2019年11月19日 (火)「いつもの夏」はいつまで?


※2019年8月30日にNHK News Up に掲載されました。

8月ももうすぐ終わり。皆さんはどんな夏を過ごしましたか?ことしもふるさとでいつもの夏と同じように家族や友だちと花火を見に行った、というあなたは運がよかったのかもしれません。全国で開かれている花火大会、今、次々と中止に追い込まれているんです。

仙台放送局記者 石井石井良周・長崎放送局記者 玉田佳
ネットワーク報道部記者  野田綾・郡義之

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夜空を彩る花火…しかし
8月3日。およそ5000発の花火が夜空を彩った長崎県佐世保市の「させぼシーサイドフェスティバル」。

itu.190830.2.jpgことし15回目を迎えましたが、実行委員会のメンバーには、気がかりなことがありました。かつて420余りの企業からおよそ1200万円集まっていた運営費が、ここ最近は900万円ほどに減少していたからです。

あたり前のように続く夏の一大イベントがなくなってしまう日がくるのでは?

そんな不安が、現実になっているケースが相次いでいます。

itu.190830.3.jpgNHKが全国各地の花火大会を主催する団体などに聞いたところ、この夏、天候や災害以外の理由で中止されたケースが、少なくとも18あることがわかりました。

○○が足りなくて…
「本当に断腸の思いですよ」

山形県との県境に位置する人口1万人余りの宮城県加美町で商工会長を務める中島信也さんは大きなため息をつきました。

地元で32年間続いてきた花火大会の中止を決めたからです。
毎年2500発を打ち上げ、去年は3万人が訪れる地元でも夏を代表する祭りでした。

itu.190830.4.jpg加美町の花火大会(去年)
来場者が減っているわけでもないのになぜ…?
そんな疑問をぶつけてみると、中島さんから思わぬ答えが返ってきました。

「警備員の問題なんですよ」

原因の1つになっているのが、東京オリンピック・パラリンピックの開催です。建設ラッシュや関連イベントが続く中、テロや事件への不安も重なり、警備員の需要が高まっています。そうしたことが警備員の人手不足につながり、小さな町の花火大会の開催に影響が出始めているのです。

itu.190830.5.jpg中島信也さん
「警備会社に相談したら、ことしは費用的に以前の3倍は頂かないと警備員を派遣できないと言われました。民間ボランティアも募集しているのですが、なかなか集まらないのが現状です」

ある地域では、花火大会が中止になった影響で、観客が隣町の花火大会に集中。警備態勢を維持できなくなり、中止に追い込まれるという事態も起きていました。

「地域だけでは限界」

「昔のように、お祭りをそれぞれの地域が維持するのに苦戦しているのが現状です。資金不足、人手不足が直接の要因としてあるのですが祭りに参加してきた人、支えてきた人が減っていることも関係していると思います」

itu.190830.6.jpgそう指摘するのは、地方の現状に詳しいJTB総合研究所の河野まゆ子主席研究員です。

都市部への人口集中、地域のコミュニティーの維持や防災・防犯の担い手となってきた人たちも減少する中、祭りというものに人々が参加する意欲や必要性がなくなってきた社会的な要因も背景にあると言います。

また、地域に根ざした企業や商店街の衰退といった地方経済の変化も要因の一つではないかと指摘します。

違って見えたことしの花火

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ことし5000発の花火が打ち上げられた佐世保市の花火大会。

資金集めにかげりが見える中、新たな試みが行われました。それはクラウドファンディング。

itu.190830.8.jpgクラウドファンディングのHP
観客となる人たちに一口1000円から寄付を募り、金額に応じて大会オリジナルのリストバンドや観覧席などの特典を提供することにしたのです。

呼びかけから1か月半余り。実際に集まった寄付金は16万円と目標金額の5%ほどにとどまりましたが、寄付に協力した人は、いつもとは違う思いで花火を見つめていたようです。

itu.190830.9.jpg寄付の返礼品として用意された観覧席から花火を観賞した女性は、「これまで当たり前に開催されて当たり前に見に来ていた花火ですが、ありがたみを持って観覧することができました」

itu.190830.10.jpg実行委員会の委員長で佐世保商工会議所青年部の井手誠博さんは、「企業だけに運営費を頼っていても限界があると感じています。ことしは多くは集められませんでしたが、来年以降はSNSなどを活用して周知して寄付を呼びかけていきたい。市民に参加してもらって作る祭りにしていきたい」

運営の新たな試みの可能性を感じているようでした。

鍵は「ぐちゃぐちゃ感!?」
地域の夏の風物詩、花火大会が、いつまでも続くために必要なことは?
再びJTB総合研究所の河野まゆ子主席研究員に聞きました。

itu.190830.11.jpg「あるものを無くしたくないと思わせることができれば、それは無くならないと思います。祭りや花火大会など古くから続いてきた大事なものだから残していきましょうというだけでは弱いんですね。ただ無料で花火を見てきれいだったねと帰ってくるよりも、見る人が運営にも参画して、お金を払って、その分、メリットや楽しいことが返ってくる工夫。昔、旅行で行ってきれいだったから続いてほしいねと思ってくれるような遠くに住む方が、寄付することによって規模や仕掛けが変わり、参加者をより楽しませる工夫ができていくといいと思います」
最後に河野さんは、このように話しました。
「夏が終わって日常に戻り、1年後、またカタルシスの日を迎えて、その花火大会を楽しみにみんながやってくる。そのサイクルにうまく結び付けることが大切です。見る人と支え手が一緒になってみんなで作るのが本来の祭りの本質です。楽しみながら参加し、そして見るという昔ながらの『ぐちゃぐちゃ感』にもう一度戻すことが存続の鍵だと思います」

投稿者:野田 綾 | 投稿時間:10時37分

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