、初登場!トラウデン直美さんです。
投稿者:永井伸一 | 投稿時間:18:00