2018年09月11日 (火)"誰かの一歩に" 初めてのボランティア絵日記


※2018年7月31日にNHK News Up に掲載されました。

岡山県倉敷市真備町。豪雨で泥だらけになった家の片づけを手伝ったボランティアの女性は、家のおばあちゃんから「ええ思い出ができた」と言われました。その理由を書いた絵日記、読むとボランティアに行きたくなります。

ネットワーク報道部記者 鮎合真介・田辺幹夫・國仲真一郎

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<現地で感じた生の声>

dar180731.2.jpgうだるような暑さの中で泥と格闘する毎日。西日本を中心とした豪雨災害の被災地では、全国からボランティアが駆けつけ、心に残ったことを思いのままにツイートしています。

「まだ全然復興がはかどってなくて、俺はガツンと殴られたような気分だった」
「水につかったアルバムとか、額縁に入った七五三の子どもの写真とか、廃棄物コーナーにあってさ…。泣きそうになった」

この中で異彩を放つアカウントがあります。現地での活動を、実に柔らかなタッチの絵日記にして報告している女性です。


<ボランティア絵日記>
そのうちの1枚がこちら。午前10時に、岡山県倉敷市真備町のボランティアセンターで受付を済ませたあとの様子です。

dar180731.3.jpg文章による説明も添えられ5人1組になるようにチーム分けが行われたあと、それぞれの役割を決める際にはみんなが自発的に声をあげる様子がわかります。

絵日記を描いた女性は熱中症予防のために活動時間をチェックするタイムキーパーを担当しました。


<キンキンに冷えたバスでお迎え>
注意事項の説明が終わると、さっそくバスで移動。この様子も描かれています。「キンキンに冷やしておきましたよ~」と元気に手を振るのはバスの運転手。ボランティアに来た人を温かく、でも、バスは冷たくして迎えてくれます。大勢のスタッフが見送りつつ備品や食料なども配ってくれたそうです。ボランティアに行く時は食料や飲み物などを自分で用意するのが基本ですが、ボランティアが現地で大歓迎されていることを実感できる一幕です。

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<人生初の災害ボランティア>

dar180731.5.jpg大西沙和さん
絵日記を書いたのは香川県に住む大西沙和さん、29歳。7月27日、人生で初めて災害ボランティアとして参加しました。これまでもボランティアをやってみたいという気持ちがあったものの、1人で参加するのが不安だったほか、体力的にも自信がないことからなかなか一歩を踏み出せなかったそうです。

しかし去年11月までの6年間、ウエディングプランナーとして働いていた岡山県が大きな被害にあったことから参加を決心。趣味の絵を生かして後日、絵日記を書いたそうです。


<茶色くくすんだ街>
続いてはバスで目的地に向かう途中の風景で、次のような文章が添えられています。

「左はこんなに緑がきれいな田んぼがあるのに 右は建物の泥だらけで田んぼはあとかたもなくて街が茶色くくすんでいた」

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<たまねぎ農家で感じたこと>
到着したのは、たまねぎ農家をしている80代のご夫婦の自宅。片づけが進んでいて家具などはもうなかったものの、家の中が泥だらけだったため、泥を片づける作業をしました。しかし、天井や壁にもこびりついた泥が砂ぼこりのように舞い落ちて積もりなくならない様子が描かれています。床下にはまだ泥水がたまっていて「まるで銭湯の湯船のようだ」と記しています。

dar180731.7.jpg庭の地面も厚さ2センチくらいの泥に覆われていました。大西さんは、目の前の木々の葉が土色になっていることも発見。この高さまで水につかったことを思い知らされます。

大西さんが現地を訪れて強く感じたのはこうした「色」や「土のにおい」。事前に見ていたテレビとはまったく違った被災地の現実でした。

「土ぼこりのにおいがして、あたり一面が茶色の世界でした。町全体が一度ダムに沈んで、もう一度姿を現したかのようでした」(大西さん)


<こんなに進んだ!>
泥の片づけだけで予定していた作業時間の3時間はあっという間に過ぎました。途中は現地の人たちが気にかけてくれ、大西さんを含め、体調を崩す人はいませんでした。なにより作業が終わったあと、たまねぎ農家のご夫婦は「こんなに進んだ」と、とても喜んでくれたそうです。


<ボランティアはまだまだ足りません>
今回の豪雨災害が発生してまもなく1か月。この間、広島県、岡山県、愛媛県の3県だけでものべ10万人が被災地で汗を流しましたが、まだまだ足りていません。

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倉敷市真備町でのボランティア活動
理由の1つが、ボランティアの活動時間が限られること。倉敷市では、活動は長くても午前11時から午後2時までの3時間。しかも20分おきに10分の休憩をとるので、実質的な作業時間は1日2時間ほどになります。すべては熱中症予防のためで、倉敷市のボランティアセンターでは次のように話しています。

「熱中症で倒れると、被災した人たちが『自分たちのせいで迷惑をかけてしまった』と、さらに苦しい立場に置かれてしまう。“まだやりたい”“まだできる”と思うかもしれませんが、長期的に支援を続けていくためにも、短い時間で切り上げる勇気も持ってほしい」


<“記念写真”は要注意 SNSも注意して>
大西さんの絵日記は別の意味でも参考になります。というのもボランティア活動の様子を自ら撮影してトラブルになるケースが起きているからです。

倉敷市のボランティアセンターによりますと、参加者が片づけを行った住宅を「記念として」撮影したことに対し、住民から「心情に配慮してほしい」という申し入れがセンターにあったということです。また、被災した住宅の写真がSNS上に掲載されることで、窃盗などの被害にあうリスクも高くなるということです。


<「ええ思い出ができた」>
今回のボランティアで大西さんが最も印象に残ったのが、たまねぎ農家のおばあちゃんの一言でした。活動が終わり、帰るために準備をしていると、「ええ思い出ができた」と声をかけられたのです。

チーム全員がびっくりして「ええ思い出ですか!?」と聞き返すと、「人生つらいこといろいろあるけど、本当につらいことがあるときは、こうやって助けにきてもらえるし、ええ思い出ができた。この家を絶対に直すから、また、お庭もきれいになったら絶対に遊びに来てね」と話してくれたそうです。

大西さんは「心をぎゅーっとつかまれたような気持ち」になったそうです。絵日記には麦わら帽子にほおかむりをしたおばあちゃんの笑顔が描かれています。そして最後に大西さんは絵日記を書いた意図をこう話してくれました。

dar180731.10.jpg「『体力に自信がない』『そもそも経験がない』さまざまな理由で、あと一歩を踏み出せない人たちがたくさんいるでしょう。でもボランティアや現地の人たちは本当にすてきな人たちばかりです。『私にはきっとできない』と思っている誰かの一歩の力になれたらと思って絵日記を書きました」

大西さんも近くまたボランティアに行くそうです。

 

投稿者:鮎合真介 | 投稿時間:17時14分

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