コメディアンが大統領に?ウクライナ大統領選挙
2019年4月21日の出演者のみなさんです。
左から、永井伸一キャスター、坂下千里子さん、Mr.シップ、ゲストのハリー杉山さん、国際部権平恒志デスクです。
この日の時間割。
(スリランカ6か所で爆発が起こり、138人が死亡したニュースを冒頭でお伝えしました。)
1時間目「ノートルダム大聖堂火災 その後」
2時間目「ウクライナ新大統領誕生なるか」
3時間目「中国で進むAI医療の実用化」
今月15日の月曜日、フランス・パリのノートルダム大聖堂で大規模な火災が起きました。
セーヌ川の川岸からは、せん塔が失われ、足場だけが残された痛々しい大聖堂の姿が見えます。
大聖堂は倒壊するおそれがあり、周辺は立ち入りが規制されています。
今は、イースターといってキリスト教徒にとって最も大切な祝日の真っ只中です。
市民も「火災のことがいまも信じられない」と話す人が多くいます。
国際部権平デスクが解説しました。
ノートルダム大聖堂は、パリの中心部のシテ島の中にあります。
このシテ島は紀元前から人が暮らし始めた「パリ発祥の地」です。
パリの町は、大聖堂があるシテ島から渦巻き状に広がっていきました。
ちなみに「シテ」というのは英語の「シティー」。
つまり町の語源とも言われているんです。
大聖堂の前には、「ポイント・ゼロ」と呼ばれる印があり、フランス全土の道路のスタート地点になっているんです。
フランス国内のすべての場所は、ここを起点に距離を測っているんです。
ノートルダム大聖堂が、フランス人にとって大切なもう1つの理由があります。
「ノートルダム」というのは、フランス語で「わたしたちの貴婦人」。
つまり、聖母マリアを意味します。
フランス人の多くを占めるキリスト教のカトリックにとって「心のよりどころ」なんです。
ノートルダム大聖堂ができたのは14世紀ごろと言われています。
長い歴史の中で、パリ市民を見守り続けてきた存在です。
今回の火事ではせん塔が焼け落ちてしまいましたが、その先端に取り付けられていた風見鶏が焼け跡から見つかりました。
これが見つかった直後の写真です。
パリ市民にとって市民を見守ってきたお守りのような存在なんです。
今後ノートルダム大聖堂はどうやって再建されるのでしょうか。
フランス政府は失われたせん塔のデザインを公募すると発表しました。
また、マクロン大統領は大聖堂を5年以内に再建したいと訴えました。
この5年という期間については専門家から実現を疑問視する声も上がっています。
損傷の大きさ、再建に必要な人材や資材の確保などを考えると10年以上かかるのではないかという見方も出ています。
フランスのメディアは、これまでに国内外で表明された寄付の総額は日本円で1000億円を超えたと伝えていますが、短期間に巨額の資金が集まったことにより、一部の市民からは、再建に比べて貧困層への支援が後回しにされていると、批判の声も上がっています。
2時間目は、こちら。
ドラマの中で大統領を演じたコメディアンが、本当に大統領になってしまうかも?
まさに、ドラマのような展開が、ウクライナの大統領選挙で起こっているんです。
放送日のこの日、ウクライナでは大統領を決める選挙が行われていました。
次の大統領の椅子を目指して2人が争っています。
ドラマの中で大統領役を演じた新人のゼレンスキーさんと現職のポロシェンコ大統領です。
ゼレンスキーさんが極めて優勢で、約60%の支持を集めてポロシェンコ大統領を圧倒しています。
ゼレンスキーさんは41歳のコメディアンで、政治経験はありません。
当初はあまり注目されていませんでしたが、前評判をひっくり返して一気に選挙戦のトップに躍り出ました。
支持されている理由はというと、選挙の争点にあるんです。
それがこちら。
プーチン大統領のロシアです。
ウクライナとロシアは歴史的にも経済的にも非常に関係が深いんです。
今回の大統領選でも、そのロシアとどう向き合うか問われているんです。
[ウクライナとロシアのふか~い関係をオレが説明しヨーソロー]
ウクライナでは、親ロシアの大統領と、ロシアから自立して欧米の仲間入りをしたい親欧米の大統領が、交互に大統領の座についてきました。
しかし、5年前、親欧米の野党勢力が、親ロシアの大統領を追放してしまいました。
それに怒ったロシアが、ウクライナのクリミアを併合してしまいました。
さらにウクライナ東部もロシアの支援を受けた武装集団が実効支配。
ウクライナ国民の間では、ロシアに対する反発がこれまでになく強まっているんです。
それにより、今回の大統領選挙では、ロシアとどう向き合うのかが大事になっているんです。
そこを見ていくと、ゼレンスキーさんに支持が集まる理由がわかってきます。
まず、現職のポロシェンコ大統領は、反ロシアの姿勢が最も強い「強硬派」です。
クリミアの問題にしろ東部の紛争にしろ「侵略者のロシアと対話による解決はない。力で奪い返す」という姿勢を貫いてきたんです。
しかしそれがうまくいかず、東部では今も戦闘が続きクリミアも結局取り戻せていません。
さらに国内の問題も深刻になっています。
混乱が長引く中で経済は低迷してしまい、政治家や実業家による汚職も深刻化してしまったんです。
だから、国民の間にはこんな声が出ているんです。
「現状を変えてほしい」「平和や安定をもたらしてほしい」
そんな声が高まっているんです。
一方のゼレンスキーさんはロシアに対して「穏健派」と言えます。
まずはロシアと話し合いをしましょうと言っています。
クリミアを取り戻し、東部の紛争を集結させるためには話し合いが出発点ではないかと主張しているんです。
そんなゼレンスキーさんに対する国民の期待が高まっているんです。
ゼレンスキー氏を支持しているイーゴリ・ラビッチさんは、4年前までウクライナ東部の町で雑貨店を経営しながら暮らしていました。
しかし2014年、ウクライナ政府軍と親ロシア派の武装勢力の間で紛争が始まり、ラゴビッチさんの町も戦闘の最前線になりました。
身の危険を感じたラゴビッチさんは家族を連れて首都のキエフに移ってきたのです。
自宅が気になりある日故郷に戻ると、駐留する政府軍の兵士たちが、ラビッチさんの自宅を拠点として勝手に使って荒らしていました。
「再び故郷で平和に暮らしたい。それを実現できるのはいまの大統領ではなくロシアと話し合う姿勢も見せるゼレンスキー氏だ」とラゴビッチさんは考えています。
こうした変化を求める人たちが、ゼレンスキーさんの支持に傾いているのです。
ロシアからすれば、対話を拒否するポロシェンコさんよりも対話の姿勢を示しているゼレンスキーさんに勝ってほしいはずです。
ロシアの国営テレビの番組では、ポロシェンコさんをアニメの豚のキャラクターになぞらえて「卑しい」人物だと批判しているんです。
実はロシアのプーチン大統領にとっては、そこまでする理由があるんです。
というのもプーチン大統領には、気になっていることがあるんです。
NATO(北大西洋条約機構)というのは、アメリカを中心とした軍事同盟です。
青で塗られた地域がNATOの加盟国です。
ロシアに目を光らせています。
ウクライナはちょうどその真ん中にあります。
ロシアにとってはウクライナというのは、NATOに対するいわば防波堤となってきたんです。
仮に、ウクライナがNATOに加盟してしまうと、ロシアはNATOと直接長い国境を接することになります。
現職のポロシェンコさんは「是が非でも加盟したい」と主張していますが、ゼレンスキーさんは「国民投票で決めようじゃないか」ということで、必ずしも加盟ありきではありません。
「コメディアン大統領に笑うロシア」
プーチン大統領は内心では笑みを浮かべているかもしれません。
選挙戦を見ていても、ゼレンスキーさんの主張は具体性に欠けていて、心もとない印象はぬぐえないんです。
政治経験もなく百戦錬磨のプーチン大統領に取り込まれるのではないか、そんな懸念が欧米の間で出始めています。
結果しだいでは、ヨーロッパの勢力図が変わるかも知れない今回の選挙、どうなるのでしょうか。
▼放送の翌日
新人のゼレンスキー氏が当選しました。
ウクライナ大統領に新人のゼレンスキー氏 対ロシアが焦点 | NHKニュース
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190422/k10011892461000.html
これでわかった!世界のいま
NHK総合 日曜午後6:05~ 生放送
出演:永井伸一 坂下千里子 Mr.シップ
2019年4月28日のゲストは、パックンです。
投稿者:永井伸一 | 投稿時間:19:12 | カテゴリ:せかいま美術館 | 固定リンク