2019年07月26日 (金)いじめられる理由を教えてください


※2019年3月7日にNHK News Up に掲載されました。

「ガイジンなのに日本人の名前かよ」。その客は、コンビニで働く彼女の胸の「藤原」と書かれた名札を見て言いました。その瞬間、彼女は心がぎゅっと固くなり、なんとも言えない感覚に襲われました。「ガイジン」。幼いころから、繰り返し繰り返しぶつけられてきた、このことば。私はいつになったら“ガイジン”じゃなくなるんだろう。外国にルーツを持つ、19歳の苦悩を聞きました。
(ネットワーク報道部記者 木下隆児)

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<日本生まれ日本育ちなのに>
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パキスタン人の父親とペルー人の母親の間に生まれた神奈川県に住む星玖藤原愛紗さん(19)。日本生まれ日本育ちです。

「ガイジン」。このことばを最初にぶつけられたのは小学1年生の時。当初はなんのことか意味がわかりませんでした。たぶん、悪意はなく、冗談だったんだと思います。

でも、その光景は今も忘れることはできないといいます。戸惑う愛紗さんに、何度も何度も、笑いながらそのことばをぶつけてくる友人たち。そして、その日から、毎日のように、そのことばをぶつけられるようになりました。

「ガイジン なんで日本にいるんだ、帰れよ」。こう言われることもありました。

そして学年が進むにつれ、次第にエスカレートしていき、小学3年生になると、暴力をふるわれることもありました。

通学路が同じ3人の男子たちに毎日のように追いかけ回されて、突き倒されたことも。ズボンが破けて血だらけになったこともありました。お気に入りだったハート柄の傘も壊されました。

「ガイジン、帰れ」。なぜか彼らの顔も、いつも笑っているような表情でした。どうして私だけがこんな目に。いったい、私が何か悪いことをしたというのか。いくら考えてもわかりませんでした。見た目が彼らと少し違うということ以外には。

<逃げ場も、居場所もない >
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愛紗さんもこのころになると「いじめられている」という自覚はありました。でも、先生には相談できませんでした。「ガイジン」とからかわれているところも、追いかけ回されているところも、先生は気づいてくれている。いつか先生の方から手を差し伸べてくれると思っていました。ただ、先生から声をかけてもらうことはありませんでした。

勝手に期待して、あきらめていたのかもしれません。親には心配をかけたくなかったから黙っていました。意を決して「学校に行きたくない」と訴えたこともあったといいますが、怒られるので我慢して通い続けました。

そのころの愛紗さんにも仲よくしてくれる友だちはいました。でも、彼女も無邪気にこう言いました。「愛紗は、なんか違うよね」。こんな何気ないひと言にさえ、身を固くし、心がぎゅっとなってしまいました。

「みんなと同じ」でありたいと強く思うようになればなるほど、「違う」ということばに過敏になっていきました。自分がほかの人と「違う」のではないかと思うようにもなりました。

「私は違うんだ」。なんだか存在を否定されているような、逃げ場も、居場所もないような不安に。そして、どうしようもない孤独感に襲われるようになりました。誰とも話をしたくなくなりました。

<経験を共有できる幸せ>
そんな愛紗さんが救われたと感じた時があります。高校1年生の時、外国にルーツを持つ子どもたちの支援をしている団体が定期的に開いている交流会に参加しました。その場で愛紗さんは、ほかの参加者を前にみずからのいじめられた経験を話しました。すると、周りの子どもたちのほとんどがいじめられた経験あると口を開いたそうです。

「私ひとりじゃないんだ でもそれって・・・」。愛紗さんは、いじめの経験を共有し、理解してもらえて、とても気持ちが楽になった一方で、予想以上にいじめられた経験がある子どもたちが多いことにショックをうけたといいます。

<いじめられる理由は?> 
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外国人だからいじめられるのか? その理由について、愛紗さんが参加した交流会を運営する1人、舟知敦さんに話を聞きました。定時制高校の教諭をしながら、休日は、高校進学を目指すなどする外国にルーツを持つ子どもたちに、ボランティアとして日本語や教科の指導を行っています。
「いじめる側からすると、外国人は見た目や文化の違う『よそ者』だから、いじめていい存在なんです。加えて『外国人』を理由にいじめれば、日本人は、いじめられる側に絶対にならない『安全圏』にいられるという心理的な安心感もあります」

<ほとんどいじめを受けている>
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交流会では、ほとんどの子どもたちがいじめの体験を語るといいます。そもそも日本人どうしでも大人が気付きにくかったり、判断が難しかったりするいじめ。外国にルーツを持つ子どもたちやその家族の場合はなおさら難しさがあるそうです。
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「兄弟や姉妹もいじめられる、親に迷惑をかけたくないという理由で、我慢してしまう子どもたちが多いです。いじめの認定をめぐって裁判を起こそうにも、日本語を十分理解できず、ためらう親もいます。外国人という理由でいじめられるケースは多い。彼らがいじめられる原因ははっきりしていますが、それを防ぐためのマニュアルなどはなく、対応は各学校、あるいは各教員任せになっています」

<把握できない>
いじめを防止するための国の基本方針の中でも、留意が必要な子どもたちの例として、外国にルーツがある児童や生徒を挙げています。

いじめのターゲットにされやすい外国人。そうした子どもたちはどれくらいいるのか。日本の学校で起きているいじめの現状を把握するための調査は、文部科学省が行っている「問題行動調査」があります。ただ、外国にルーツを持つことでいじめられたことがわかる調査項目はありませんでした。

「いじめられた児童や生徒のうち、何人が外国人かを特定する調査はやっていない」(文部科学省担当者)

外国にルーツを持つことを理由に、いじめを受けるという実態はあっても、現状を把握することはできませんでした。

<認めてほしい>
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取材の途中で、ある私の考えが間違っていたことに気付かされました。彼女が、日本人として認められたいのではないかと思っていた私はこう質問しました。

「愛紗さんのアイデンティティーは『日本人』ですか?」

「私はパキスタン人でもあるし、ペルー人でもある。そして、生まれ育った日本人というアイデンティティーもある。どれか一つを選ぶことなんてできません。でも日本には『日本人』と『ガイジン』の2つの枠しかない。私には3つのアイデンティティーがあることを認めてほしいんです」

<彼女のまっすぐな視線の先に>
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外国人材の受け入れを拡大する法律が成立し、将来的に、外国人はさらに増えることも予想されます。一方で、受け入れる側の私たちは十分な準備ができているのか。私は彼女のまっすぐな視線を前に、そう言い切れる自信が持てませんでした。

外国にルーツを持つ子どもたちをめぐる「いじめ」。引き続き経験者の話などを取り上げることを通して、実態に迫ります。

<注目のコンテンツ>
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投稿者:木下隆児 | 投稿時間:14時19分

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