2019年11月01日 (金)寺の掲示板が、しみる


※2019年8月6日にNHK News Up に掲載されました。

「ボーッと生きてもいいんだよ」
こんなことばが落ち着いたたたずまいの寺の前に書かれていたらじわじわときますよね。実は今、門前で仏の教えなどを掲げる掲示板に個性豊かなことばが並ぶようになってきています。

ネットワーク報道部記者 野田綾・ 加藤陽平・ 秋元宏美

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ありがたい教えが続々と
冒頭のチコちゃん風メッセージは、石川県加賀市にある恩榮寺の掲示板に掲載されたものです。浄土真宗の教えに基づき「ボーッとしないほうがよいとわかっていても人はボーッとしか生きられないものだ」ということを表現しています。

こうしたメッセージを撮影した画像が今、次々とSNS上に投稿されています。こちらは北九州市にある永明寺の掲示板。

tera.190806.2.jpg先日、タレントが反社会的勢力から金銭を受け取っていた問題が明らかになる中で、同じ事務所に所属する別の有名タレントがつぶやいたことばを意識しています。このメッセージ、いいねが9万を超えています。
「人々のことを心から心配して仏になった阿弥陀如来が、ツイートしたらこんな感じかなと想像して書きました」(住職の松崎智海さん)

輝け!お寺の掲示板大賞

こんな投稿が相次いでいるのは「輝け!お寺の掲示板大賞2019」と題してSNS上でのコンテストが行われているからです。

主催するのは公益財団法人「仏教伝道協会」。去年から始めたこのコンテストはお盆からお彼岸までを含む7月1日から10月末まで、一般の人や寺の関係者が何点でも応募することができます。

考案したのは協会の江田智昭僧侶。江田さんによると掲示板を利用した教えは「掲示伝道」と呼ばれるそうで、近年は使われないことも多くなっていましたが、中には短くインパクトのある教えを掲示する寺もあり、コンテストを思いついたということです。

ちなみに去年のコンテストにはおよそ700点が集まりました。

tera.190806.3.jpg大賞には岐阜県郡上市にある願蓮寺の掲示板、「おまえも 死ぬぞ」が選ばれました。投稿者は「生も死も同等にあること、特別なことではなく当たり前の感覚として、自分にしみこませたいです」とコメントが添えられていました。

2回目のことしはネット上での注目度もさらに高まっているということで、それぞれのお寺でも有名人のことばや歌の歌詞を引用するなどの工夫が見られるということです。

tera.190806.4.jpg江田智昭僧侶
「寺が考え抜いて用意した掲示板のことばには寺の個性と思いが込められるので、ぜひその寺の思いに注目しより深く教えを知るきっかけにしてほしい」

広島の寺はQUEEN
ことしのコンテストにはさらに個性豊かな掲示板が投稿されています。

tera.190806.5.jpg広島市の中心部にある超覚寺の掲示板に書かれているのはイギリスのロックバンド、クイーンのヒット曲の歌詞の一部の和訳です。住職の和田隆恩さんは、毎年、広島原爆の日の8月6日が近づくと核廃絶や平和への願いを込めたメッセージを掲載しているのだそうです。

去年公開された大ヒット映画「ボヘミアン・ラプソディ」を見てこの曲を知り、今月2日に掲示しました。

tera.190806.6.jpg輪げさの“C”は寺の名前とカープを表現
「クイーンの曲にも反戦のメッセージがあるんだと知って驚きました。実は仏教の中にも反戦のメッセージはあります。“兵戈無用”(ひょうがむよう)ということばで、兵士も武器もいらないという意味です。けれど、そのままでは、多くの人の目にとまらないので、若い人や仏教になじみがない人にも伝わるよう、ことしはこの歌詞にしました」(和田隆恩住職)
ちなみに去年の広島原爆の日には、ローマ法王ヨハネ・パウロ2世が1981年に初めて広島を訪れた時に残したことば「広島を考えることは平和に対しての責任を取ることです」を紹介したそうです。

tera.190806.7.jpg広島の寺は宗教の違いを乗り越え平和を訴えるのです。

ネット社会の生きづらさに寄り添う
ネット社会をより強く意識した掲示板もあります。

tera.190806.8.jpg同じく広島市の妙慶院が掲示したこのことば。インスタグラムやツイッターで「いいね!」を求める人たちが多くいる中で、住職の加用雅信さんは、ネット上の評価をあまり気にしなくてもいいのではないかと、なげかけました。

tera.190806.9.jpg加用雅信住職
「『いいね!』自体が悪いわけではないけれど、同調圧力というか『いいね!』に合わせて、本来の自分自身からかけ離れていくのは、苦しいのではないかと思いました」
偶然にも、インスタグラムは今、「いいね!」を非表示にするテストを、一部の利用者を対象に始めています。SNS疲れなどという現象も指摘される中、加用さんは掲示板を通じて、ネット社会で生きづらさを感じる人に寄り添おうとしています。
「以前、IT企業の経営者が、『ネットで苦しむ人たちに現代のお経をつくってほしい』と話していたことに刺激を受けました。現代ならではの苦しみを抱えた人に向けて、物事の見方を少し変えれば楽になれると伝えたいです」(加用住職)

掲示板は寺の顔
少し前までちょっと古くさいことばが並んでいたイメージのあるお寺の掲示板。いつのまにかこんなに魅力的な表現の場になっていました。

クイーンの歌詞を引用した広島市の住職、和田さんは常々「掲示板は、お寺や住職の個性を伝える“寺の顔”」と考え、ことばを考えているそうです。

ちなみにまもなくお盆。去年のこの時期にはこんなことばを選んだそうです。

tera.190806.10.jpgなんだかご先祖様の楽しそうな話し声が聞こえてきそうです。

投稿者:野田 綾 | 投稿時間:12時10分

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