2020年02月28日 (金)わかりあえたら、もっとしあわせ
※2019年11月25日にNHK News Up に掲載されました。
「来んのかい 来おへんのかい 来んのかい」
これは“あること”をテーマに募集した川柳の優秀作品に選ばれたものです。なかなか打ち明けられないその悩み。1人で抱え込まずに、きちんと語っていこうという動きがいろんな形で広がっています。“あること”とは…女性の生理です。
ネットワーク報道部記者 井手上洋子
大変なのを生理のせいにできないから
川柳は生理を擬人化した漫画「生理ちゃん」の第2巻が発売されたのを記念して募集されました。
11月から全国で映画も公開された生理ちゃん。強烈な生理パンチを食らわし、血も抜き取っていきます。
一方で「生理って大変だよなー」と言った男性に対して、「大変なのを生理のせいにできないから大変なんだ」と言い聞かせたりします。
生理中に痛みや気分の落ち込みがあっても、がまんしている現実を伝えたのです。
そうした、時に寄り添ってくれる姿が多くの人たちから共感を集めました。
第23回の手塚治虫文化賞短編賞を受賞し、その理由は「生理に対する社会の無理解や偏見を風刺し共感を得られていること」でした。
来んのかい?来おへんのかい?
川柳の選考会
482あった川柳の応募作品。選考会では出版社のさまざまな年代の男女の社員が集まり、優秀賞を選びました。
1「来んのかい 来おへんのかい 来んのかい」
体調や心の状態が大きく変わる生理はさまざなことに影響します。仕事、デート、旅行、試験、コンサートetc。楽しみにしていることや大切なこと、それが近づいた時に生理が来るかどうかは女性にとって大問題なのです。
2「買うときの 抵抗よりも 妻大事」
どうしても買いに行けない妻に代わって夫が生理用品を買いにいく様子を描いています。男性にも生理について考えてほしいと選ばれた句です。その裏には生理について彼氏にも夫にもなかなか話しにくい、つらさを分かってもらえない、もっと生理について知って欲しい、そんな思いが込められているように感じました。
3「替えたくて 替えられなくて 彼の家」
生理中だと彼に伝えられない、伝えられたとしても、替えた生理用品をどうしたらよいのか、たぶんそんな状況だと思います。おそらく男性には“生理は大変なんだろうな”という漠然とした感覚はあるかもしれません。でも痛みや気分の上下がつらいだけでなく、さまざまな悩みがあることを伝えた句だと感じました。
マンガのヒットや集まった多くの川柳は、生理は“隠すもの”という風潮を変えて、現実を多くの人に知ってもらいたいという思いの現れなのかもしれません。
生理休暇がとれない…
女性(31)
「生理の悩みは個人的なことで、上司につらさを伝えても、わがままととられるのが心配なんです」
現実は生理について語ることは難しいと取材にこたえてくれたのは2人の子どもを育てている31歳の女性です。
生理になると冷えやすくなり貧血の症状もでます。冬の間の自転車での外回りなどは特につらいのですが、現実は制度としてある「生理休暇」も取りにくいと言います。
女性(31)
「わがままって思われないか、それが心配なんです」
「生理って女性どうしでも症状や考え方に個人差があり、正直に語ることについても意見が分かれます。だからみんなが共感することは難しいかもしれない。でも、もう少しつらさが語りやすくなると働き方も変わってくるのかなって思います」
男女で語るイベントも
生理を語るイベント
いま、生理について男女で語っていこうというイベントも開かれるようになりました。先月都内で開かれたイベントでは産婦人科専門医の高尾美穂さん、漫画家のさわぐちけいすけさん、フリーライターのトイアンナさんが登壇しました。
会場からは「職場では男性が多いので生理のつらさを理解されにくい」、「つらさに個人差があるので、女性の上司に相談しても『薬飲めば』で終わってしまった」といった声があがりました。
左からさわぐちさん 高尾医師 トイアンナさん
医師の高尾さんは人と比べることをやめることから理解が始まるという意見でした。
高尾医師
「生理のつらさは個々のもので自分の悩みだから自分で我慢するしかないと思う人が多い」
「でもつらさは人と比べるものではなく、いろいろなケースがある。つらいことはもちろん語っていいし、ほかの人がどうなのか比べるのではなく、知ることが大事です」
漫画家のさわぐちさんは男性が生理のことを知る機会が少ないことも理解が広まらない一因と指摘しました。
さわぐちさん
「僕も含めて多くの男性は生理のことに触れる機会がほとんどない。だから腫れ物のように触れてはいけないものと思ってしまう」
「学校でも生理に関わる授業は男女分かれていたように思う。生理が大変なんだっていうのは大学生になり同じサークルの女性から聞いてようやく知った。知る機会がもっとあれば変わっていくと思います」
批判もあるが
生理や身体の悩みを気兼ねなく話せる社会を目指してプロジェクトを立ち上げた企業もあります。
日用品大手のユニ・チャームは「#NoBagForMe」というプロジェクトを6月にスタートさせました。
プロジェクトはインフルエンサーとともに
「生理を語りづらくさせているものは隠すように包まれる紙袋ではと考え、隠す必要のないパッケージデザインを開発しました」
しかしプロジェクトの立ち上げ直後はSNSなどで批判の声が殺到しました。
“袋はいらない”というプロジェクトだと受け取られ、「隠したい人もいる」、「この会社のナプキンは買わない」といった意見がネット上に広がったのです。
ユニ・チャーム 長井千香子ブランドマネージャー
「袋は必要ないというプロジェクトではなく、“なぜ隠すのか”と問いかけることで生理について考えてもらうきっかけを作りたかったんです」
「語ることさえ避けられている生理について、もう少しみんなに考えてもらえれば、同じ悩みを持つどうしがつながるかなと思っています」
生理について考えてもらうプロジェクトは女性のインフルエンサーの人たちにSNSを使って生理の悩みなどを広く発信してもらっています。
今後は「生理における男女・女性間の相互理解」をテーマにトークイベントも開く予定です。
個人差がある生理。もちろんすべての人がデリケートな悩みを話したいわけではありません。ただ語ることがはばかられる雰囲気のままでは理解が進まないのは確かで、生理のマンガに出てきたことばが胸に残りました。
「見えにくくて伝わりづらい困ったアイツ(生理)」
「(でも)わかりあえたら、もっとしあわせ」
投稿者:井手上洋子 | 投稿時間:12時02分