2019年10月11日 (金)ジャニーさんから学んだ"ショー・マスト・ゴー・オン"


※2019年7月10日にNHK News Up に掲載されました。

ジャニー喜多川さんが亡くなりました。ファンは、SNS上であることばを引用し、それぞれの思いを込めてつぶやいています。

「引きこもりになりかけたけど、
ジャニーさんから学んだのはショーマストゴーオン
だから部活行ってくるし 髪も切ってくるし全部やるよ!」
“ショー・マスト・ゴー・オン”に込められた思いとは。

高知放送局記者 野町かずみ
ネットワーク報道部記者 伊賀亮人・ 國仲真一郎

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みずからにあてはめて
9日の訃報に接したファンたちが相次いでつぶやいたことば。

「ショー・マスト・ゴー・オン」
「The Show Must Go On」
「ショーは続けなければならない」という意味です。

共通していたのは、希代のプロデューサーの死を悼みつつも、そのことばをみずからにあてはめてかみしめる姿です。
「さ、我々ファンもショーマストゴーオンを貫こう。仕事や仕事」

「そうだ、ショーマストゴーオンだ化粧落としてお風呂入って
洗濯して寝て仕事だしっかりしろ私」

「喪服っぽい黒い服で出勤しようかなとか思ったけど、
やっぱりショーマストゴーオンなので
むしろふだんよりちゃんとした華やかな格好で出勤することにする」

込められたメッセージとは
そもそもファンの間でこのことばが浸透しているのは、Kinki Kidsの堂本光一さんが19年にわたって主演を続ける人気ミュージカルの影響です。

ブロードウェイで、最高のショーを追い求める若者を描いたこの舞台。

主人公は次のように語ります。
「Show Must Go On
何があってもショーは続けなければならないんだ」
ジャニーズに詳しい江戸川大学の西条昇教授は、単に舞台上で使われるセリフではなく「舞台を通したジャニーさんのメッセージ」だと指摘します。

jani.190710.2.jpg「もともとはアメリカのショービジネスの中で使われていたことばです。ショーには大ヒットもあれば短期間で打ち切りになるものもある。でも何があっても舞台を続けていくんだという思いを表したことばだと思います」

「実際に私はジャニーさんにインタビューをしたことがありますが、その時『ショーほどすてきな商売はない』と語っていました。ジャニーさんは、このことばを通じて事務所のタレントに、エンターテイナーとしてメッセージを伝えたかったのではないでしょうか」

ジャニーさんの日常は
ジャニーさん自身は、このことばにどんな思いを持っていた人なのでしょうか?

みずからの思いを表舞台で語ることはありませんでしたが、私(野町)は、去年まで芸能文化担当の記者として、ジャニーさんと間近で仕事をしてきた人たちと接する機会がありました。

その人たちはジャニーさんは「Show Must Go Onを体現するような、人生を送ってきた」と口をそろえます。

客が娯楽を求めているときに娯楽を提供する

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去年1月 帝国劇場
その1つの例が東京 丸の内の帝国劇場で行う正月公演。ジャニーさんの強い意向を受けて10年前の2009年から初日を元日にしました。
「多くの人たちが仕事を休み、娯楽を求めている人たちに娯楽を提供する」

その考えのもとに始められたのですが、ただ、スタッフは大変です。
元日に舞台の初日の幕が開くということは、大みそかは最後の稽古や舞台の準備に追われ、スタッフは文字どおり、年末年始の休みが取れません。
ファミリーデーで思いを共有
大変な仕事をみんなで乗り切るために、ジャニーさんが考えた粋な計らいがあります。

公演の期間中「ファミリーデー」という日を1日設けて、出演者やスタッフの家族を公演に招くのです。

家族にふだんの頑張りを見てもらって、舞台を楽しんでもらうことで、ショーに携わるスタッフの心を一つにしようという思いからです。

毎日変わる演出

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ショーに対するこだわりはこれだけにとどまりません。
稽古期間だけではなく、舞台の初日が開いてからも毎日劇場を訪れ、演出を日々変えていたというのです。
即興でその日のせりふを変えたり、新たな楽曲を加えたり。
初日と千穐楽ではまるで異なるショー、そんな感想を持つ観客も多いそうです。
関係者の記憶に残るジャニーさんは、「これで100点満点」と満足することはなく、真摯(しんし)なその姿勢は倒れる直前まで変わることはなかったと言います。

フレディの思いもきっかけ?
前述の西条教授によりますと、ジャニーさんが「Show Must Go On」というセリフを舞台で使うようになったのは、1991年。堂本光一さんのミュージカルの原型となった舞台だそうです。

jani.190710.5.jpg実は同じ年に世界的なロックバンド「クイーン」も曲のタイトルに使っていました。
大ヒット映画「ボヘミアン・ラプソディ」のエンドロールで流された曲として記憶にも新しいと思います。
この曲が収録されたアルバムがリリースされたのは1991年2月。
ボーカルのフレディ・マーキュリーが病に冒され死に近づく中でレコーディングされた曲です。

“Empty spaces, what are we living for?”
(空っぽの空間 われわれは何のために生きているのか)

という問いかけから始まり、

“the show must go on”のフレーズで終わります。
そして、曲がリリースされた年の11月にフレディは、エイズのため亡くなったのです。
「今となっては知る由もありませんが、ジャニーさんはもともとこのことばを知っていたはずで、舞台での使用にはタイミング的にクイーンの曲のヒットが関係あるかもしれません。そして2000年代以降はジャニーさんが演出する舞台でより重要な意味合いを持つようになっていきます」(西条教授)

ファンのつぶやきは続く
SNS上では、ファンのつぶやきは今も続いています。
ジャニーさんが自身の戦争体験などをもとに平和の大切さを語っていたことから次のようなツイートもありました。

jani.190710.6.jpg「平和だからショーをするのではなく、
平和の象徴であるショーを“続ける”ことで平和を示し、守っていく。
戦後日本のエンターテインメント界を支える ジャニーズを築き上げた
ジャニーさんの平和への祈りと
Show Must Go Onの精神は絶対に色褪せません」

「Show Must Go On、人生の幕は閉じても、
ジャニーさんがつくりあげたショーはこれからも続いていく。
ご冥福をお祈りします」

投稿者:伊賀亮人 | 投稿時間:16時12分

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