2019年10月30日 (水)わかってあげられなくてごめんね


※2019年8月1日にNHK News Up に掲載されました。

外国にもルーツがある子どもたちをめぐる、いじめの取材をする中で、見た目の違いを理由にいじめられるわが子の気持ちを、十分にくみ取ってあげられていないんじゃないかと思い悩む、1人の日本人の母親と出会いました。見た目の違いからいじめを受けて苦しむ娘を見て、2つの国にルーツがある彼女の気持ちをわかりきれないと感じることもあるそうです。そんなとき、母親は心の中で「わかってあげられなくてごめんね」と謝るのだといいます。

ネットワーク報道部記者 木下隆児

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ようやく会えたね

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ターナー智子さん(仮名)は、アメリカ人の夫との間にもうけた、小学6年生の長女を持つ日本人の母親です。

私が自宅へ取材に訪れたとき、長女は玄関先で待っていてくれました。赤毛の髪を三つ編みに編んで、はにかんだ様子を浮かべながらも、部屋へ案内してくれました。

waka.190801.3.jpgその長女が産まれた時、智子さんは「ようやく会えたね」という気持ちに包まれました。

一方で、日本とアメリカという2つの国をルーツに持つことから、いつか日本を離れてアメリカや、そのほかの国を見たいという気持ちになるのかもしれない。

だから、いつ自分の元を離れても「行っておいで」と送り出せる子育てをしようと決意したといいます。

落ちない口紅

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「長女が小学校に入ると、『ガイジン』『ハーフ人』と言われるようになりました。日本人の肌の色や髪の色は、みんな一緒なことが当たり前だと思っている人が多いのは事実ですが、それは決して当たり前のことではないと、娘に伝えなきゃと思いました」(智子さん)
そう考えて見守ってきましたが、小学2年生のときには、靴箱に「バカ、クズ、ハーフ、死ね」と書かれた紙が入れられていました。

また小学5年生になると、靴を隠されたり、クラス全員から無視されたりするようになりました。
waka.190801.5.jpg学校を休みがちになったため、同級生が連絡帳代わりのメモをポストに入れることになりましたが、そのメモがびりびりに破られた状態だったこともあります。

あるとき、ほかの子よりも唇が赤みがかっていることから、口紅をつけて学校に来ていると先生に告げ口されたことがありました。

先生が「本当に付けてないのか」と繰り返し聞いてくるので、ティッシュで唇が切れるほどごしごし拭いて、口紅がついていないことを示したこともあったといいます。

waka.190801.6.jpg自己肯定感の下がった長女
そんな長女を見ていた智子さんは、以前はあっけらかんとした性格だった長女の気持ちの落ち込み方が激しくなり、自分を肯定する力が下がっていると感じるようになりました。

waka.190801.7.jpg長女は突然、家の中で物を投げつけたり、そうかと思うと、「死にたい」「私なんて消えてしまえばいい」と言いだしたりすることもあったといいます。

私が取材したときも、笑顔を浮かべて取材に応じていたのに、ふとしたきっかけに智子さんに対して声を荒げる場面もあり、精神的に不安定になっていると感じる時もありました。

「正直、長女を見ていて怖かったです。そして悔しかったです。なぜ彼女がこんな思いをしなければいけないのか。それと同時に、私が彼女を産んだからこんなつらい思いさせたのね、ごめんねというふうに決して思ってはいけないと、自分に言い聞かせました。彼女を産んだことを1ミリたりとも後悔したことはないし、彼女が苦しんでいるのは彼女のルーツのせいじゃなく、周りの無知や偏見にさらされているからだ。そう思うように努めました」(智子さん)

みんなと違う

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それでも6年生に進学したある日、こんなことがあったといいます。長女の見た目をからかう児童がいたので、担任の先生がクラス全員を前にこう話しました。
「彼女の肌は白い。髪の毛の色も明るい。みんなと違う。でも変えられないんだから、悪く言ったらだめだ」
このことを知った智子さんは、すぐに担任のところへ抗議に行きました。

「みんな」と長女が、どこが違うのか。違うというなら、肌の色を変えて、髪の色も黒くしないといけないだろうか。

担任はそんなつもりではなかったと謝りましたが、「白い肌というのは褒め言葉でした」と言ったそうです。

沖縄へ移住
同級生からのいじめや、先生の無理解な発言が続き、長女は「あんな先生がいるところに行きたくない」「学校に行きたい場所なんかない」と言って、学校に通えなくなりました。

夫がことしの4月から単身、沖縄で勤務をし始めていたこともあり、智子さんは沖縄に移り住むことにしました。学校側には1学期を終えたら転校することを伝えたといいます。

100%あなたの味方

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智子さんは、長女が見た目の違いからいじめを受け、転校することになったことを振り返り、夫とつきあい始めて感じたことを思い出しました。

アメリカ人の夫と一緒にいるだけで感じる、周りからのものすごい視線。じろじろ見られとても居心地が悪かった記憶。ふだん家族だけでいるときは、夫が白人であるということも、長女に2つの国のルーツがあることも、全く意識はしないし、夫は夫、長女は長女でしかない。

でも外に出ると、長女は、夫と私が感じたような視線を毎日のように浴びている。その感覚を完全にはわかってあげられない。彼女と同じ感覚で理解できれば、彼女の苦しみをもっと共感してあげられるのに。

だから、智子さんは心の中で「わかってあげられなくてごめんね」と謝るのだと言います。

だけど、と智子さんは取材の最後に私に言いました。

waka.190801.11.jpg長女は、おしゃべりな小学生で、キュウリや明太子やフルーツが大好きで、動物が大好き、困っている人を見たら助けずにはいられない正義感の強い子で、球技と部屋の片付けが苦手な1人の女の子です。彼女のことを知れば知るほど、見た目の違いなんてどうでもよくなると思っています。そういうことに1人でも多くの人に気付いてほしいんです。そして私は100%彼女の味方で、絶対守ってあげる。そう思っています」
「外国人“依存”ニッポン」
https://www.nhk.or.jp/d-navi/izon/

投稿者:木下隆児 | 投稿時間:17時17分

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