2018年07月04日 (水)外国人材の受け入れ拡大へ すでに現場では...


※2018年6月15日にNHK News Up に掲載されました。

15日閣議決定されたことしの「骨太の方針」には、外国人労働者の新たな在留資格の創設が盛り込まれました。背景にあるのは深刻な人手不足。政府は、生産性の向上を図り、国内人材の確保を推進してもなお存続のために外国人材が必要な業種に限定するとしていますが、それらの業種の現場で目にしたのはすでに「外国人がいなくては成り立たない」現状でした。

ネットワーク報道部記者 飯田暁子・伊賀亮人
水戸局記者 本間祥生

gai180615.1.jpg

<外国人材 新たな在留資格創設へ>
ことしの「骨太の方針」には、外国人材の受け入れ拡大に向けて、介護や農業など業種を限定して最長で5年間の在留を可能とする新たな在留資格の創設が盛り込まれました。対象は、日本で働きながら学ぶいまの「技能実習制度」を修了した人など一定の技能を持った人だとしています。


<データで分析 外国人材の現状>
そこで私たちは、外国人技能実習生についてデータを分析してみました。
技能実習生は法務省の在留外国人統計によればH29年6月末時点で25万人余りとこの5年でおよそ1.7倍に増えています。

gai180615.2.jpg都道府県別で見てみると、技能実習生の数が最も多いのは愛知県で2万6774人。次いで広島県の1万3309人、茨城県の1万2385人などとなっていて、製造業や、農業などの1次産業が盛んな地方で特に多くなっています。

gai180615.3.jpg一方、増加率で見てみると、沖縄県が9.1倍、宮城県が3.9倍、東京都3.4倍、神奈川県2.9倍などとなっていて地方だけでなく東京や神奈川など首都圏でも急増していることがわかります。

逆に、この5年で技能実習生が減っていたのは秋田県だけ。本来は国際貢献の一環として日本で技能を学びそれを本国で発揮してもらおうというものですが技能実習生は「労働力」として全国的に欠かせない存在となっているのです。

gai180615.4.jpg東京など首都圏でも技能実習生が急増している理由について外国人の労働の問題に詳しい首都大学東京の丹野清人教授は「技能実習生を受け入れる場合、受け入れ側が住まいを確保する必要があるが、東京などは家賃が高いため受け入れにかかる費用が高くなってしまい、これまでは地方と比べて実習生の受け入れが少なかった。しかし深刻な人手不足で、高い家賃を払ってでも実習生を受け入れようという企業が建設業や製造業に限らず多くの業種で増えているのだと思う。地方から若年層が集まる東京やその周辺でもそれだけ労働力が足りない状況になっているということだ」と話します。


<外国人を必要としている産業は?>

gai180615.5.jpg技能実習生など日本で働く外国人の数を産業別に見てみると、最新の平成27年時点で最も多いのは製造業の26万1301人。
次いで卸売業・小売業の7万7924人、宿泊業・飲食サービス業の7万3365人などとなっています。

gai180615.6.jpg一方で、平成27年までの10年間の人数の伸び率を見てみると農業が2.2倍、林業が2.1倍、漁業が1.8倍などとなっていて、特に1次産業で急増していることがわかります。

gai180615.7.jpgさらに農業を都道府県別に見てみると、この10年間で最も外国人が増えたのは茨城県の1737人。次いで長野県の1131人、熊本県の1106人、北海道の1071人などとなっていて、農業が特に盛んな地域で外国人が急増していることがわかります。


<農業で外国人が増加 その背景は>
国勢調査を分析してみると、平成27年までの10年間で農業や漁業など1次産業の従事者は全国でおよそ74万人減少し、10年前の4分の3になっています。

そのほとんどは農業で、この10年で70万人、率にして25%も減りました。さらに、従事者の2人に1人は65歳以上の高齢者。

この担い手の減少と高齢化を埋める存在として外国人が欠かせない存在になっているのです。

産業の将来を支える20代・30代の若い世代で見ると、農業に従事している外国人は平成17年には3%余りだったのが平成27年には7%余りと2倍以上になり、今やこの世代では14人に1人が外国人となっています。

gai180615.8.jpgこうした傾向は農業が盛んな地域でより顕著になっています。

農業に従事する20代・30代のうち外国人が占める割合を都道府県別に見てみると、長野県では17.3%、香川県では19.2%。そして最も高い茨城県では29.6%と、外国人の割合は3人に1人にまで高くなっているのです。


<現場では異変も>
北海道に次ぐ全国2位の農業産出額を誇る茨城県。

JA茨城県中央会・県域営農支援センターの丹治功 副センター長は「もし技能実習生がいなくなれば多くの農家が農業を続けられなくなり、茨城の農業は成り立たなくなる」と話します。

そして、実習生が増えるにつれて、現場ではある異変も起きていました。

茨城県鉾田市は全国一のメロンの産地。農業に従事する技能実習生が多く、20代・30代の市民の5人に1人は外国人です。

gai180615.9.jpgこの鉾田市では、特産のメロンの栽培をやめて小松菜など葉物野菜に切り替える農家が急増しているというのです。

実際にメロンから葉物野菜に切り替えた農家の男性は、その理由は技能実習制度にあるといいます。

gai180615.10.jpg技能実習制度では農家は技能実習生と年間を通じて雇用契約を結び、毎月給料を払います。ところがメロン栽培では収入があるのは収穫期のみで、それ以外の時期にも給料を払うのは農家にとっては負担が大きいというのです。

このため鉾田市では1年を通して収穫がある葉物野菜に切り替える農家が続出、メロン農家はこの10年で半減しました。

gai180615.11.jpg技能実習生が産地の作物を変えてしまうという現象まで起きているのです。

メロン栽培をやめた農家の男性は言います。

「技能実習生が入ってくれたことで規模も拡大でき、収益も増えている。今となっては彼らがいない農業など考えられない。技能実習生がいなくなったら農家は終わりだ」

gai180615.12.jpg一方でこうした状況に、農業の担い手問題に詳しい日本農業経営大学校の堀口健治校長は警鐘を鳴らしています。

「これまで通り外国人技能実習生が確保し続けられるとは限らない。すでにほかの国との奪い合いが起きているし、実習生たちそれぞれの国が発展すればわざわざ日本に来なくなる。そうすると日本の農業が破綻するリスクがある」

今後ますます拡大する外国人労働者の受け入れ。彼らとともにどう産業を将来につなげていくのか、根本的な議論が求められています。

投稿者:飯田 暁子 | 投稿時間:16時22分

ページの一番上へ▲