2018年11月08日 (木)音が消える恐怖


※2018年10月3日にNHK News Up に掲載されました。

ある瞬間、突然、自分がどこにいるのかわからなくなる。視覚障害のある人たちは、たびたびその恐怖に直面するといいます。風や雨が強まった時、道しるべの「音」が消えてしまうため、通い慣れたいつもの場所が、見知らぬ場所のようになってしまうのです。荒れた天気の日、街角で困っている人に出会ったら、私たちに何ができるのか、考えてみました。

ネットワーク報道部記者 吉永なつみ・大石理恵・高橋大地

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<台風の日 広がった「お願い」>
台風24号が日本列島に迫った9月30日、SNS上で、ある「お願い」が話題になりました。

「強い風の中で迷っている視覚障害者を見かけたら無理のない範囲で声をかけてほしい」
そして、風の強い日に道で困っていた視覚障害者を手助けしたことがあるという人からは、「音が聞こえなくなると方向感覚を失うと聞いた」という投稿もありました。


<「音」が頼り>
音が消えた世界。視覚障害のある千葉市の工藤正一さん(69)に、どのような状況なのか教えてもらいました。
工藤さんは、外を歩く時、「音」の情報を最も頼りにしているといいます。外出する時は、点字ブロックに沿って歩きながら、道しるべになる「音」を探します。

oto181003.2.jpg例えば、不動産会社の店内で流れている音楽、パチンコ店の音、住宅のドアが開閉する音、自動販売機の飲料がガチャンと落ちる音。雑音のようなこうした音が大切な手がかりになって、自分が今どこにいるのか把握することができるのです。

さらに、歩く方向も、遠くで聞こえる歩行者信号の音や交差点で車が発進する音などが頼りです。

しかしこうした音は、強い風や突風が吹くとかき消されてしまいます。そのとたん、自分が今いる場所や進む方向がわからなくなるといいます。

oto181003.3.jpg「例えるなら、健常者が目隠しをされて上空からすとんと街に放り出された感じでしょうか。風はふだんの音を消してしまうのでものすごく怖いんです」(工藤さん)

交通機関を使う場合も、駅のホームに電車が入ってきた音が聞こえず、乗れない、あるいは、乗ろうとした時にドアが閉まりそうになる場合があるそうです。

oto181003.4.jpgさらに怖いのは、ホームからの転落です。
街なかにいる時と同じように、自分が立っている位置がわからなくなるので、もしかしたら自分が想像しているのとは違う位置にいるのかもしれない、線路に落ちるかもしれないと思って、足がすくむといいます。

「私の場合、助けてほしい時は立ち止まって手をあげる、『すみません』と声を出すなどシグナルを出します。そういう時、声をかけてもらえるととても助かります」(工藤さん)


<雨も大きく影響>
風よりも雨のほうが怖さを感じるという人もいます。
視覚障害のある千葉県船橋市の松川正則さん(62)は、雨の日に傘をさして歩くと、雨の音がうるさいのに加えて、周りの音が傘の中で反射してどの音がどの方向から聞こえてくるのかわからなくなるといいます。

oto181003.5.jpgこのため車がどの辺りを走っているのか感覚がつかめなくなり、道路の端を歩いているつもりがいつのまにか車道に近寄ってしまうこともあるそうです。

松川さんは「雨自体の音の大きさや傘による反射の影響で、歩くことに集中できなくなります。いつもより慎重になり時間がかかってしまいます」と話しています。


<私たちにできること>
街角で視覚障害のある人を見かけたら、私たちはどうすればいいのでしょうか。

oto181003.6.jpg日本盲人会連合情報部長 三宅隆さん
日本盲人会連合の情報部長の三宅隆さんは、台風の時などに限らず、困っている様子がうかがえたら、まずは声をかけてほしいと話しています。

困っていない時に不意に声をかけられると、振り返った拍子に方向が分からなくなってしまうこともあるので、あくまで「困っているように見える」時に声をかければいいそうです。

声のかけ方についても聞きました。

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(1)「声かけは正面や横から」
遠くからだと聞こえないこともあるので、近くに行って声をかけます。また、どの方向から声をかけるかも重要で、後ろからではなく、正面や横からのほうが聞き取りやすいといいます。

(2)「お手伝いしましょうか」
いきなり体に触れると驚かせてしまうし、不安を感じさせてしまいます。まずは「お手伝いしましょうか」「お困りですか」などと声をかけてください。相手が道に慣れている場合は「大丈夫です」などと断られることもあるかもしれませんが、気を悪くしてはいけません。

(3)「荷物に軽く触れる」
風や雨が強い時は、声をかけただけでは気づかれない可能性もあります。2度ほど声をかけても反応がない時は、荷物などにポンポンと軽く触れるとよいそうです。

(4)「白杖には触れない」
白杖は、当事者にとってとても重要な存在です。決して引っ張ったり、触ったりしないでください。

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(5)「必要なサポートを聞く」
介助が必要な場合、「どのように介助しましょうか」と聞くなど、どういったサポートが必要なのか聞くのがよいといいます。

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(6)「半歩前で誘導する」
実際に誘導するときは、白杖を持っていない側で、半歩前に立って、ひじや肩などにつかまってもらい、一緒に歩くのが一般的です。
後ろから背中を押す形で誘導するのは危ないのでやめてほしいといいます。

三宅さんは、「視覚障害のある人たちは天気が荒れている時は物が飛んできたり、道に看板が倒れていたりするので、外出を控えたほうがいいのですが、やむを得ない場合もあります。声をかける方も天気が荒れていると大変だと思いますが、困っている人に積極的に声をかけてもらえるとうれしいです」と話しています。

最近では天気が急変することも珍しくありません。風や雨が強まった時、視覚障害のある人が道で立ち止まっていたら、まずはひと言、声をかけてみませんか。

投稿者:吉永なつみ | 投稿時間:16時54分

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