2018年05月29日 (火) 「ありよりのあり」ってあり? なし?


※2018年5月9日にNHK News Up に掲載されました。

アラサー、アラフォーの取材チームは、正直、誰もその意味を理解できませんでした。
「ありよりのあり」
「なしよりのあり」
「ありよりのなし」
「なしよりのなし」
皆さん、どれくらいわかりますか?

ネットワーク報道部記者 飯田暁子・藤目琴実

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<衝撃を受ける>
大学生たちが使っていたこれらの言葉を聞いて、衝撃を受けた取材チーム。

実際、どれほど使われているのでしょうか?

大学生や高校生に向けてウェブサイトなどで情報を発信しているマイナビが、去年、会員の大学生を対象に「ありよりのあり」についてアンケート調査を行っていました。

その結果です。

「『ありよりのあり』を日常的に使っている」107人(26.4%)
「日常的には使っていない」298人(73.6%)

使っている派の意見は「ありかなしかどっちも考えられるときに使う」、
「肯定も否定もしたくないときなどに絶妙なニュアンスが伝わる」
一方、使っていない派は…。「回りくどい」「面倒くさい」などの意見だったそうです。


<どんな時に使うの?>

ari180509.2.jpgどんな場面で使われているのか、ツイッター上で調べてみました。

最もよく使われていたのが、誰かの意見に対して理解を示したり、賛成・反対などの意見を表明するときでした。


<主な使用例>
「学校に行くのがだるいのできょうは休みます」という友人の投稿に「ありよりのあり」と返信。

「連休中、遊びませんか?」という誘いに「連休明けに出張があるから『ありよりのなし』だな」と返信。

「(お菓子を食べた感想として)ありっちゃありだけどなしよりのありだな」など自分の感想や意見を述べるときに使用も。

ただ、戸惑う人も多いようで、「全部ひらがなで読みにくい」「頭が痛くなった、年だね」などの投稿もありました。


<いつから使われてるの?>
「ありよりのあり」はいつごろから使われ出したのでしょうか? 「ありよりのあり」という言葉を含むツイートやリツイートの数を、分析ツールを使って集計してみました。

ari180509.3.jpg私たちがツイッター上で見つけた最も古いものは2010年ごろでした。グラフは1か月当たりの「ありよりのあり」を含むツイート数です。

2014年10月に初めて1000件超え。2016年5月には3万件近くまで増加します。このころ、民放の番組の影響で、評価の際に「アリよりのアリ」や「ナシよりのアリ」という表現を使うことが広がり、ツイートが急増したと見られます。

その後、いったんは1万件ほどに落ち着きますが、じわじわと浸透し、ことし3月には1か月で4万5000件以上となるなど、「ありよりのあり」が定着しつつある様子がうかがえます。


<キャッチコピーに登場>

ari180509.4.jpgこうした中、「ありよりのあり」をキャッチコピーにした商品も出現しました。日清食品グループの日清ヨークが、先月発売した清涼飲料水「ガチすっぱいレモン」です。

“日清ヨーク史上最強のすっぱさ”と銘打ち、パッケージに「キミの評価はいかに!?」という問いかけとともに、「このウマすっぱさ…ありよりのあり!?」という言葉が…。

ずいぶんとがったパッケージだなぁと、日清ヨークに取材を申し込むと、商品企画を担当したマーケティング部の井波さくらさんが、「ありよりのあり」を採用した経緯を教えてくれました。

ari180509.5.jpg日清ヨーク 井波さくらさん
実は、この商品、去年、コンビニ向けに期間限定で販売したことがありました。その味をめぐってSNS上では、「ガチと言うほどすっぱくはない」、「普通に甘いレモンジュース」、「だがうまい」といった投稿が相次ぎ、消費者の中で“ありか?なしか?”という議論が盛り上がったそうです。

こうした消費者からのツッコミに何か返したいという思いから新たなキャッチコピーをと考えたということです。

「弊社の商品はテレビCMなどを打たないので、商品そのものに話題性やSNSで広がるような仕掛けづくりが必要です。コンビニでも総菜コーナーの充実に伴って飲料コーナーの棚は狭まり競争が激しくなっています。『最近うわさの商品だ』と、手に取ってもらえるよう、消費者とのコミュニケーションはとても重要です」(日清ヨーク 井波さくらさん)
ari180509.6.jpg井波さんは「帰ってきた・ガチすっぱいレモン」や「“酸”否両論ありますが…」など15のキャッチコピーを提案しましたが、社長から「おもしろくない」と却下され、ターゲットの若者の心に刺さるキャッチーな言葉を探して、お笑い番組やウェブ記事などをひたすらリサーチしました。
そして10代にはやっている、「ありよりのあり」にたどりついたそうです。

井波さんは、「50代、60代の役員は『なんだ、この言葉?! 全然わからん!』という反応でした。でも『わからないけど、若い人には伝わるんだよね? ならいいよ』と最終的にOKが出ました。誰にでもわかる普通のものより、わからないけど挑戦的なもの、おもしろいものを、という社風に背中を押された気がしました」と話していました。


<もしかして辞書に載ったりする?>
結構、市民権を得てきている感が見えてきた「ありよりのあり」。辞書に載る可能性を「三省堂国語辞典」の編集委員、飯間浩明さんに聞いてみました。

ari180509.7.jpg飯間浩明さん
飯間さんが、まず教えてくれたのは「新しい言葉を辞書に載せる基準は時間的に長く、また幅広い人に使われているか、つまり“定着”しているか、です」ということ。

そして、「『ありよりのあり』は、使っているのが特定の世代に限られていて、世代を超えたコミュニケーションに至っていないため、まだ辞書に載せる段階ではないと思います」と話してくれました。

飯間さんが、「ありよりのあり」という言葉を“捕捉した”のは、2015年ごろ。講師を務めている大学の学生が使っているのを聞き、「新しい“ぼかし表現”が出てきたな」と思ったそうです。

“ぼかし表現”とは、ストレートに伝えず遠回しに表現するもので、例えば、「嫌です」と言う代わりに「結構です」、「大丈夫です」と言うようなものです。

「人とのコミュニケーションには、相手を傷つけないための『あいまいさ』が欠かせません。『微妙』、『いまいち』、『残念』など、いつの時代も形を変えて現れます。『ありよりのあり』は人によって意味合いが違い、よりあいまいなので、優秀な“ぼかし表現”として定着していくかもしれません」(飯間浩明さん)


<え!? ショック>
いろいろ調べてみた「ありよりのあり」。ようやく追いついたと思ったら、ショッキングなことが…。

冒頭の調査を行ったマイナビのティーンズ編集部は、「今もツイッターなどのSNSでは、『ありよりのあり』といった表現を見かけますが、会話の中ではすでに使われなくなってきている」と言います。

もう、終わりかけですか…。

日頃から高校生や大学生と接しているという編集部では、毎年、流行語ランキングを発表するために2~3か月前にアンケート調査をしますが、流行の言葉のはやりすたりのスピードが非常に早く、発表のころには「今は流行していない」言葉になってしまうそうです。

それでも、人間関係に気を遣って意見や感想をストレートには表したくないという傾向は常に見られるということで、編集部は「とても楽しいことを『控えめに言って楽しい』と表現するなど、今後もまわりくどい表現が生まれてくるかもしれません」と話していました。

人間関係に気を遣う若者たちから、次はどんなあいまいな言葉が出てくるのか。「意味がわからない!」などと腹を立てることなく、注目していきたいと思います。

投稿者:飯田 暁子 | 投稿時間:15時25分

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