2017年10月05日 (木) "蚊"に刺されやすいの、誰だ!?


※2017年8月3日にNHK News Up に掲載されました。

『あんた、太っているから蚊に刺されるんだよ』『O型でしょ。蚊がいちばん好きな血だね』まことしやかに流れている“蚊に刺されやすい人”に関するウワサ。一度は耳にしたことがあると思います。でも、それって本当なの?調べてみると、「蚊が好む人」は、確かに存在するようです。日本脳炎やデング熱、ジカ熱、マラリアなど恐ろしい伝染病を媒介する蚊。刺されないためには、どうすればいいのか、さまざまな“蚊の俗説”を検証しました。

ネットワーク報道部 野町かずみ記者

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<“蚊に刺され指数”サイト登場>

ka170803.2.jpg先月、家族で公園で遊んだ日のこと、夫が、腕や足を見せてきます。見ると、二の腕だけで3か所も赤いボツボツが。ほっぺまで赤く腫れ上がっています。「また刺されちゃったよ。あなた(記者)はどう?」蒸し暑い日でしたが、私は全く刺されていませんでした。
そうなんです。私の夫はとても蚊に刺されやすく、同じ場所にいても必ず夫だけが何か所も刺されるんです。

どうしてなのか。気になっていたところ、大手殺虫剤メーカーのインターネットサイトが目にとまりました。その名も「蚊に刺され指数」

ka170803.3.jpg血液型や性別、年齢などの情報を入力したうえで、「肌の色」「汗をかきやすいか」「食べるのが早いか」など、体質や体調についての16の質問に答えていくと、刺されやすさが点数で示されます。

早速、夫について内緒で調べてみました。血液型はO型で、体温が高め、汗っかき、そして食べるのが早い、太め体型。なんと、夫の総合点は90点。「モスキートプリンス(蚊の王子さま)」という称号を頂戴しました。(夫には事後報告しました)

でも、このサイト、何を根拠に蚊への刺されやすさを判別しているのか。サイトを開設したメーカーに聞くと「総合的な知見を基に作っていますが、あくまで楽しみながら、蚊の予防に関心を持ってほしいというのが狙いです」という答え。なにか納得がいきません。取材開始です。


<蚊の大家に聞いてみた!>
“蚊の業界”では、研究者たちのバイブルとされている本があります。
そのタイトルは、ずばり『蚊』。およそ300ページに及ぶこの学術書を手に入れ、眼を通しましたが難しすぎてよくわかりません。

ka170803.4.jpg元東大教授 池庄司敏明さん
そこで、半世紀以上にわたって蚊を研究してきた著者の元東大教授・池庄司敏明さん(84)を訪ねました。
いきなり、どんな人が蚊に刺されやすいか聞くと。「体が大きい人(太っている人)は蚊も見えやすいし体臭も多いから、刺されやすいね。体温が高い人、汗をかきやすい人も刺されやすいですよ」という答え。
意外にも、俗説はそれなりに正しいようです。


<人の吐く息をキャッチ!>

ka170803.6.jpg先生が、まず教えてくれたのは、蚊の「炭酸ガス」(二酸化炭素)の感知能力です。口の辺りにある2本組の「小顎髭」にあるセンサーは、人の吐く息に含まれる炭酸ガスをかぎ分けます。

大気中の炭酸ガス濃度は、0.035%、人の吐く息ではおよそ4.5%。蚊は、なんと、わずか0.01%の濃度の変化がわかり、無風状態で呼気が拡散していった5メートル先でも、感知できるほどだと言います。

ka170803.7.jpg蒸し暑い夜に、ビールをたらふく飲んで歩いてふらふら帰る時、蚊に刺されたことありませんか。飲んだアルコールが体内で消化・分解される時、大量の炭酸ガスが発生します。
それが呼気と一緒に口から排出されるため、蚊が寄ってきやすくなります。『お酒を飲んだ人は蚊に刺されやすい』この説は本当のようです。


<体温の高い人>
次に、先生が教えてくれたのは、蚊の触角にある産毛のようなセンサーです。その数、およそ2000本。この中に、温度を感知するセンサーがあります。

ka170803.8.jpgこちらは、0.05度の変化を察知します。これは人間の10倍ほどの感度です。温度の違いがどれだけ、蚊を引きつけるのか。殺虫剤メーカーのアース製薬に依頼して実験を行いました。
ボックスに蚊をたくさん入れ、その中に人間の体温より少し高い温度のカイロを入れると、それまで飛び回っていた蚊は、次々に引きつけられるように止まりました。蚊は、露出した肌によって温められた空気のわずかな温度の違いをかぎ分けているのです。『体温が高い人は蚊に刺されやすい』→本当


<黒い色が好き>
そして、『蚊は黒い色を好み、白い色を嫌う』という説についても聞いてみました。蚊は、人間と同じように色を認識することはできませんが、人の目には見えない紫外線領域の光の波長で色を見分けていると考えられています。黒、青、赤、褐色、緑、黄、白のシャツを着せて、蚊の飛来数を比較した海外の実験があります。

この実験では、黒が最もよく蚊を誘引、白が最も少なく、黒と白を比較すると大きな差が出ました。また、日焼けしたあとは、蚊に刺されやすいという国内の実験結果もあります。
黒は蚊にとって保護色になることに加え、黒は太陽の熱を吸収しやすく、黒い服を着ると体温が上がりやすいことも蚊を引きつける理由だと考えられています。

ka170803.9.jpgちなみにアフリカで、白黒模様のシマウマとホルスタインの牛に止まる吸血バエ(蚊と同じ吸血昆虫)を観察した研究で、いずれも明らかに黒い部分に多く止まっていたという結果もあるということです。


<汗のにおいが好き 足は汗腺密集地帯>

ka170803.10.jpg2000本のセンサーは、温度のほかにも、汗のにおいのもとになる乳酸や脂肪酸もかぎ分けます。『太っている人』『汗っかきの人』は蚊に刺されやすい。もう説明はいりませんね。

ちなみに、体の部位の中で足が最も刺されやすいという実験結果もあります。足の裏は体の中でも汗腺が密集していて、夏はにおいが強くなるためだと考えられます。


<好きなのはやはりO型?!>

ka170803.11.jpgそして、私が個人的に最も気になっていた説。『O型は刺されやすい』たぶん、俗説に過ぎないと思っていました。
これに関して、日本で唯一、血液型による刺されやすさを実証実験した人が千葉県にいると聞いて訪ねました。

その人は白井良和さん。千葉県八千代市にある害虫防除技術研究所の所長です。白井さんは、血液型の異なる64人に、蚊が入った箱に前腕を入れてもらい、どの血液型の人に蚊が多く止まるか、その割合を調べました。

ka170803.12.jpg害虫防除技術研究所 白井良和所長
その結果、多い順からO型>B型>AB型>A型になりました。O型とA型には統計的に差があり、蚊は、O型を最も好んだのです。

なぜO型なのか。皮膚には、血液型に由来する特定の物質が分泌している場合があり、白井さんは、これが蚊を誘引しているのではないかと、血液型ごとのその物質を肌に塗って蚊の誘引を調べました。

しかし、これについては統計的な差が出なかったということです。白井さんは「刺されやすさにはほかにもいろんな要因があり、あくまで傾向として考えてほしい」と話しています。

血液型の実験は、欧米でも40年ほど前から何度も行われていて、やはり、O型を好む結果がいくつも報告されています。しかし、その詳しい理由は明らかになっていません。


<蚊の“説”から考える予防策>
取材によってわかった、蚊に刺されにくくなる方法、いくつかご紹介します。

ka170803.13.jpg『体を清潔に』→蚊は汗のにおいが大好きです。汗はよく拭いて体を清潔に。特に、汗腺が集まる足の裏を拭くのは効果がありそうです。
『明るい色合い・ゆったりめの服を』→黒っぽい服装はさけ、白や明るい色のものを選ぶ。肌に密着した薄着だと服の上から刺されることもあります。ゆったりめの服を着るといいでしょう。

ka170803.14.jpg『お酒を飲んで外をふらつかない』→飲酒後、外をふらふら歩いていると、呼気の炭酸ガスに誘われ蚊がやってきます。
『運動後の休憩場所に気をつける』→運動したあとは、大量の炭酸ガスと汗が出ます。風通しの悪い木陰で休むと格好の蚊の餌食になります。

ka170803.16.jpg『香水のにおいに気をつける』→蚊は産卵期以外は、花の蜜を吸って暮らしています。花のにおいを模した香水は、調合次第では、蚊を引き寄せることもあります。柑橘系の香水は蚊が嫌がる場合もあります。香水をふだんつけている人は注意してみてください。

(注意:あくまで、蚊に刺されにくくなる効果がある事例であり、蚊に刺されないわけではありません)


<蚊のリスクを知って>
去年、東京の代々木公園で感染者が見つかったデング熱、ブラジルで多くの感染者が出たジカ熱も蚊が媒介する病気。感染リスクを減らすには、できるだけ蚊に刺されないようにすることが大切です。取材で判明した新たな『蚊の説』が少しでも役に立てばと思います。
私は、黒っぽい服しか持っていない夫に白いTシャツをプレゼントすることにしました。

投稿者:野町かずみ | 投稿時間:15時50分

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