2018年01月16日 (火)ちょっと待って!その画像


※2017年12月22日にNHK News Up に掲載されました。

イルミネーションに浮かび上がる夜のプールサイド…カラフルなペイントが施された巨大な壁の前… ことしの「新語・流行語大賞」に選ばれた「インスタ映え」する画像がさまざまな場所で撮影されてSNSにあふれています。ところが、そうすることが許されない場所があるのをご存じでしょうか?

ネットワーク報道部記者 管野彰彦

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<#病院なう>
ツイッターなどで検索すると、「病院なう」などというコメントとともに病院内で撮影したと見られる画像が多数見つかります。そのほとんどが診察を待つ自分の姿や入院中に出された食事など一見差し障りのないものばかりです。
実は今、こうした画像がSNSに掲載されることへの対応に苦慮する医療機関が増えているんです。
<撮影で押し問答も>
埼玉県川越市の総合病院「三井病院」は2年ほど前、院内での撮影や録音を一切禁止にしました。きっかけは、ある患者の付き添いの人が診察の様子を撮影してブログに載せようとしたことでした。病院側は撮影しないよう求めましたが「どこにそんな決まりがあるのか」と言われて押し問答になりました。説得の結果、撮影はされませんでしたが、病院側は深刻な問題と受け止めました。


<何が問題なの?>
ツイッターなどに掲載されている病院内で撮影したと見られる画像の中には、明らかに撮影者と無関係な患者や家族などが映り込んでいるとわかるものがあります。

cho171222.2.jpg東京大学医科学研究所 武藤教授

これについて、医療社会学が専門で東京大学医科学研究所の武藤香織教授は、医療機関には極めて機微な情報があふれているとしたうえで、「患者の中には、自分がどんな病気にかかっているのかを知られたくない人、病気によって容姿が変わってしまって他人に見られたくないと考えている人もいる。プライバシーの保護が、より重要になる」と話しています。

また、医療機関には個人情報保護の観点からも撮影などに対して、より慎重な対応が求められると指摘します。医療機関は個人情報保護法で定められた個人情報取扱事業者に該当し、院内には診療記録など多くの情報が保管されています。厚生労働省が個人情報にあたると例示しているのは、診療録や処方箋に加え、X線写真や調剤録など多岐にわたっています。そのため、何気なく映り込んだ文字や記号などが個人情報にあたるかどうか、一般の人には簡単に判別がつかないのです。
武藤教授は「個人情報の保護は一義的には病院側に求められている義務だ。同時に患者側の理解と協力も必要であり院内で一定のルールを設けることが必要だ」と指摘しています。

がんや精神科などの専門病院では、そこにいることがわかっただけで病気が推測できてしまい病名などの個人情報が漏れることで取り返しのつかないことになる可能性もあります。病院という場所そのものが「プライバシーや個人情報の塊」ともいえ、同じように撮影を禁止している公共施設などと比べても、より厳重な対応が求められるべきといえます。

cho171222.3.jpg三井病院ホームページより

先ほどの三井病院もトラブルを受けて、直ちに院内に撮影の禁止を知らせる張り紙を掲示したりホームページで周知したりしました。


<患者側の理解と協力が不可欠>
一方、個人情報を含む画像を職員がネットで公開してしまい、それを教訓として徹底した対応を取ることを決めた病院もあります。

cho171222.4.jpg大阪府済生会吹田病院です。この病院は平成25年に看護師の採用をピーアールする目的で、看護部がブログを立ち上げました。翌26年、新人看護師の研修の画像を公開したところ、部屋のホワイトボードに書かれた入院患者約400人の名前や部屋番号などが映り込んでしまったのです。実際の画像は小さかったのですが、拡大するとおよそ半数、200人分の名前などが判別できる状態になっていました。

別の部署の職員が気付いてすぐに削除しましたが、病院は映り込んでしまったすべての患者に謝罪しました。そして、ホームページで経緯を公表し、グーグルやヤフーといった検索サイトにデータの削除依頼を行いました。病院はこれを教訓として、ネットでの個人情報の流出が絶対に起きないよう徹底した対策を取ることを目指しました。

まずは問題の原因が職員のミスだったので、職員への教育の徹底を図りました。そのうえで、患者側にも一定程度、理解と協力を求めなければ同じようなことが起きかねないと判断。その結果、内部のルールを見直し、両親が赤ちゃんを撮影する場合などの例外を除いて院内では写真撮影と録音を全面禁止にしました。

cho171222.51.jpgそれ以降、重大な事案は起きていませんが毎日大勢の人が出入りする病院ですべての人の行動をチェックするのは不可能で、ルールを定めたあとも知らないところで撮影されてSNSで公開されるケースが年に数件ほどあるといいます。

cho171222.61.jpg吹田病院のネットパトロール

病院では広報の担当者が定期的にネット上をパトロールして、問題のある画像が見つかった場合は削除を依頼する対応を取っています。
病院の寺岡雅恵安全管理室長は「時代の流れとともに個人情報に対する意識が高まってきている。スマートフォンの普及で簡単に撮影できるようになったこともあり患者を守る対策を続けていきたい」と話しています。


<撮影する、その前に>
病院内で退屈な生活を送る患者や励まそうとする家族、友人が何気なく“パシャリ”と写した個人的な画像をSNSで公開する。その行為自体が「悪いことだ」と言い切ることはできません。しかし、そのそばには、他人に知られたくない病を抱えている人の姿や極めて機微な個人情報が気付きにくい状態で存在する可能性があります。誰もがいつでもカメラマンになって撮影した画像や動画を気軽に公開できる時代だからこそ、新しいルールやモラルについて知っておきたいものです。

投稿者:管野彰彦 | 投稿時間:17時56分

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