2020年04月27日 (月)高級化に多様化、なぜランドセルを背負うのか?


※2020年1月15日にNHK News Up に掲載されました。

もうすぐ入学式シーズン。ランドセルに心弾む家庭も多いのではないでしょうか?最近はさまざまな色や素材のものが出る中、実はランドセルにかける費用が年々、上昇しているんです。今、何が起きているのか取材しました。

ネットワーク報道部記者 管野彰彦・ 郡義之

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購入額は右肩上がり

ネット検索で「ランドセル」と入れてみました。すると、色や素材もさまざまなランドセルが出てきます。記者(40代)が子どものころは赤や黒が主流で隔世の感があります。中には、20万円もする高級品も。

kokyu.20200115.2.jpgミキハウスの高級ランドセル

使われている皮は1頭の馬から2枚ほどしか取れない素材で、職人の手作業で仕上げたもの。「ワインレッド」と「黒」との2種類で、それぞれ30個の限定生産ですが売れ行きは上々だといいます。

このランドセルを販売する「ミキハウス」の担当者は「6年間、丈夫でしっかりしたものを使ってほしいという親や祖父母が買い求められています」と話します。実は、ランドセルの平均購入額は、年々上昇傾向なんです。

kokyu.20200115.3.jpgメーカーなどでつくる「ランドセル工業会」や民間のシンクタンクによると、2019年1~2月の時点で平均購入額は5万2300円。2006年は2万9900円だったので、この13年で1.7倍に上昇しています。なぜ、これほど上がっているのでしょうか。

kokyu.20200115.4.jpgニッセイ基礎研究所 久我尚子主任研究員

消費者行動が専門の「ニッセイ基礎研究所」の久我尚子主任研究員が挙げたキーワードは、「少子化」と「お財布事情」です。

久我主任研究員
「少子化の中、子ども1人当たりにかける支出が増えています。さらに、お金を出す主体は、両親だけでなく、双方の祖父母もいるため、いわば6つの財布から支出される『6ポケット』現象が購入額を押し上げているのではないかとみられます」

ランドセルの歴史って?

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ランドセル、どんな歴史があるのか調べてみました。「ランドセル工業会」によると、ランドセルの発祥とされているのは1877年(明治10年)に開校した学習院です。

「学校では皆平等、家庭環境を教育の場に持ち込むのはいけない」という理念のもと、「学用品は自分の手で持ってくるべきだ」として、1885年(明治18年)、馬車や人力車での通学や、子どもたちが使用人に荷物を預けることを禁止しました。

その際に採用されたのが軍隊用の「背のう」でした。荷物を背負うため両手が空き、持ち運びも便利だったからです。この背のうがオランダ語で「ランセル」と呼ばれていたことから、「ランドセル」ということばが生まれました。

さらに1887年(明治20年)には、学習院への入学祝いとして伊藤博文が大正天皇に箱形の通学かばんを献上。これが今のランドセルの始まりとされています。

その10年後、細かい形状や寸法などが統一され「学習院型」と呼ばれるスタイルが完成しました。100年以上たった今も、ランドセルの基本スタイルは変わっていないそうです。

ランドセル、使わないといけないの?
でも、そもそも小学生はランドセルを使わないといけないのでしょうか?その疑問を文部科学省にぶつけたところ、「ランドセルの使用については法律や指導要領などで規定しているものはありません」との回答。なぜ、多くの小学生がランドセルを使っているのか、文部科学省としては把握していないそうです。

kokyu.20200115.6.jpgでは、より現場に近いところではどうでしょうか。NHKの放送センターがある東京・渋谷区の教育委員会に聞きました。すると、やはり「渋谷区では明確な規定はありません」とのこと。

渋谷区ではランドセルを使うべきとも、使ってはいけないとも指導はしていないということで、ランドセル以外で登校しても問題はないそうです。ただし、低学年だと転んだときに危ないといった理由から両手が空くカバンを推奨しているとのことでした。

渋谷区教育委員会の担当者は「日本では小学生はランドセルというイメージが当たり前になっているので、指定はしていなくても多くの児童がランドセルを使っているのではないか」と話していました。

地域で育った独自のかばん
地域によっては、独自の進化をとげたランドセルもあります。北海道小樽市では、多くの子どもたちが「ナップランド」という通学かばんを使っています。

kokyu.20200115.7.jpg「ナップランド」

考案したのは、小樽市内でかばん店を営んでいた村田正行さん。1970年(昭和45年)、市内の小学校教師から子どもたちが使いやすいかばんがないか聞かれたことがきっかけでした。

ナップランドの由来は、「ナップサック」と「ランドセル」を掛け合わせたところから名付けられました。いちばんの特徴は軽さと防水性。坂が多く、雪が多い小樽の地域事情を考慮し、重さは一般的なランドセルの半分程度の660グラム。ナイロン製にして丈夫な作りに。現在の値段も7000円ほどと抑えられています。

kokyu.20200115.8.jpg特に、市教育委員会や学校が指定しているわけではありませんが、市内の多くの小学生が使っているといいます。自身も開発に携わった3代目社長の村田達哉さんは「地域に根ざしたものを作りたかったんです。やはり子どもたちに使い勝手のいいものを提供してあげたいと思っています」と話しています。

ランドセルの再利用やプレゼントも
ランドセルの購入費用が高まるにつれて、気になるのは家庭の経済状況の違いによる「ランドセル格差」。自治体のなかには、子育て支援の一環としてランドセルを再利用したり、プレゼントしたりする動きも出ています。

このうち、福井市では昨年度から不要になったランドセルを集めて必要な家庭に利用してもらおうという事業を行っています。昨年度は100個余りが集まり、このうち57個が譲られたということです。

また、茨城県日立市では市独自のランドセルを作ってすべての新入生に贈っています。その歴史は意外に古く、始まりは45年前。その2年前に起きた第1次オイルショックで物価が上昇し、家庭の経済的負担を軽減するために始まったそうです。

kokyu.20200115.9.jpg日立市独自のランドセル

素材は合成皮革。ファスナー式で黒と赤の2種類から選ぶことができます。これまでに配られたランドセルは10万個以上。このランドセルを使わないといけないという決まりはないそうですが、ほとんどの小学生が6年間使い続けていて、日立市ではランドセルといえばこのランドセルを指すそうです。

どうなる?ランドセル

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取材を進めていくと、必ずしもランドセルの使用を強制されている訳ではないことは分かってきました。とはいえ、現実にはランドセルを選択する人は多いと思います。

では、これからのランドセルはどうなっていくのか。子どもの文化に詳しい大正大学の白土健教授は「原材料価格の高騰や少子化の影響でメーカーが利益を確保するために『プチぜいたく品』として高級価格帯のランドセルを売っていく流れは変わらないのではないか」という見方を示します。一方で、今後はより多様な選択肢の中からランドセルを選ぶ傾向になっていくのではないかと指摘します。

kokyu.20200115.11.jpg大正大学 白土健教授

白土教授
「最近は安くてもおしゃれなランドセルや、荷物が入れやすいとか背負いやすいといった機能性を重視したランドセルも増えてきました。周りの子どもと違うことで自分の子どもがいじめにあうのではと心配する親もいますが、これからはそうした横並びの意識ではなく、子どもたちの個性にあわせたランドセル選びが徐々に当たり前になっていくのではないでしょうか」

投稿者:管野彰彦 | 投稿時間:16時07分

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