2019年10月30日 (水)チケット高額転売、禁止されても続くのはなぜ


※2019年8月1日にNHK News Up に掲載されました。

チケットの不正な転売を禁止する新たな法律・「チケット不正転売禁止法」が、スタートしました。ところが今もネット上では定価を大きく上回るチケットが多数出品されています。「1枚あたり30万円」と定価の40倍を超えるチケットも。今も販売が続く理由がありました。

ネットワーク報道部記者 田隈佑紀

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期待の法律

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“主催者の同意なく、もとの価格よりも高い値段で繰り返し転売したり、転売目的で譲り受けたりすることを禁止する”

ことし6月スタートした「チケット不正転売禁止法」です。

作られた背景には、人気のスポーツやコンサートのチケットが販売開始と同時に買い占められ、「仲介サイト」で定価を大幅に上回る額で取り引きされるケースが相次いでいたことがあります。

会場周辺の「ダフ屋行為」に加え、インターネット上での不正転売も禁止の対象としました。違反したら、懲役や罰金が科されます。高額な転売に歯止めがかかると期待されていました。

今も、堂々と
ところが、今もネット上では、高額転売が続いているという嘆きの声があがり続けています。

chike.190801.3.jpg実際に転売サイトを見てみました。

「30万円」のチケット、甲子園、花火大会も…

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確かに定価を上回るチケットが販売されています。

人気男性アイドルグループのツアーチケットは、3000件以上が出品。多くが定価を超える額です。中には定価の40倍を超える、1枚30万円以上のものも。チケットが「取引中」と表示されているものも多くあり売買が成立している様子がうかがえます。さらに、夏の高校野球甲子園大会、全国各地の花火大会や祭りの観覧席まで定価を大きく上回る価格で販売されています。
SNS上でも、「チケット譲ります」と、定価を上回るチケットを販売する書き込みが堂々と発信されています。違法行為が野放しになっているのではないか。チケット売買を仲介するサイトの社長に電話で聞いてみました。

仲介サイト社長は…
(記者)
定価を大きく上回るチケットが出品されているが違法ではないか。
(社長)
「出品価格自体は、出品者の方が決めることです。あくまで“ファンどうしが納得できる価格で取り引きをする”そのお手伝いをさせていただいています」
「それに同じ人が大量に出品しているような不正転売目的が疑われる場合は、出品をお断りしています。数はいえませんが、相当程度そうした措置はとっています」

あくまでファンどうしの“取り引き”の仲介で、大量出品はさせていないと答えました。

どこからが違法?国に聞いた

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法律を所管する文化庁の担当者に聞きました。

(記者)
今も高額で売られているチケットは違法ではないか。

(担当者)
「個別の取り引きを把握できているわけではないが、現在、高額転売されているすべてが法律違反に問えるとはかぎりません」

(記者)
なぜですか?

(担当者)
「禁止されるにはチケットに“主催者の同意無く有償譲渡を禁止” “購入者の氏名や連絡先を確認”という旨を『チケットに表示すること』などが条件なんです」

「主催者側のそうした対応が間に合わなかったチケットがあると聞いています」

現状では規制の対象にならないものもあるという指摘です。

さらに、今回の規制のポイントは、「業として」転売する行為。

ビジネスとして「反復継続の意思を持って」販売する行為が禁止されています。ネット上では「個人が転売する分には罰せられないのではないか」という独自の解釈も出ています。そこで聞きました。

(記者)
「業として」というと、個人が数回やっても罰せられないということですか。

(担当者)
「そこは今後の捜査機関や司法の判断になってきます。ただ、他の法律(薬事法違反)ではありますが、2か月の間に2回違反をしたケースも“業”と認定されています」

「何十回、何百回も転売しなければ罰せられないというものではないと認識しています。そこを勝手に甘く見積もって、転売している人が多いと考えています」

(記者)
ファンが、大量のチケットを購入して、最良の席以外転売したらどうなんでしょうか。

(担当者)
「不要になったチケットを定価以上で何枚も転売すれば、取締りの対象になる可能性があります」

現在の高額転売のすべてが違法とは言えないものの、法律を甘く見積もって出品しているケースが多いのではないかという見解です。

気になる仲介サイト
そして1つ気になるのが、仲介サイト。転売を仲介しているサイト自体の責任はどうなんでしょうか。

(記者)
違反があった場合、サイト自体の責任は問われないんですか。

(担当者)
「直接の対象となるのはあくまで出品した側です。ただ、不正転売であると知りながら仲介していた場合は、不正転売のほう助などに問われる可能性もあると認識しています」

コンサートを主催する側は
「規制する法律ができたのは大きな前進ですが、『定価を上回るチケット転売はすべて違法』とまではなっていません。法律でカバーできていない部分もあり、転売業者との間でいたちごっこになっている側面もあります」

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こう語るのは国に法律制定を働きかけた音楽コンサートの業界団体「コンサートプロモーターズ協会」の石川篤高額転売対策担当委員です。
残念ながら今回の法律ですべて不正転売が無くなるとは思っていません。電子チケットや、顔認証を導入するなど、技術の力も使いながら主催者側の防止策が必要になってくると考えています」

不正転売は本当になくなるのか
今回の法律制定の大きなきっかけの一つに、嵐やサザンオールスターズ、Mr.childrenなど人気アーティストたちが不正転売に抗議した共同声明があります。そこにはこう書かれていました。

chike.190801.7.jpg「不当に価格を釣り上げて転売する個人や業者が横行している現状に私たちは強い危機感を持っています」

「チケットが本当にほしいファンの手に入らないことに強い憤りを感じています。ファンは、高い金額を払って大きな経済負担を受け、何回もコンサートを楽しめたり、グッズを購入できたであろう機会を奪われています。『チケット不正転売問題』について、皆様にもぜひ一度お考えいただきたいと思います」

われわれは誰にお金を払うのか
この問題を考えてみました。

今回の法律について「自由な取り引きを法律で規制すべきではない」という批判的な意見も根強くあります。「お金さえ払えば人気のチケットでも確実に手に入る現状は便利だ」。そうした声も聞かれます。「需要のあるものは価格が上がる」。経済というものはある一面、そうなのかもしれません。

でも、チケットの価格はこの値段で音楽をスポーツを楽しんでほしいと、主催者が決めたものです。見応えのある姿を観客に見せるために、腕を磨き、練習をし、その対価として、チケット販売という形でお金を受け取ります。われわれも歌手や選手などが受け取ることに納得してお金を払うのです。

chike.190801.8.jpgでは転売されたチケットの場合はどうでしょうか。正規の値段以上の額を受け取るのは、腕を磨いた歌手や選手ではありません。

努力をしていない誰かが、努力で作った価値を転売で横取りするのはどう考えてもおかしい。経済論はさておき、どうしても違和感を感じるのです。

チケットが正規以上の何倍もの値段でしか手に入らないために、憧れの人たちの姿を見ることができない人が間違いなくいます。高額での転売は、そうした人たちの楽しみを犠牲にすることで成り立っていると思います。
「定価を引き上げれば利益が上がることはわかっている。それでもやらないのは、多くの人たちが足を運べるようにしたい、その機会を奪いたくないから」
音楽界が多くのファンがいることで成り立っていることを熟知している音楽関係者のことばです。

私が高額転売を厳しく取り締まってほしいと思うのは、それが多くの人の楽しみを奪い、ファンのすそ野を狭めている、そう思うからです。

投稿者:田隈佑紀 | 投稿時間:10時59分

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