2019年10月07日 (月)卵子と精子、元気でいるために


※2019年6月28日にNHK News Up に掲載されました。

卵子が老化する、精子の数が減っている…。生殖医療では、現代の人たちが抱える悩みを解決しようと、さまざまな研究が進められています。卵子や精子が元気でいるためにどんな研究が始まっているのか、その発表を見に行ってみました。ストレス社会やインターネット社会、それがどう影響するのか、そんな研究もありました。

ネットワーク報道部記者 牧本真由美

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学会では卵子、そして精子も

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広島市で開かれた「日本卵子学会」学術集会のHPより
行ってみたのは「日本卵子学会」の発表。卵子の学会ですが実は精子も研究しています。広島市で2日にわたって開かれ、最新の研究が発表されていました。不妊治療の手法や薬剤の使い方など、細部をつつく演目が並びます。こうした研究で不妊治療の技術が少しずつ進んでいます。
気になった研究がありました。ストレスがたまると身体に悪い、というのはよく聞きます。それが、身体の内部にある小さな細胞・卵子にも影響するというのです。

ストレスが卵子にも影響?

研究しているのは、大阪市にあるIVFなんばクリニックの胚培養士、中野達也さんです。

rannshi190628.3.jpg“酸化ストレス”の卵子への影響を調べています。私たちは日々の生活で肉体や心に過度な負担がかかると、細胞を傷つける物質が増えた状態になります。これを例えれば“酸化ストレス”が高い状態といいます。

rannshi190628.4.jpg卵子
老化や生活習慣病などの要因になるとされていますが、酸化ストレスは体の内部にある卵子にも影響があるというのです。しかも酸化ストレスが高い状態では、精子と受精したあとの受精卵の成長にも悪い影響が見られるという研究でした。

受精したあとも…
少し詳しくこの研究を聞いてみました。研究は血液中の酸化ストレスが低い人と高い人を比べていました。卵子は精子と受精して、分裂を繰り返しながら成長していきます。

rannshi190628.5.jpg分裂した受精卵
そのいちばん最初の細胞分裂が正常に行われた確率は、酸化ストレスが低い人は平均で42.0%、高い人は24.4%、大きな差です。また、5日目まで順調に細胞分裂して胚盤胞に到達した割合も酸化ストレスが低い人は平均で63.3%、高い人は50.4%、10%以上の差があります。

rannshi190628.6.jpg良好な胚盤胞(左)と不良な胚盤胞
質のよい受精卵の割合も低い人は平均で24.9%、高い人は13.7%で倍近い差が出ていました。この結果から研究チームでは、卵子が体内で作られる時に酸化ストレスが高い場合、その後の受精卵の成長にも影響するとみています。

できるだけストレス少ない生活を
一方で、研究では、酸化ストレスが高くても、それを除去する力が強い人であれば、影響が少なくてすむとしています。どうすれば除去する力が強くなるのかについては、バランスのよい食事や睡眠などをあげていました。
「妊娠してから体を大事にするだけでなく排卵や妊娠前の日常の生活から、できるだけストレスの少ない生活が大事だ。どうしてもストレスとつきあわないといけない場合もβカロテンを多く含む食品をとったり適切な食事や運動、それにビタミンCやEなどのサプリメントの摂取などで改善できる可能性もある。研究を続けていきたい」(胚培養士 中野達也さん)

卵子学会の中に精子も
“卵子”学会ですが、その中には“精子”についてのプログラムがあります。生殖補助医療の先進地、ニュージーランドやオーストラリアで話題になった日本人の研究が発表されていました。インターネットに接続する無線LANの一つで「Wi-Fi」と呼ばれる機器の上に、男性の精子を置いた時、どうなるかという研究です。

rannshi190628.7.jpg研究を行ったのは神奈川県藤沢市の山下湘南夢クリニックの胚培養士、中田久美子さん。一般に流通している無線タイプの機器を使って、電磁波が体外に出された精子に影響があるかどうかを調べたということです。調べたのは本人の了解を得た50人以上の男性の精子です。一人一人の精子を機器の上に置いた場合と、少し離して置いた場合で運動率と死滅率の変化を調べたといいます。

今後も影響調べたい
まずは運動率。いわば元気な精子がどれだけ動いているかを示す値で、実験前は調べた精子の平均が87%でした。2時間後、機器から離れた精子は57.5%(-29.5%)。機器の上では29.5%(-57.5%)
(この動画は繰り返し再生をしています)
死滅している精子の割合は、測定を始めたときは、平均が8.5%。その24時間後、機器から離れた精子は11.8%(+3.3%)。機器の上では67.3%(+58.8)でした。
「精子は1つの細胞なので影響を受けやすいのかもしれない。もちろん体内にある精子に影響があるかどうかはまだわからない。ただ不妊治療の病院で、精子を取り扱う時などに注意することは大切だと思う」
「インターネットは生活に欠かせないものになっているので、今後もどんな影響が考えられるのか研究を進めていきたい」(胚培養士 中田久美子さん)

研究には反論も
この研究には反論もあります。電磁波に詳しい電磁界情報センターの大久保千代次所長に話を聞きました。生活の中には電磁波が出る機器はたくさんありますが、細胞を刺激することによる発熱などの短期的な影響は総務省の電波防護指針によって安全が管理されているそうです。
「指針は人体に影響がないとされる値から、さらに50倍厳しく規制値を設定しています。もちろん市販の機器もこの基準を守っています」(大久保所長)
「電磁波の研究は、周波数に合わせた測定器を用意する必要があったり、電磁波以外の影響を排除した環境で行うことが必要です。それを満たしていない研究は、不安をあおるだけで、科学的根拠があるとはいえないのではないでしょうか」という指摘もありました。

また長期的な影響がないかについても、WHOを中心に世界的に研究が進められていますが、健康へ悪影響があるという科学的に十分な根拠が証明された例はないということです。

縁の下の力持ち
今回の学会では現代の日常の中に不妊につながる要因がなにかあるのではないか。そんな思いで進められている研究が多いように感じました。研究に対して反論もあり、どう考えるかはそれぞれの判断というのが今の実際かなと思います。

rannshi190628.8.jpgまた研究は、胚培養士が行っているケースが多くありました。胚培養士は、医師が採卵したあとの卵子や精子との受精、その成長をつかさどる第一人者です。壁の向こうにいて、不妊治療の患者からは見えませんが、研究は、実際の仕事の合間をぬって、より多くの人が子どもを授かるためにと地道に行われています。この縁の下の力持ちの人たちの研究がどう進んでいくのか、私は注目していきたいです。

投稿者:牧本 真由美 | 投稿時間:17時45分

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