2021年10月20日 (水)レジでのやりとり「私、実は困ってます」


※2020年9月30日にNHK News Up に掲載されました。

スーパーやコンビニエンスストアのレジでの会計。最近、ずいぶんとやりとりが増えたと思いませんか?「お支払い方法は?」「ポイントカードは?」「レジ袋は?サイズは?」確認することが増えた分、スムーズにいかないといらいらしたり後ろに並ぶ人たちの視線が気になったり。
とくにコロナ禍の今は、店員も客もマスク着用、飛沫防止の仕切りもあってお互いの声が聞こえづらく知らず知らずのうちにストレスを感じやすくなっているかもしれません。こうしたレジでの一幕を描いた漫画がツイッターに投稿され注目を集めています。

ネットワーク報道部記者 小倉真依・林田健太

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「レジ袋はいらないです」のつもりが…

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投稿したのは育児の記録をSNSでつぶやいている「うささ」さん。聴覚に障害があり、人の声が聞こえません。

漫画では、レジの店員がマスクを着けるようになったことで、大きな影響がでているうさささんの日常の一場面が描かれています。

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顔の前で手を振り、「レジ袋は必要ない」と伝えようとする、うさささん。ところが、店員から袋を渡されます。

rejideno.20200930.4.jpg実は店員がマスクの下で質問していた内容は「エコバッグはお持ちですか?」。これに対して、うさささんが「ノー」と答えたと勘違いして、求めたことと逆の結果になってしまったのです。

相手のくちびるの動きや表情、状況を予測してやりとりをしているうさささん。送られてきたメールには投稿した理由がこのようにつづられていました。

うさささん
「もしかしたら健常者はコロナ禍による耳が聞こえない人の影響を知らないのでは?と気付き、今回の漫画を描きました。店員側に察してほしいという漫画ではありません。知ってもらいたいだけなのです」

漫画はツイッター上で大きな反響を呼びました。

レジの店員に聞いてみた

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レジを担当する側はどう思っているのか。レジでお客さんが補聴器を付けていることに気付き、筆談で対応した経験がある店員に話を聞くことができました。

レジを担当する店員
「電子マネー、クレジットカード、ポイントの利用など支払い方法が多くあるのもレジ対応時間の長さの原因です。店舗や企業側からクーポンの配布や割引などをやってほしいという指示が出た場合、さらに時間がかかるのでそれも大変です。繁忙期などにたくさん話すことがあると一会計にかかる時間が長く、それが並ぶ原因になるのでは?と危惧しています」

客だけでなく店側もまた、レジでのやりとりをスムーズにするためにどうすればいいか、頭を悩ませながら対応しているようです。

作ってみました!

うさささんの投稿を見て、あるものを作った人がいます。

rejideno.20200930.6.jpg「耳の聞こえないフォロアーさんが、サッと見せられると便利と仰っていた『レジ袋有無カード』、作ってみました」

「レジ袋不要です!」「レジ袋欲しいです!」「あたため不要です!」「不要です!」

投稿したのはイラストレーターの「せるこ」さんです。店員の声が聞こえなかったり店員に言葉を伝えるのが難しかったりするときに使ってもらいたいと、このカードを作ったといいます。

せるこさん
「耳が聞こえない人だけでなく、生活音や話し声などの音が大きく聞こえるなど聴覚過敏でやりとりが大変な人もいます。障害があるなしに関わらず、『こういうのがあったら便利だよね』という思いで作りました。みんなに自由に使ってほしいしコロナ禍で、こうした取り組みがスタンダードになってくれればいいなと思う」

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これらのカード、印刷して財布に入れて持ち歩いたりスマホでこのカードを表示して店員さんに見せたりすることもできます。

せるこさんのもとには、実際に使った人からこんな声が届いているといいます。

「スマホでこのカードを表示したら店員とスムーズにやりとりできた」

「おばあちゃんにプレゼントしたら喜んでくれた」

そのほかにもこんなカードが。

rejideno.20200930.8.jpg印刷して折りたためば“お薬手帳サイズ”に

うさささんの投稿をきっかけにSNSを通じて、サポートの輪が広がっています。

前から身近に存在してた?

こうしたカードや冊子、取材をしてみると、実はずいぶん前から存在することがわかりました。

rejideno.20200930.9.jpg代表的なものが、公益財団法人の「明治安田こころの健康財団」が作成した「コミュニケーション支援ボード」です。

誕生したのはいまから17年前。言葉によるコミュニケーションが難しい重い自閉症や知的障害者を支援する人たちが相手の意思を確認するためのものです。

「はい/いいえ」「ほしい/やめて」「たべたい/のみたい」などの意思表示が絵と文字で書かれていて、当時の養護学校などを中心に、配布されました。

rejideno.20200930.10.jpgその後も、用途にあわせて様々なバージョンが作成され、警察官や救急隊員も携帯して現場での意思疎通に使っているということです。

現在は、買い物に使えるものもあるほか、英語や中国語など複数の言語にも対応していてこの財団のホームページから無料でダウンロードできます。

わかり合うために大切なことは

今回、取材してはじめてこうしたコミュニケーション支援ボードがさまざまな現場に広がっていることも、コロナ禍で日常の意思疎通に困っている人が多いこと、そうした中でも、うさささんのように工夫と気配りを忘れずにいることに気付かされました。

実は、うさささん自身も意思表示カードを作っています。カードからはわかり合うために大切なことが伝わってきます。

rejideno.20200930.11.jpg伝えられることは4つだけ。
「筆談をお願いします」「スマホに向かって話してください」
「袋をください」「袋はいりません」

必ずどのパターンにも最初に「耳が聞こえません」と大きく書かれています。忙しい店員に配慮しつつ、短い時間で確実に伝わるよう、このデザインに行き着いたといいます。

そして、何よりデザインがかわいらしいですよね。

うさささん
「どこまで意思表示をするかとても悩みました。あんまり細かく書き込むと、店員の人が見づらくなりますし、読む情報が多ければ多いほど、最初に見たものを忘れてしまいます。店内が混雑していれば慌ててしまいますし。なので、自分が聞こえないことをまず伝え、今、自分が求めているものを極力シンプルに伝えられるものがよいと思い、今のデザインに至りました」

うさささんからのメールにはこう付け加えられていました。

うさささん
「耳が聞こえない側、店員側、どちらか一方が頑張るのではなく、お互いに支え合える優しい世界になれればと思っています」

投稿者:小倉真依 | 投稿時間:15時32分

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