2021年06月02日 (水)オンライン選挙は"新しい様式"になったのか?


※2020年7月9日にNHK News Up に掲載されました。

コロナ禍という過去にない状況で行われた東京都知事選挙。「握手の数が結果を決める」選挙運動から「SNSなどがメイン」のこれまでにない形になると期待された。果たしてネット選挙は「新しい様式」として根づいたのか?各陣営のネット選挙を総点検した。

ネットワーク報道部記者 田隈佑紀・國仲真一郎

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「トレンド入り」を目指せ

今回もネットでは抜群の存在感だった。2013年の「ネット選挙解禁」からネットの活用に取り組んできた山本太郎氏は、去年の参議院選挙ではSNSをフル活用し、比例代表の全候補中最多となる99万余りの票を獲得した。

onnrainn.200709.2.jpg都知事選の期間中に陣営がねらったのがツイッターの「トレンド入り」だ。ツイッターにはそのとき注目されている話題が「トレンド」として目立つよう表示される機能がある。陣営幹部によると「トレンド入り」すれば、ネットユーザーの注目度が急上昇し、演説などの動画の再生回数が5倍以上に増えるという。

「Twitterを山本太郎で埋め尽くせ!!」を合言葉に、連日キャンペーンを実施して全国の支持者に呼びかけた結果、複数回にわたってトレンドに入りに成功。陣営も手応えを感じていた。

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ネットユーザーの関心の高まりは「検索データ」にはっきりと表れていた。ヤフーの検索データを分析したところ、東京のユーザーが選挙期間中に候補者の名前をネット検索した回数では、山本氏が再選を果たした小池百合子氏をおさえてトップだった。期間中の検索件数の合計は、小池氏の1.4倍。多くの人が山本氏の情報を知りたがったことは間違いなく、陣営のねらいどおりだったことがうかがえる。

あくまで「ネットは補完」

とはいえ“ネット選挙の先駆者”は、ツイッターのトレンド入りだけで当選につながるとは思っていない。新型コロナウイルスの感染拡大を防ごうと屋外などでの活動を避ける候補もいるなか、山本氏は今回も街頭に立ち続けた。

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陣営幹部は「ネットはあくまで『補完』。支持を広げるには人づてに行う必要がある」と強調。SNSなどネットで関心を高めるとともに、ボランティアへの参加や周囲への働きかけを通じて投票につなげようという戦略だ。

ところが。選挙結果は小池氏の圧勝で、山本氏の得票数は小池氏の5分の1以下にとどまった。ツイッターのフォロワーも選挙期間中に増えたのは9000人足らず、増加率は2%ほどで、新たな支持を十分に集めたようには見えない。ネットでの盛り上がりは見せたが、支持を広げ「一票」につなげる難しさを改めて突きつける形となった。

れいわ新選組 沖永明久事務局長
「ネット上の広がりは前回の参議院選挙に匹敵したと思うが、訴えがSNS世代に絞ったものだと捉えられた部分もあると思っている。ネットの使い方自体は間違っていないが、今後、訴えの内容を含め、全世代に支持を広げていくにはどうしたらいいか考えていく」

「#検察庁法案」の熱気よ、再び

山本氏以上にネットの拡散に期待を寄せていたのが、最年長候補者の宇都宮健児氏の陣営だった。

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「ツイッターでの『#検察庁法改正案に抗議します』の動きが決定的だった。ネットが政治を動かした出来事だと思っている」と話すのは選挙対策本部長の海渡雄一弁護士だ。5月、検察官の定年延長を可能にする検察庁法の改正案に対し、ツイッター上では「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグをつけた投稿が相次いだ。人気タレントなども次々と投稿し、過去に例を見ない驚異的な盛り上がりを見せた。

onnrainn.200709.6.jpg宇都宮健児事務所 海渡雄一 選挙対策本部長

海渡選挙対策本部長
「もしあのような大きなうねりを作ることができれば、選挙結果もひっくり返せる可能性がある」

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陣営が期待したのは「検察庁法」のときも重要な役割を果たした「インフルエンサー」と呼ばれる、ツイッターのフォロワー数の多い人たちの協力だ。陣営ではインフルエンサーの担当を置いて著名人たちに支持を表明してもらうよう働きかける戦略をとり、「#Iamwith宇都宮けんじ」というハッシュタグも作った。「#検察庁法改正案に抗議します」のきっかけとなる投稿をした女性や、タレント、作家、学者などがツイッターなどで支持を表明した。

宇都宮氏を支援する日本共産党のLINE公式アカウントでは「全国SNSいっせい拡散大作戦」として時間を決めて集中的に投稿を呼びかけるなど、ネットを使った「動員」も行われた。

onnrainn.200709.8.jpg日本共産党のLINE公式アカウント

しかし、私たちが、選挙期間中に「#Iamwith宇都宮けんじ」のタグがつけられた投稿を分析したところ、選挙期間中の17日間に投稿された数は、11万2000余り。その半分以上、7万5000ほどは、上記のLINEも送られた選挙期間最終日だが「#検察庁法改正案に抗議します」のタグが最も多かった日(500万超)の1.5%ほど。比較にならない。

海渡氏は「SNSの発信を通じて若者にも一定の支持を広げることができた」としながらも、次のように振り返った。

海渡選挙対策本部長
「『#検察庁法改正案に抗議します』の時も、政治的な発言をしてこなかった人に広がったからこそ大きな動きになっていったので、『広げてください』といってネットを簡単に動かせるようなものではなかった。ネットのユーザーは指図されることを嫌うのはわかっていたことではあったが、訴えを広げるためには重要なことだった」

確かに新しかった、けど

史上2番目の得票数で圧勝した小池氏。期間中、街頭演説を一度もせず、第一声から最後の訴えまですべて「ネット動画」だった。

onnrainn.200709.9.jpgさらに、今回は自宅からインスタグラムでライブ配信したり、オンライン会議システム「Zoom」で大学生と対談する様子なども配信したりして、「ウィズコロナ時代」を体現するような新しい選挙活動を展開してみせた。

こうしたネットでの取り組みがどの程度見られたのか?

小池氏がツイッター上に投稿した動画の中には数十万回再生されたものもある。それらと比べると、街頭演説の代わりに都内の区市町村ごとの訴えを2分から4分程度にまとめ、ユーチューブに投稿した「62区市町村オンライン演説@東京」の再生回数は少なかった。

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都内最多、90万人以上の人口がいる世田谷区向けで1600回余り。衆議院議員時代の地元で、動画の中でも「私の“本拠地”と言っても過言ではない」話していた豊島区でも2200回余りだ。(投票日の5日午後6時時点)

onnrainn.200709.11.jpg都民ファーストの会代表 荒木千陽 都議

「新しい選挙様式」は人々に届いたのか?

荒木代表
「時間や場所の制約なく双方向のコミュニケーションが図れるなどのよい面がある。オンライン選挙の割合はこれからも増えていくと思う」

専門家「だんだんと定着していく」

コロナ禍で行われた今回の選挙戦。私たちの取材に対し、陣営の多くは「ネットの効果は限定的だった」と話す。ネットでどれだけ関心を高めても票にはつながらないということなのか。日本のネット選挙の今後について、専門家に聞いた。

onnrainn.200709.12.jpg全国のネット選挙運動を見てきたNEWPEACE thinktank 増沢諒氏

増沢氏
「自分から情報にアクセスする必要があるネットの特性上、現状では候補者の出す情報を見ているのは支援者や政治に関心のある一部の人で、選挙結果に与える影響は限定的だ。ただ、政治家の発言が動画やテキストで検証できるようになるのは民主主義において重要。これからSNSに親しむ世代は増えていくし、一気に拡大するというより、だんだんと定着していく流れだろう」

政治に触れる教育も必要

政治参加の場を増やすことでネット選挙がより定着していくという指摘もある。

ネット選挙運動に詳しい明治大学情報コミュニケーション学部 清原聖子教授
「アメリカでは、マスメディアが盛んに候補者のSNSの投稿を取り上げることでネットの情報にも人々の注目が集まり、有権者に届く情報量が多くなっている。マスメディア主催の討論会も盛んに行われていて、日本でもこうした議論のための場を増やすことが重要。根本的には中学生や高校生の段階で、リアルな政治に触れる教育をして関心を高めていくことも求められる」

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ネット選挙の現場を歩くと、ネット上に提供される情報量は解禁からの7年で格段に増えたと感じる。ただ、候補者は多くの情報を整理して伝えているだろうか。そして私たちメディアはどうだろう。新たな時代に問われている。

投稿者:田隈佑紀 | 投稿時間:17時59分

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