2019年10月10日 (木)"ごめんなさい"で悲しくなる...悪気はないと分かっていても


※2019年7月8日にNHK News Up に掲載されました。

「車椅子を押してもらってる時、押してくれてる方が周囲に『ごめんなさい、すいません』と頭を下げ続けていると落ち込みます。わたし自身が荷物や邪魔な存在かのように感じてくるからです…」
ネット上に投稿されたこのツイート。
「いいね」と賛同する反応が1万を超えるなど反響を呼んでいます。

ネットワーク報道部記者 大窪奈緒子・ 玉木香代子 ・田辺幹夫

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悪気はないと分かっていても…

gomenn.190709.2.jpg曽塚レナさん(仮名)
投稿をしたのは、曽塚レナさん(仮名・30歳)。
3年前にけがで脊髄を損傷し、車いす生活を送っています。
先週、電車で移動中でのこと。
車いすの介助を申し出た駅員と改札口からホームに向かう途中でした。

『申し訳ございません』
『車いすが通ります』
『ご迷惑をおかけします』

大声で連呼する駅員。

レナさんは、駅員が車いすと乗客がぶつからないよう、注意喚起をしてくれているのはわかっていました。
ただ、悪気はないと分かっていても、何度も繰り返される声かけを
“あまりにも過剰だ”と感じて悲しくなり、思わず断ろうとしたといいます。
「注意喚起が大事だと分かっていても、車いすに乗っている人の気持ちを無視した声かけだと、傷つくこともあるということを知ってほしかったんです」

意見が次々に

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この投稿に、ネット上では、車いすを利用する人や移動に杖を使う人、それにベビーカーを使う母親などから、意見が次々に寄せられています。
「確かに…電車に乗ることが迷惑みたいな感じですもんね。
私は駅員さんと仲良くなることが多いので『通りまーす!』と
伝えてもらってます。
私は笑顔で『ありがとうございます!』と言って通ってます。
目立ってしまうなら堂々として笑顔でモデルのように通ります」
(電動車いす利用者)
「両手杖で歩いているものですが
やはり『ありがとうございます』と言って歩きます。
すみませんより、ありがとうの方が感謝を伝えられる…」
「ベビーカーだと自分も言っちゃう…。
言わなくてもいい社会になればいいけど、結局そんなことは無理だから、
車いす押す人も駅員さんも私も、車いすに乗る人や子供が
悪く言われないように守ってると思うんだよね。
でもかなしいよね」
その一方で「押してもらってるのになんだ」「障害者様だな」などと、否定的な声も相次いで寄せられたといいます。

gomenn.190709.4.jpgこうした意見についてレナさんは、次のように話しました。
「車いすは4輪で幅も大きいので、周囲に気を使ってきましたし、電車内の専用スペースを譲ってもらうと『ありがとうございます』と感謝の気持ちを伝えてきました。ただ、日常で感じたこと、自分の気持ちを知ってほしいと投稿したのに、ここまで否定したり心ない意見が出たりすると、悲しい気持ちになりました」

車いす利用者の心の負担を減らすためには

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NPO法人「車椅子の会サイレントフット」佐藤利章会長
車いすへの理解、啓発活動を行っている神奈川県相模原市にあるNPO法人「車椅子の会サイレントフット」で会長をつとめる佐藤利章さん(55)に話を聞きました。
佐藤さんは、脊髄の病気のため39歳の時から15年以上車いすを利用しています。
「まず大切なこととして、車いすが人にぶつかって転倒してしまうことが、
1番おそろしいということを分かってほしい」
実際、佐藤さんも、新宿駅の中央口からエレベーターのある南口まで長い距離を回り込んで向かわねばならず、誘導してもらった際、駅員がかなり大きな声で「すいません」「ごめんなさい」と近くにいた人に何度も声をかけたそうです。

周囲の人に振り返られて、内心とても恥ずかしかったそうですが、人混みの中、よそ見をしている人やスマートフォンを見ながら歩いている人も多くいて「ぶつかってしまう危険性を思えば、必要な声がけだった」と考えています。

gomenn.190709.6.jpgそのうえで佐藤さんは「声がけを『すいません』『ごめんなさい』ではなく、『ご協力ありがとうございます』にしていただくと、車いす利用者の心の負担がすこし減るのかもしれません。また、車いす利用者も車いすを利用していることに負い目を感じすぎることなく『何も悪いことをしているわけではないのだ』と、自信をもって強くあってほしいなと思います」と話していました。

“ごめんなさい”を何度も言わなくていい社会に

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NPO法人「アクセシブル・ラボ」大塚訓平代表理事
車いすでも外出しやすい社会に向けて取り組んでいる宇都宮市のNPO法人「アクセシブル・ラボ」の大塚訓平代表理事(38)は、日本人は障害者への接し方に慣れていないと指摘します。
「海外に比べて日本人は、障害のある人が身近にいるということに慣れていないと感じます。視野も狭くなりがちで、車いすに気付かず、車いすにぶつかる人もたくさんいるのが現状です」

gomenn.190709.8.jpg「海外に出かけると、周りにいる人が車いすに素早く気づいてくれて車いすをよけてくれ、さらに移動を自然に手伝ってくれるので『ありがとう』の言葉だけで目的地に着くことができる。その一方で、日本では誰にも気づいてもらえず、よけてもくれないので『すいません』を言い続けてやっと目的地に到着します」
自らも事故により10年前の28歳の時から車いすを利用している大塚さん。
「理解が進んでおらず、自宅から出かけにくいと感じる今の現状は残念ですが、それを嘆くだけでは環境は変わりません。車いすへの理解を深め対応に慣れてもらうためにも、車いす利用者はめげずにどんどん外出して『ごめんなさい』を何度も言わなくとも出かけやすい社会をみんなで目指していきましょう」と呼びかけました。

鉄道会社も模索
鉄道会社はどう考えているのでしょうか?
大手私鉄の小田急電鉄に聞きました。

ケースバイケースにはなりますが、車いす利用者を、車いす専用スペースのある車両へと誘導する際、ホームに人が並んでいて乗車を待ってもらう場合には『恐れ入ります』『申し訳ございません』と声をかけるケースが多いということです。

ただ、マニュアルでどういう言葉で協力を求めるのか、決まっているわけではありません。「ご協力いただきありがとうございます」と乗客に声をかける時もあると言います。

gomenn.190709.9.jpg一方、とくに電車が混んでいる時は、声のかけ方1つで乗客との間でトラブルにつながる恐れもあるといいます。

車いすの利用者にとっても、ほかの乗客にとっても、どう対応すれば快適な乗り降りにつながるのか、駅員どうしで話し合うなど日々、模索しているそうです。

小田急電鉄では、車いすを利用する人の目線に立った対応について学ぶことができる研修を受講し、民間のサービス介助士の資格をとるよう駅員などに積極的に呼びかけているということです。

小田急電鉄では「日々、さまざまなケースに遭遇するので、日々の体験やご意見を乗務員同士でも共有することがとても大切だと思います」と話しています。

”すぐ隣の存在として”

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冒頭で紹介した投稿をしたレナさん。

ふだん、車いすで外出していて、自分のためにスペースを空けてくれたり、エレベーターで順番を譲ってくれたりする人もいて「ありがとう」と感謝するケースも多いといいます。
「車いす利用者に優しい社会は、ベビーカーや高齢者にも優しいものだということも感じてきました。“すぐ隣にいる自然な存在”としてコミュニケーションをとりあうことができる社会になっていってほしい」
レナさんの願いです。

投稿者:大窪奈緒子 | 投稿時間:15時59分

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